しつこい告知に不満な人ほど、Windows10へのアップグレードを - 赤木智弘
※この記事は2016年05月07日にBLOGOSで公開されたものです
Windows10(Win10)が発売されて以降、これまでのWindows7もしくは8.1を利用しているユーザーに対して提供されていた無償アップグレードの期限がいよいよ7月29日までと迫っている。Microsoftは、期限の延長はしないことを前提に、Win10への速やかなアップグレードを呼びかけている。(*1)
現在、ぼくのメイン機はMac miniなのだが、予備としてWindows機を持っている。とは言え、もう8年以上前に10万程度で買ったデスクトップ機だ。ハード構成は、メモリとハードディスクを増設したくらいで大きな変更はしていない。OSは最初に買った時はVistaであったが、これをWin7にアップグレードしている。
ここ2、3年は2週間に1回位しか電源を入れていない。電源をいれても、ほとんどの時間をメンテナンスに費やしている。セキュリティ関連やソフトのアップデート。ウィルスの定義などをダウンロードし、更新を行う。必要があれば再起動し、セキュリティ周りを最新のものにして電源を落とす。そんなことをずっと続けていた。
使わないのだから、OSを新しくする必要もないのかなと思っていたが、無償であるということと、セキュリティの問題を考えると、早めにアップグレードをする必要性は感じていた。ただ、互換性を調べるのがめんどくさいなとは思っていた。
とはいえ、必要なデータはすでにメイン機であるMac miniなりクラウド上に移してあるので、もしアップグレードに失敗しても、新しいPCを買えばいいやという気持ちで「えいやっ!」とアップグレードを開始してしまった。クリーンインストールとかめんどくさいことは無しで、そのまま上書きインストールだ。
結果。特に大きなトラブルもなく、アップグレードは成功した。Win7に比べて起動は早くなったし、その他の速度でWin7より重くなった部分も見当たらない。プリンタで名刺を刷るのも問題なかったし、FeliCaのリーダーもちゃんと動作した。
試しにネット上の最新の動画をいくつか見ても、1280x1024の古い液晶で720p(画素数1280x720)ではあるものの、全画面表示で目立ったコマ落ちもなく、しっかりと動作している。さすがに1080p(画素数1920x1080)は厳しかったが、それはWin7の頃と変わらない。 使用頻度が低いために、後になってなにかソフトが動かないとかいうことに気づくかもしれないが、現状ではアップグレードをしたことでの不都合は見られないし、何の不満もない。
ところが、ネット上ではWin10へのアップグレードはすこぶる評判が悪い。
だが、それはWin10そのものの評判が悪いのではなく、Win7や8.1ユーザーに対する、強引なまでのアップグレード喚起が不評をかっているようなのである。
OSの更新プログラムの中に、Win10へのアップグレードを促すプログラムが紛れ込み、事あるごとにアップグレードを要求するそうだ。ネット上では「通知を出さないための設定」が人気の記事になっている。
そうした中には「本人が意図しないタイミングでWin10がインストールされ、勝手にアップグレードされてしまう人」もいるようである。こうしたことはネット上では「悲劇」や「サイバーテロ」として認識されていて、その被害にあった人に対する同情の声が飛んでいる。
しかし、ぼくはそのことに違和感がある。
Win10へのアップグレードについては、その回避手段が色々なサイトに書かれている。もし、そのPCのユーザーがパソコンをそれなりに使いこなせていることができていれば、先手を打って回避手段をとっているはずなのである。実際多くのユーザーは勝手にアップグレードされていないし、告知すら消してしまったユーザーも多い。
結局「Win10に勝手にアップグレードされるユーザーは、十分にPCを使いこなせていないユーザー」なのではないのだろうか。そして、そうしたユーザーにこそ、早急なOSのアップグレードが必要であると思うのだ。
意図しないアップデートを回避できないスキルの人が、古いWindowsを使い続け、サポートが完全終了した時に、果たして自分のPCをウィルスやトロイから守り続けることができるだろうか? ぼくにはとてもそうは思えない。
