シングルマザーだからという話ではなく - 赤木智弘
※この記事は2014年02月02日にBLOGOSで公開されたものです
NHKのクローズアップ現代で、若年女性の貧困問題が報じられたようだ。(*1)中でも、生活保護を受けようとしたら「調査に２、３ヶ月かかる」といい加減なことを言われたために、風俗で働き出したシングルマザーの話を中心に、Twitterなどで拡散されているようだ。
まず、この件について言いたいことはたくさんあるけど、一番重要な事だけを書く。 問題の本質は、この女性が公務員に騙されて風俗で働かされたという悲惨さではなく、そもそも「お金のために、やりたくもなく、スキルアップもできず、自分のためにならない仕事に就かされる」という、福祉の問題である。 女性という「いわゆる弱者」の存在と、風俗というグレーな職業の強烈な組み合わせに目を奪われるが、本質としては日雇い労働者とか、高齢フリーターなどと同じ種類の問題であることに気づいて欲しい。
そしてこの問題は、決して近年になって産まれた新しい問題ではないし、少なくとも日本では一度も途切れたことはない。高度経済成長の時代にだって、風俗で働く女性もいれば、ドヤ街でその日暮らしをするしかないホームレスもたくさんいたのだ。日本に一億総中流の時代など無かったのである。
「生活保護を受けられなかった女性が風俗に」ということが衝撃的に聞こえるのであれば、それだけ貧困問題というものを、日本国内にはびこる重大な人権問題として、多くの人がまともに考えてこなかったということである。 賃労働を求めることは、労働者の権利であっても、義務ではない。ましてや本来、無条件で保証されるべき生存権を守るために、労働者側が不本意な労働を受け入れる理由など、一切ないのである。
もうひとつ。 風俗産業側が、シングルマザーのために店に保育所を用意しているなどということが報じられていたそうだ。 店側の思惑やその実態はおいておくとして、企業が福祉を担っているという話である。しかしこれにも問題がある。 仮に本当に風俗産業で働く人のためにと、店側が本当に善意で子供を預かるなどをしていたとしても、それでは結局子供を店に預けなくても良くなるまで、風俗で働き続けるしかないことを意味する。
本当に必要なのはシングルマザーが気兼ねなく、そして身分や財産の多少にかかわらず、子供を預けることができる保育所である。そこを見間違えれば保育所の存在が母親を縛り付けることになってしまう。
以前、古市憲寿が「牛丼やファストフードのチェーンは、日本型の福祉の1つだと思う」と言っていた(*2)が、こうした企業による福祉はあくまでも一時的な代替物に過ぎず、サービスを受ける側にとっての不利益も大きなものであると言えよう。私企業や個人の良心では、行政が行うべき公的なサービスを十分に肩代わりできないのである。
故に問題は十分な福祉を提供できない行政の側にあるのであり、風俗店がそれを肩代わりすることは行政の怠惰に他ならない。
シングルマザーだからという話で考えてしまうと、男女の別に関係のない、こうした本質が見えなくなってしまうので、注意したい。
*1：あしたが見えない（NHKクローズアップ現代）http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail_3458.html
*2：福祉を担うのは国である（BLOGOS 赤木智弘）http://blogos.com/article/77034/
