「日本の“政策インフラ”は非常に脆弱なものになっている」～みんなの党・小池まさなり衆議院議員インタビュー～ - BLOGOS編集部
※この記事は2013年11月12日にBLOGOSで公開されたものです
日程の駆け引きなどに明け暮れ、政策の中身についての議論が深まらないなどの問題点が指摘されている日本の国会。他の先進諸国では、どのような形で政策が立案され、議会で議論されているのだろうか。アメリカ留学、英国でのシンクタンク勤務を経て二カ国の政治体制を間近で見てきたみんなの党所属の衆議院議員・小池まさなり氏は、提出した質問主意書の数や発言回数で衆議院のトップクラスだ。自身のキャリアとあわせて話を聞いた。（取材・執筆：永田 正行【BLOGOS編集部】）「自分は政治には関わりたくない」と思っていた
―小池議員は、代々政治家の家庭で育ったとのことですが。小池まさなり衆議院議員（以下、小池）：祖父も父も政治家だったので、「政治」は私にとって身近なものでした。祖父は私が生まれた時には亡くなっていましたが、父親は、一度国政に挑戦し敗れた後に、三島市長を3期にわたって務め、地方ではある程度知られた政治家だったと思います。しかし、子供だった私にとって、そこにあった「政治」は政策がどうとか、地域をどうするかといった話ではなく、ただ選挙があったというだけでした。
選挙になれば、父親の名前を連呼する選挙カーが走り回り、ポスターが貼り出される。それを見た友達から声を掛けられ、からかわれる。父親自身もすべてが順風満帆だったわけではなく、選挙のたびに誰かから裏切られるといったような経験をしたようです。国政選挙の際には自分が関知していないところで選挙違反が起こり、将来の展望が大きく崩れてしまうといったこともありました。小池家も、当時は地域の中では厳しい目を向けられました。こうした経験からむしろ「自分は政治には関わりたくない」と思いながら高校、大学時代を過ごしてきました。
―社会に出るときの選択肢として、政治家というのはなかったんですね。
小池：全くなかったですね。大学卒業後は、「とにかく視野を広げていきたい」という思いから商社に入りました。商社に入れば、海外で自分の国際的見地を広げる仕事が出来ると思っていたのです。しかし、現地にいる商社マンの仕事のほとんどは、東京の本社を向いたものでした。現地に溶け込んでいるわけでもなく、東京から出張で来た人のために添乗するといった仕事が週の大半を占めている。ならば、「自分の力で海外に出てみよう」と考え、留学を決めました。私は英語が全然出来なかったので、仕事後に夜中まで勉強するというような生活を１年以上続けて、なんとか留学先の大学院の基準をクリアすることができました。
―大学院では、どのようなことを学んだのですか。
小池：国際関係を見る際に、ビジネスと経済だけではなく安全保障の面も考慮しなければならないということを学びました。また、入学直後に９.１１のテロが身近で起きたことから、今の時代はまったく平和でも安全でもないということを実感し、そこから政策や政治の方に興味のベクトルが向き始めたんです。ただ、このときはまだ政治家になりたいという思いはありませんでした。学費を稼ぐために現地で３つのアルバイトを掛け持ちしながら、大学院で勉強して、通常より半年遅れで卒業しました。
大学院では、外交政策、特に政策決定過程やその中身について研究してきたのですが、ワシントンD.Cでは日本人の派遣記者や学者の方が「アメリカがこうしているから、日本もこうするべきだ」という議論をよくしていました。しかし、自分はアメリカのやり方や方針をそのまま日本に持ってきても、そもそも体制が違うので導入は難しいのではないかと思ったんです。
教えを受けていたフランシス・フクヤマ教授は、比較政治論という授業の中で、「政策の結果だけを見るのではなく、その過程が大事だ」という話をしていました。政策決定の過程が似通っている国を比較した上で、実施された政策を比較しなければ、政策の結果をどうやって変革していくか、という本当の道筋を示すことは出来ないのではないかということです。
それを聞いたときに、日本の議院内閣制に近い制度を持つ英国の政策決定過程はどうなっているのかということを考えたんです。調べたところ、英国にはDEMOSというシンクタンクがあることを知りました。DEMOSは当時のブレア政権を立ち上げた影の立役者といわれており、その研究員であるマーク・レナードという人は、ダサい、かっこわるいと思われていた英国のイメージを刷新しようと、「クール・ブリタニア」という戦略を打ち出した人でした。こうしたシンクタンクの様子を見てみたいということで、現地にインターンという形で潜り込んだんです。日本と似ている制度の中で、なぜこんなに市民の政策決定過程への参加が活発なのかというのを確認しにいったんです。
