※この記事は2013年12月07日にBLOGOSで公開されたものです

赤木智弘の眼光紙背：第301回

神奈川県で、妊娠していた女性を遅い、暴行を加えた上に現金入りのバッグを奪い取った犯人グループが逮捕された。そのうち二人は母と息子であり、母親が犯行を計画。次男ら17歳の少年３人に襲撃させたという。(*1)

　それにしても、卑劣な犯人である。また、単なる若者の暴走ではなく、母親が襲撃計画を立てていたということにも驚かされる。
　ネットでは当然のように、鬼だ悪魔だ、死刑だ、こいつらに人権があるのはおかしい、在日に違いない、などなど。スジの通ったものから通らぬものまで、様々な非難が繰り広げられている。
　そうした非難が聞こえる中で、僕はこの人達はとても「道徳的だな」と感じた。

　僕が17歳の頃なんて、親と一分一秒でも一緒に居たくないというワガママな子供だった。そんな僕が、もしも母親から襲撃計画を持ちかけられれば、当然警察に通報していただろう。しかし17歳の少年は、親に素直に従って犯行を行っている。これを世間的には「いい子」というのではなかったか。
　一部の公民教科書にも取り上げられている「江戸しぐさ」には、「逆らいしぐさ」というものがある。年長者のいうことには、多少無理があっても従うことが、本人の成長に繋がるという意味だそうだ。たとえ犯罪であっても、逆らわずに親の言うとおりに実行するこの次男は、立派な江戸しぐさの体現者といえよう。
　「法を守っていないのに、道徳もないだろう」と言われればそのとおりだが、今年の流行語大賞にもノミネートされた「ブラック企業」という、労働基準法をろくに守らない企業だと言われている会社の会長が、与党の政治家になれる国なのだ。少々の違法行為は大目に見てもいいというのが、この国の道徳観念である。

　 　今回の犯行は、家族がそのコミュニティを利用して犯罪を行ったわけだが、「家族であれば正しい」という道徳観念が跋扈するこの国では、家族性の間に遵法精神が入り込む余地など無く、ダメな家族もまた「道徳的家族」として翼賛せざるを得ない。よって、この種の家族犯罪は昨今の道徳の押し付け激しい教育体制において、起こるべくして起きた犯罪と言えよう。
　実際、今年の10月にも、母親と内縁の夫が子供に万引きをさせるという犯罪が発生している。(*2)
　「家族」というコミュニティが、道徳という括りにおいて絶対的に肯定される限り、こうした犯罪は今後も増えていくだろう。
　それを解消するためには、家族を始めとするコミュニティを「単なる集団」として冷静に見る必要がある。家族であろうが、他人同士であろうが、コミュニティの良し悪しはその内実によってきまるのであり、家族でも悪いコミュニティには正しく「悪い」と指摘する必要があるし、時には外的な力によって解散させる必要もあるだろう。親子が仲良くしたり、一緒に住むことに、そもそも必然性などどこにもないのだ。
　形式的な形に拘って、子供たちの人生をメチャクチャにすることがないように、道徳を推し進める人たちにこそ、慎重な姿勢を求めたい。

*1：「お金あげるから」と懇願の妊婦を殴る蹴るして強盗　母子ら逮捕　神奈川（MSN産経ニュース）http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/131205/crm13120522350024-n1.htm
*2：「生活苦しく」　幼い子供に万引きさせる　母親と同居男逮捕　埼玉・川口（MSN産経ニュース）http://sankei.jp.msn.com/region/news/131029/stm13102922250003-n1.htm