そうした人たちこそMicrosoftが推奨する通り、Windows10を入れておいた方がいい。アップグレードさえしてしまえばアップグレードを回避し続ける手間もかからず、それなりに安全性も確保される。
業務で特別な機械につないでいるならともかく、メールやネット、ExcelやPowerPointしか使っていないような個人ユーザーが、なまじPCを使えるふりをして、ネットの世論に乗っかってWindows10を忌避する理由などないはずだ。
現在、MicrosoftはOSサポートの基本方針として「OS発売から、メインストリームサポートが5年、延長サポートが5年。合計10年でサポート終了」という予定を挙げている。
メインストリームサポートとは、セキュリティはもちろん、機能拡張などサポート期間。延長サポートは機能拡張などは終了し、セキュリティなどにまつわる修正のみを提供するサポート期間だ。延長サポートが終了すると、新たなセキュリティホールなどが発覚してもOSレベルでの修正は行なわれなくなる。今回の無償アップグレード対象になっているOSのうち、Win7はすでにメインストリームサポートが終了している。延長サポートの終了はWin7が2020年、Win8.1が2023年のそれぞれ1月を予定している。
一見、まだまだ未来の話に思えるかもしれない。しかし今のPC環境を考えると、2020年が遠い未来だとは思えないのである。
かつては個人利用で古いPCを10年も使い続けるということは、あまり考えられなかった。技術の革新は早く、古いPCはすぐに性能不足に陥った。だからPCを使っている人は常に新しいPCを求めたし、OSもマシンそのものの買い替えに合わせて適時アップグレードされていった。それにより、ウェブサイトの表示はリッチになり、かつ早くなったし、動画も大きな画面で再生できるようになった。そしてやがて映像をインターネットから取得して、大きな液晶画面にフルスクリーンで表示できるまでになった。1995年ごろにはPC雑誌に付属していたCD-ROMで、小さくて質の悪い動画を見て喜んでいた時代があったなどとは、嘘のようである。
しかし、映像をフルスクリーンで描写できるようになって以降、PCというのはそこまで大きな技術革新があったわけではない。タッチパネルや3D対応ディスプレイのようなものは出てきたが、決して主流ではない。逆に言えば、一般的な用途においては映像をフルスクリーンで見れれば十分なのであり、それが実現した以上は利用者側に明確な買い替え需要が存在しないということになる。インターフェイスで考えても10年前のPCはすでにUSB2.0が標準であり、今でも接続機器に困ることもない。
もちろん壊れれば買い換えるしかなくなるが、それは壊れるまでは使い続けるということでもある。今、十分に動き、ネットやメールを過不足なく使いこなせるWin7機が2020年以降も使われる可能性は極めて大きい。その時になって、慌てて新しいPCを買うか、それともお金を出して新しいOSを買うかと考えるくらいなら、無償アップグレードができるうちに、やっておいたほうがいい。
最悪なのは、サポートが終わっても使い続けることである。PCに保存されているのは、決して利用者本人のデータだけではない。他人の個人情報や業務に関わる情報が、新たに発見されたセキュリティホールを抜けて流出しかねない。その被害は決して本人が観念すればいいというレベルを大きく超える可能性があることは留意しておくべきであろう。
もちろんWin10にアップグレードすればセキュリティは万全だというつもりはない。だが、OSを適切な状態に保つことは、セキュリティ対策の基本である。PCの寿命が長くなっている今、OSのアップデートができる期間を無料で伸ばすことのできるというこの無償アップグレードの機会を逃す手はない。
個人使用のPCがインターネットに繋がっていることが当たり前になっている今だからこそ、個人ベースでもセキュリティをできうる限り意識することが必要なのである。
Win10の無償アップデートは7月29日まで。もう3ヶ月を切っている。使っている機器やソフトの対応状況をきっちり調べるには時間がかかる。もう躊躇する暇はないと考えたほうがいいだろう。
*1:7月29日で終わるWindows 10無償更新、期間延長は絶対に『ない』 。日本マイクロソフトが明言(Engadget Japanese)