―帰国されてからは、どのような活動をしていたのですか。
小池：当時初当選した参議院議員の事務所で、主に外交政策などの立案スタッフを１年弱やらせていただいたのですが、その中で自分自身の能力不足を痛感しました。
また、国家の経済や安全保障を支えるエネルギー分野について精通し、取り組みに参加したいという思いもあり、改めて大学に行き博士号を取りました。その間に中東と日本のエネルギー問題でWIN-WINとなるような新しい取り組みや、経済産業省のエネルギー白書の基盤となるようなデータの整備などにも携わりました。こうした、今後のエネルギー政策について、大学の教員の立場で取り組んできたんです。
―立候補の直接的なきっかけはなんだったのでしょうか？
小池：子供が生まれたというのが大きかったです。また、教員として学生と接している中で、彼らが将来に対して非常に不安な表情をしていると感じていました。僕らが大学生の頃はまだ社会に出ることにワクワクしていた気持ちや期待感があった気がします。ですが、今の学生は３、４年になると不安な表情になっていき、４年生のぎりぎりまでリクルートスーツを着て就職活動をしている学生もいる。
彼らを見ていて、はたして自分は、彼らに知識を伝えるだけの立場でいいのかということをずっと考えていました。そうしたタイミングで自身にも子供が生まれたので、子供たちの将来を身近に考えた時に、自分が立つしかないと思ったんです。
私は立候補する際に、あえて自分の生まれ育った場所ではなくまったく異なる選挙区から出馬しました。これは、世襲というものを廃止すべきだと思っていたからです。「政策をやりたい」という思いがあり、そのために様々な経験を積んできたわけですが、日本の政治をずっと見ていると政策を実現する大前提である政治への信頼が失われていると思いました。
その信頼を回復するためにも、誰でも機会が平等に与えられているという前提を作らなくてはなりません。その一番のハードルが世襲です。このことを父親の地盤を引き継いで国会に出てきた人間が言っても説得力がない。だからこそ、自分が父親とは違う地盤から立候補して、周囲に結果を見せるというプロセスが大事だと思ってチャレンジしたんです。
写真一覧
シンクタンクの役割や機能は日本と海外で異なる
―日本のシンクタンクは銀行や証券会社の子会社などが多く、あまり「政策決定機関」というイメージはないのですが、英国では違うのでしょうか？小池：特にブレア政権時に顕著だったのですが、英国の場合、政治任用という形で外部から政策に関する人材を多く受け入れました。内閣の特別補佐官という形だけではなく、省庁の中にも政治任用という形で多く入っていったのです。
政権交代の時期ということもあり、労働党が新しいビジョンを打ち出そうとする際に、先程お話したDEMOSなどの組織が外部からサポートしていました。ですから、こうしたシンクタンクの役割というのは日本とはかなり異なる部分があったのではないかと思います。
―政治には、様々な立場がありますが、海外のシンクタンクは、どちらかの立場に偏ったりしないのでしょうか？
小池：どちらかに寄ったものも、中立な所もあります。シンクタンクだけではなく、国際関係関連の大学院でもスタンスが分かれていますね。アメリカで私が学んだ大学院は当時のブッシュ政権を支えるような、どちらかというと共和党系の外交の牙城みたいな場所でした。
一方で、民主党系の外交の支え役みたいな大学院もあります。また、CSISというアメリカの外交機関のシンクタンクがありますが、ここは中立が売りでそれぞれの立場の人がいて双方の意見を集約しているため、ここを好んで使う人もいます。
―今までシンクタンクという外部の政策立案機関があることのメリットをお伺いしてきましたが、逆にデメリットは何かあるのでしょうか？
小池：あまり感じませんね。強いて言うのであれば、影響が大きすぎるというのは、デメリットかもしれません。ただ、そもそもアメリカに外交系のシンクタンクが増えていった経緯は、政府側がベトナム戦争時に情報などを公開しないまま、どんどん戦争を悪化させていったところにあります。それに対して議会などが止める手段や代替案を出す能力がなかったという反省から外交シンクタンクが出来ていきました。そのことから、ある程度の影響力はあって然るべきでしょう。
ただ、ロビイストがよく悪いイメージで捉えられるのは、それによって政策が歪められるという部分があるからです。あまりにも政策に影響力が強すぎて、国益以上にクライアントや固定の業界、団体の人達の利益を優先させることになるというのはデメリットの一つだと思います。
― 海外の場合、一般の人が自らの政治に対する要望を伝える場合にどのようなチャンネルがあるのでしょうか？
