アマゾンが7年ぶりの赤字に転落…なぜIT大手で「想定外の業績悪化」が次々と起きているのか
■各社のビジネスモデルが限界を迎えつつある
GAFAなどが運営する、いわゆる“サブスクリプション型”と呼ばれるビジネスモデルが限界を迎えつつある。主にITなどのチャネルを通じて、特定のサービスを提供することに対して課金するサブスク型ビジネスに関しては、とりあえず需要が一巡したことに加えて、類似のサービスを提供する企業が増えて競争が激化している。ここへきて、従来のペースで収益を獲得することは難しくなっている。
4社の2022年1〜3月期決算を確認すると、アマゾン・ドット・コムは最終損益が赤字に転落した。赤字は15年1〜3月期以来7年ぶりだ。過去2年程度の間に積極的な設備投資を進めた結果、需要を上回る物流設備を抱え込んだ。グーグルの持ち株会社とメタも前年同期比で減益となり、アップルのみが1〜3月期の最高益を更新した。
一人勝ちのアップル含め、どの企業も世界的な物価の高騰や人件費の急騰などに直面している。人員の削減などGAFAのコストカットが加速する可能性は高まっている。
一方で、クラウド・コンピューティング(クラウド)系のビジネスには、まだ伸びる余地がある。目先は物価高騰と世界的な景気後退の同時進行、金融政策の大転換による金融市場の大幅な不安定化などによって一時的に世界各国で設備投資は減少するだろう。ただ、やや長めの目線で考えると、世界経済のデジタル化関連の投資は増える可能性が高い。
■メタは手数料を「2023年までゼロ」にすると決めたが…
ビッグデータの保存、収集、分析などのためにクラウドサービス需要は増加するだろう。GAFA各社が、需要が飽和しつつあるサブスクリプション系のビジネスから、中長期的な成長期待が高いクラウド系の分野に事業展開の軸足を移し、どのようなビジネスモデルを構築するかが注目される。
GAFA各社の事業運営状況を確認すると、企業が顧客に継続的に課金して特定のサービスの利用権を提供するサブスクリプション(サブスク)・ビジネスは成長の限界を迎えているようだ。ポイントは、サブスクはGAFAが高い成長を実現する基礎的要素の一つであることだ。メタの事業運営を確認するとそれがよく分かるだろう。
2021年11月に、メタはサブスクの手数料を2023年までゼロにすると発表した。メタはフェイスブックのユーザーが、気に入ったクリエイターのコンテンツをサブスクするサービスを提供してきた。ユーザーがアップルのプラットフォームを経由してサブスクすると、クリエイターに一定の手数料がチャージされた。
フェイスブックがシェアを急拡大していた環境下、アップルに依拠したサブスク・ビジネスはメタが有力なクリエイターとの関係を強化し、より多くのユーザーを獲得して広告プラットフォーマーとしての競争力を高めるために重要な役割を果たした。
■ユーザーを増やし、広告収入を得るやり方はもう限界
その後、SNS業界に参入したTikTokなどがクリエイターの育成に注力し、より多くの収益機会を提供した。競争が激化し、メタやアップルの手数料は高いと批判が増えた。メタは、アップルのプラットフォームを経由しないサブスクサービスを提供し、手数料を引き下げてクリエイターが収益を獲得しやすくした。それによってフェイスブックの魅力を高め、ユーザーを獲得し、広告収入を増やそうとした。
しかし、その後の株価の推移を見る限り、メタの成長期待は低下している。他の企業が提供するプラットフォームを用いてサブスク・ビジネスを運営し、ユーザーを増やして広告収入を得るビジネスモデルが行き詰まっている。それがサンドバーグCOOの退任に与えたインパクトは大きいだろう。グーグルも“Google Play”にて開発者向けの手数料を引き下げた。
アップルとアマゾンに関しても音楽や動画などのサブスク系事業で競合するサービスは多い。また、アマゾンは人件費やエネルギー資源価格の高騰によって事業運営コストが増えるなどし、2022年1〜3月期決算の最終損益は赤字に転落した。その責任をとってアマゾンでは物流網の拡大を主導した消費者部門のトップが辞任した。
■ネット業界は「巨大サービス」から「個々人」の時代に
サブスク系事業の成長が鈍化する一方で、ネット社会のインフラと呼ぶべきクラウド系のビジネスは成長力を維持している。1〜3月期のアマゾンでは通販事業の苦戦とは対照的にクラウドサービスの収益が堅調に増加した。コロナ禍の発生によって世界経済のデジタル・トランスフォーメーションが加速し、テレワークやビッグデータの分析などのためにクラウドコンピューティングサービスの需要は増えている。
