※この記事は2013年12月16日にBLOGOSで公開されたものです

インターネットの普及に伴うメディア環境の変化により、テレビやラジオといった放送事業者も変革を迫られている。最近では、ツイッターと連動した情報番組やネット企業と提携した企画も盛んに行なわれている。そんな中、日本民間放送連盟（民放連）が「ネット時代における放送とメディアリテラシー」と題したパネルディスカッションを11月7日に開催した。

ニコニコ動画の杉本誠司氏（ニワンゴ社長）やジャーナリストの津田大介氏といったネットメディアに明るい論客と、フジテレビの福原伸治氏（同社情報制作局情報制作センター室長）、メディア論の専門家である成蹊大学の見城武秀教授が、ネット時代における放送のあり方について議論した。東海大学の水島久光教授の司会のもと、ネット事業のマネタイズの難しさやメディアリテラシーの重要性が語られた。（取材・構成・撮影／亀松太郎）

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テレビ局が「ネット事業」をしても割があわない？

杉本：　テレビ業界の方々にとって問題なのは、ネットでメディア事業をやろうとしたときに「割があわない」ということではないか。ものすごく稼いでいるネット事業者もいることはいるが、ネットのマーケットそのものは割と細々とした環境なので、それまで放送事業をしてきた人たちから見るとケタが違う。

そこを埋めるものは何かというと、なかなか解がない。ある種、金にならないと思われるネットのマーケットを、放送事業者の方がどう考えるのか。そこを聞いてみたい。はたして続ける理由があるのか、と。

福原：　それは、テレビ側の作り手の「マインドセッティング」を変えていかないと変わらない。「テレビは放送でしかできないことをやればいい」という意見もあるが、そういうものがどれだけ残っているのか。昔は、映像といえばテレビと映画ぐらいしかなかったが、Youtubeやニコニコ動画が出てきた。その後、「テレビには生放送がある」と言われていたのが、Ustreamやニコニコ生放送が出てきて、「生」という独自性もなくなった。

お金の規模の違いはあるが、ネットでも面白いコンテンツがどんどん出てきている。「放送でしかできないこと」といっても、実はそんなにないのではないか。テレビの作り手も、今までと違う発想でのぞんでいかないと取り残されてしまう、という思いがある。

津田：　マスメディアの構造を考えるとき、人材の流動性という問題がすごく大きい。たしかに、ニコニコにも制作のスタッフがいるが、テレビ局からニコニコにどんどん人が移籍しているかといえば、そうでもない。そこは、ニコニコとテレビ局の給料の違いというのがあるのかもしれない。実は、人材の流動化や番組作りの話といっても、最終的には「マネタイズ」の問題にいきつく。

テレビ朝日の「ザ・スクープ」という番組のキャスターをやっていた鳥越俊太郎さんに「なぜスクープを連発できたのか」と聞いたら、「バブルだったからね」という答えが返ってきた。番組の制作費が1本3000万円だったらしい。当時は、今とは比べものにならない制作費で作ることができた、と。ネットの双方向性のような要素が広がっていったときに、それをどうお金に変えていくか、という問題がある。

放送にかかわる人間にこそ「メディアリテラシー」が重要

見城：　福原さんが指摘したような作り手の意識の問題でいえば、放送にかかわる人にこそ、（メディアを見ている自分自身を鏡に映し出すように振り返る）「リフレクション型」のリテラシーが必要だといえる。放送に関わっている人たちは、（自分はメディアの枠の外にいるという感覚をもつ）「ヒエラルキー型」のリテラシー感にとらわれがちだ。

放送局の人間は、「視聴者に見えていないことが見える」という特権的な立場にいる。そのため、視聴者は枠の中にとらわれているが、我々はその外にいるという感覚をもつのが自然だと思う。でも、だからこそ、リフレクション型のリテラシーをもって、自分が視聴者と結んでいる関係を鏡に映してみる。これは視聴者にとって難しいのと同じくらい、放送局の人にとっても難しいが、必要とされていることだ。

津田：　テレビにおける「双方向性」という点では、NHKの「NEWS WEB 24」が切り開いた部分があったと思う。ここでは、ツイッターのコメントをいかに適切なタイミングで拾って、進行に入れるかというのが重要だが、それにはある種の訓練とセンスが必要。リアルタイムの情報編集力が求められる。そこは、どこまでいっても機械にはできないことだと思う。

NEWS WEB 24では、1回の放送でコメントが数千件くるが、それをより分けるためにスタッフが6人ついている。一番足りないのは、それを選び取って編集して、テレビにいい形で双方向性の味付けができる人間。そこは一種の訓練と才能が必要。もしかしたら、ニコニコのユーザー生放送のユーザーにすごい才能が眠っているのかもしれない。もっと、そういう「野生」にいる面白い人間をテレビに連れてきてもいいのではないか。

水島：　それは、編集やキュレーションというものをどれだけ意識するかということか？

津田：　「朝まで生テレビ」では、田原総一朗さんが司会者ではなくてディレクターとして、どう面白くなるかを考えている。それが田原さんの唯一無二の面白さであり、批判されるところでもある。このように、テレビからしたら「常識外れの異分子」が入って、テレビを面白くするという実験が、深夜番組とかで、もっとできるのではないかという気もする。

水島：　ニコニコ動画というプラットフォームの中で、そういう人材が育成されているのか。

杉本：　勝手に育ってくる土壌がある。そういう人たちが生まれてくるのであれば、どんどん活用していけばいい。そこは、テレビが「何を目指しているのか」ということしだいかな、と思う。テレビにはネットで行われていることを取り込もうという動きがあるが、それが正解なのかどうかということをちゃんと議論したほうがいい。「NEWS WEB 24」のようなインタラクティブ性を強調する番組もあっていいが、テレビ番組が全部そういうものになってしまうと、破綻をきたしてしまうのではないか。

福原：　マネタイズという話でいうと、テレビはいま「撤退戦」を戦っている。広告収入や制作費はどんどん縮小していっている。ネットはマネタイズの問題で悩んでいるというが、我々もどんどんシュリンクしているなかで、組織や考え方を変えていかないといけない。テレビは広告で成り立っているが、ネットではグーグルやソフトバンクみたいなものが出てきて、そこを奪い取っていく。そういう中で、我々は次なるマネタイズを考えていかないといけない。こういうことを本当に真剣に考えるべき時期にきている。

また、見城先生が指摘した「ヒエラルキー型」と「リフレクション型」というのは、テレビの人間として痛いところをつかれたという感じがする。制作者としては、「テレビってどうだ、面白いだろ？」という思いで作ってきた。「我々が面白いと思うことは、みなさんも面白いだろう」と思って作ってきた。そういうテレビの作り方は、見ている人とのズレがどんどん出てきているのだろう。

今後は、見ている人と作っている人が相互作用していきながら、ある程度、見ていかないと、テレビの制作は立ち行かなくなっていくのではないかと思う。制作者にとって、「メディアリテラシー」の問題は今まで以上に重要になってきている。リフレクションをやっていくなかで、ネットと組んだり、ソーシャルメディアをうまく活用することは、今まで以上に意識していく必要があると思う。