小池：日本と同様に、議員経由というのはアメリカにも英国にもあります。私はアメリカの法律事務所でアルバイトしていたので、そこで実際に経験したのですが、その事務所の主な役割はロビイングでした。そういう組織は、「こういう要望があります」というクライアントから持ち込まれた要望を、いかに法案や政策に反映させるかという役割を担っています。ですから、これは一つのチャンネルだと言えるでしょう。
また、先程お話したようなシンクタンクは、それぞれ政府や議員と繋がりを持っているので、そこから繋げていくという方法もあると思います。
これは私の感覚ですが、英国の場合アメリカに比べて、シンクタンクに若い人が多いように思います。アメリカのように全員博士号を持っている集団というわけでもなく、大卒の人達が多く集まってベンチャー企業のような雰囲気でやっている所が多かったです。気軽にそういう所に話を持ちこんで、報告書をまとめて政府や議会にもっていく。こうした手段が英国では見受けられましたね。
―わりとカジュアルに政策立案に参加できる組織があるということですね
アメリカと英国のシンクタンクの違いを表す面白い言葉があります。アメリカのシンクタンクは「University without student」、生徒がいない大学。英国のシンクタンクは「University without professor」というイメージで、学生だけで集まってアイディアを出すといった感じなんです。アメリカのシンクタンクがアカデミックに積み上げていくのに対して、英国は非常にカジュアルな取り組みが見られましたね。
写真一覧
現在の国会は形骸化している
―今までお話いただいたような海外での経験を踏まえて、現在の日本の政治制度や政策立案能力については、どのように感じていますか？小池：議員になってみて感じたのは、国会の機能がまだ弱いということです。形骸化も強く感じました。法案もそうですが、驚いたのは通常の予算です。90兆円の大きな予算、さらに補正予算、それぞれに対して審議された期間は、実質わずか一週間しかない。
私が、この問題について財務大臣の麻生さんに委員会で質問したところ、「小池さんは一回生だから分からないかもしれないけれども、実は国会に出す前に与党の中で散々揉んでいるんだよ、だから大丈夫だよ」と言うわけです。これこそが国会の軽視であると思いました。国会は、国民が見ている中でしっかりと議論を重ねていくというのが本来の役割です。それがなされずに、単に法案・予算を通すだけのセレモニー的な機関になっていると感じています。
―現在の国会が形骸化しているのは、なぜだと思いますか？
小池：システム的に国会でどれだけ審議、議論を重ねても、そこでの議論の中身があまり反映されない仕組みになってしまっているからだと思います。今の日本の政策というのは、国会に出される前に散々省庁と与党がやりあって事前審査制というものを通って出てくるわけです。ですから、そこで出されたものに対して私達野党が問題点を指摘しても、付帯決議や修正が少しされるぐらいです。一方で野党が提出した法案は基本的に「吊るし」と言って、審議も採決もされないまま放置されてしまうんです。
英国の場合、国会議員と官僚の接触は基本、禁止されています。官僚は省庁の大臣や副大臣といったレベルの人間しか接触出来ないようになっている。出された法案を、議会の衆人環視の下で、中身をしっかり審議して行くという英国のシステムを見習うべきではないかと思います。また、現在の日本の国会は会期制ですが、個人的には通年国会にすることも必要ではないかと思います。
―日本の場合、一人の議員が抱えることができるスタッフの数が少ないので、各議員がカバーできる範囲や分野も限られていると思うのですが。
小池：アメリカの場合、一人の議員に対して上院では約40人、下院でも約20人近くスタッフがいますが、日本の場合は量の面で圧倒的に少ない体制になっています。私自身、現在は政策担当秘書もいません。みんなの党の場合、人数が少ない一方で他の党と比べて質問回数が非常に多いんです。そういう状況では、やはり自分の経験や持っているリソースだけではカバーできる範囲には限界があり、深さでも到底その分野を担当している官僚に太刀打ちできないという問題が出ます。
一方で、政策担当に質の高いスタッフを国会で確保できるかという問題もあります。人材は、なかなか永田町にプールされていきませんし、政策担当秘書の資格を持った方というのはいらっしゃいますが、その方々が本当に政策立案、分析能力があるかというと必ずしもそうとはいえません。
また、こうした状態を補うために存在するはずの外部のシンクタンクも日本ではそれほど育っていないということを考えても、議会側の政策インフラは非常に脆弱な気がします。国会図書館や調査室といったものも活用できるようにはなっていますが、それでは急な法案審議などの準備をお願いするには限界があります。
―海外の場合、議員の専門分野については、どのようになっているのでしょうか？