さらに、世界のネット業界は大手のIT企業がサービスを提供する“ウェブ2.0”の時代から、ブロックチェーン(分散型元帳技術)など新しいネットワーク・テクノロジーを活用して個々人がより能動的にネット空間で活動する“ウェブ3.0”の時代に移行し始めた。
デジタル空間において個々人がアバターとして活動するメタバース関連の取り組みも加速している。メタバース社会の本格到来を睨(にら)み、オンラインゲーム事業の強化に取り組む企業が世界的に増えている。いずれにも当てはまることは、クラウドコンピューティング技術の向上が欠かせない。
■クラウド事業の拡大を急ぐアップル
同じことは、アップルにも当てはまる。アップルはiPhoneなどのデバイスで収益を獲得しつつ、ユーザーにApp StoreやiTunes、iCloudなどのサービスを提供することによって高い成長を実現してきた。ただし、足許では世界的な半導体不足の深刻化によってiPhoneの生産に支障が出るなど収益の下押し圧力が強まっている。その状況下、アップルは中国のゼロコロナ政策などのリスクに対応するためにインドでiPhoneの生産体制を強化する。
さらにアップルは演算処理能力を高めた次世代チップの“M2”を発表した。それは、デバイスの性能に磨きをかけ、自社のクラウドなどのサービスの利用を増やすことによってエコシステムを拡大するという同社の決意の表れだ。ウェブ3.0の時代を迎える中でアップルがどのようにデバイスとクラウド事業の競争力向上を目指すかは注目に値する。グーグルも広告などの規制強化に対応して収益を伸ばすためにクラウドビジネスの強化を進めている。
米中の対立やウクライナ危機によってサイバー攻撃のリスクが大きく高まったことを踏まえると、安全性の高いクラウドサービス需要は高まるだろう。
■GAFAであっても「想定外の業績悪化」はありえる
今後、GAFAを取り巻く事業環境は一段と急激に変化する。世界全体で物価高騰と景気の後退が同時に進む恐れが増している。特に、ウクライナ危機などをきっかけに世界全体で物価が急騰していることは深刻だ。
その状況下、インフレ退治のために連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)は利上げやバランスシート縮小を急がねばならない。金利が上昇し、金融市場は大きく不安定化する恐れが高まっている。GAFAのような有力企業であっても想定外に業績が悪化し、クラウドサービスの強化やメタバースの取り組みが一時的に鈍化する展開は排除できない。
そうした懸念が高まる状況下、各社はコスト削減を強化しつつ、新しい取り組みを進め始めた。メタはマイクロソフトとクラウド分野での戦略的な提携を強化し、関連する分野でのビジネスチャンスをより多く獲得しようとしている。アマゾンやグーグルもコストの削減を進めつつ、クラウド関連分野の事業運営体制を強化している。アップルは既存デバイスと自動車の新しい結合を実現するために自動車用アプリケーション“CarPlay”の開発も強化している。
■守りを固めつつ、成長期待の高い分野を伸ばせるか
やや長めの目線で考えると、世界経済全体でデジタル技術の実用化に向けた取り組みは増えるだろう。自動車の電動化は加速し、自動運転技術の研究開発と実用化をめぐる競争が熾烈化する。メタバース関連の事業機会に加えて、世界の企業のサプライチェーン再編も加速する。各国の企業が中国からインド、ASEAN地域などに生産拠点をシフトし始めた。
サプライチェーンの様相が大きく変化する中で、企業が発注した品物がどこにあり、いつ最終目的地に到着するかを効率的に把握するシステム開発は急務だ。いずれもクラウド需要を押し上げる要因になるだろう。
GAFA各社は守りを固めつつも、クラウドなどより成長期待の高い分野での取り組みを加速しなければならない。各社のトップに求められるのは、あきらめずに変化に対応し、新しいビジネスモデルを迅速に確立することだ。それが実行できるか否かが、各社の中長期的な成長に決定的なインパクトを与えるだろう。
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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。
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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)