小池：アメリカの場合は上院と下院で役割が分担されています。上院は主に外交面など、国家全体のことを扱い、下院は任期も短いので予算等を通して地元の利害を代弁するという役割になっています。かつ彼らには党議拘束というのがありません。それぞれ地域のプロフェッショナルのような方々が地域の実情を踏まえて政策を実現するということになります。
一方で、ある程度は幅広い分野の政策の知識というのは必要だと思います。それが出来るようにアメリカや英国は予備選などを経て、自身の見識を確かなものにしています。日本にはそういったものがまったくなく、自分の政党の政策すらわからない中で政治家になった方もいる。かつ部分的に細かい所を担当しなければならないわけですから、全体をカバーするのも大変になっていると思います。
中選挙区の頃はまだ特定の分野に強い人達が、政党の中でそれぞれ自分の強みを発揮しながら戦ったりしていました。しかし、現在の小選挙区では全部カバーしないといけないというのもあり、政治家が中途半端なジェネラリストになって省庁との折衝、国内外での交渉が厳しくなってきていると思います。
―小池議員が自ら「ライフワーク」と考えている総合安全保障分野は、多くの有権者にとって、なかなか身近な問題として考えることが難しいと思うのですが。
小池：それは議員達にも言えることです。ニワトリと卵のような話ですが、有権者がその分野になかなか興味を持てないということは、議員も選挙の際に役に立たない分野だから興味を持たないということになってしまいます。しかしどちらにしても国家として重要であるという事実は厳然として残ります。
私自身も実感としてあるのですが、毎朝、街頭演説をする際に、外交や安全保障という話をしてもあまり反応がありません。また、これは大学院の先輩が選挙活動をしている際に聞いたのですが、彼はスーパーの前で街頭演説をやる際には子育てや社会保障の話をするそうです。その人の専門分野はまったく違うので、「なぜ外交とか安全保障の話はしないのですか」と聞いたところ「そんな話は誰も聞いてくれないし、みんな興味を持たない」といわれました。私たちも関心をもってもらう働きかけがもっと必要ですし、国会でも本来の役割と責任を果たす努力が必要だと思います。本来の国家議員の役割である安全保障や外交が疎かになってしまっては非常に問題です。
小選挙区の制度の中では、皆が関心のあるテーマを絞って、自分達がそのテーマに対して回答し選挙を勝ち残らなければならない。有権者側からすれば、社会保障の分野と比較すると安全保障の分野に対して、自分達の一票で何か変わるという実感も持てないと思います。こうした状況を打破する大きなきっかけとなりそうなのが、憲法改正に関する国民投票だと思います。それによって自分達の国をどう守るかだとか、これから外交をどう考えていくかということをより身近に考えるようになるのではないでしょうか。またアメリカでは9.11があって安全保障への関心が高まったように、日本でも福島の原発事故を通して特にエネルギー分野での関心は高まっていると思います。
―最後に、若い人たちに向けて、政治のどのような部分に興味を持ってほしいか教えてください。
小池：まず一つは意識の転換をしてほしいと思います。いま日本が直面している問題というのは将来の自分達に直接影響してくる問題でもあります。高齢化やエネルギーの問題もありますし、国際的に見れば人口が増加しているので、食糧不足の可能性もあるかもしれません。そういう問題が自分達の将来に関わってくるわけですから、それに対して関心を持たなければなりません。
ただ、一方でそれが必ずしも問題や課題というわけではありません。逆に新しい自分達の未来を作れるようなチャンスでもあります。もしかしたら、ビジネスチャンスかもしれないし、自分達の雇用を新しく生み出せることが出来るかもしれない。そういう分野だという意識を持ちながら、それに対して政治がどういう役割を果たすかという所を見てもらいたいなと思います。
また、このまま行けば世代間格差が広がっていきます。自分達の未来、子供たちにより大きな負担が掛かることになるわけです。こうした状態が、自分達の一票の行使の結果としてさらに拡大してしまうかもしれないという意識が必要だと思います。
プロフィール
小池政就（こいけ まさなり）：みんなの党所属の衆議院議員。1974年生まれ、静岡県出身。上智大学経済学部卒業後、丸紅に就職するも退職して留学。帰国後、東京大学、日本大学、中国清華大学で国際関係・エネルギー・環境問題の教育・研究活動に従事。工学博士。2012年の衆議院選挙にて初当選。第183回国会において、提出した質問主意書の数は21本と衆議院でトップ。国会での発言の数は28回（本会議での代表質問１回、委員会発言27回）と衆議院でトップクラスとされている。・公式ホームページ｜Twitter
