ハフィントンポスト日本版はAmazonレビューのような「オピニオン集約サイト」になれるのか？ - BLOGOS編集部
※この記事は2013年05月12日にBLOGOSで公開されたものです
アメリカで一、二を争うニュースサイトとして脚光を浴びるハフィントンポストが日本に「上陸」した。日本版サイトがオープンした5月7日、東京の六本木ヒルズでは、報道関係者向けの発表イベントが開かれた。本家の創始者で編集長をつとめるアリアナ・ハフィントン氏が来日して、その可能性をアピールしたほか、日本版の松浦茂樹編集長やタッグを組む朝日新聞の木村伊量社長らが、ハフィントンポストの狙いについて語った。パネルディスカッションでは、Twitter Japan代表の近藤正晃ジェームス氏やLINE執行役員の田端信太郎氏も加わって、「ネット選挙」をテーマに議論した。【取材・構成:亀松太郎／写真：編集部大谷広太】 写真一覧
ハフポスト記者発表会「ポジティブに日本の未来を語る場を作り上げたい」
アリアナ・ハフィントン（ハフィントンポスト創設者）：現在、日本は歴史上の重要な瞬間を迎えている。この変革の瞬間にハフィントンポストとして、日本でローンチできるのを嬉しく思う。アベノミクスを通して日本を再建しようというときに、何が行われているのかということを網羅していきたい。さらに今の日本が抱える人口減少や女性の役割、自殺といった問題についてもレポートして、みなさんの声を集め、ハフィントンポスト日本版がプラットフォームとなって、対話をうながしていきたいと思っている。松浦茂樹（ハフィントンポスト日本版編集長）：ハフィントンポスト日本版は従来のニュースサイトと違い、ユーザーのポジティブな意見交換を目的としている。米国のハフィントンポストでは月4600万人のユーザーが800万ものコメントを投稿している。日本版では、議論を引き出しやすい記事を載せる工夫をするとともに、「団塊ジュニア世代に意見を発信してもらう」というテーマを定めている。ローンチにあたり、応援の声もあれば厳しい指摘もあるが、「ポジティブに日本の未来を語る場」を目標にスタッフ一同で盛り上げていきたい。
木村伊量（朝日新聞社長）：朝日新聞は今年で創業134年。明治、大正、昭和、平成と時を移しながら、日本を代表するリーディングペーパーとして760万部の朝刊を発行している。1995年からは新聞本紙と連動する形でインターネット配信事業を開始した。有料会員数だけで12万人。100万人を超えるログイン会員がいる「朝日新聞デジタル」を軸にして、30以上の多種多様なデジタルサービスを展開している。
朝日新聞はペーパーとオンラインを融合・両立させたメディア戦略を立てて、取り組んでいる。ハフィントンポストに特に期待することは、ネット上で言論空間をつくりあげる推進力だ。ハフィントンポストを彩るニュース記事やブログ、読者が寄せるコメント、ソーシャルメディアを通じて拡散する読者の意思表示。その一つ一つが時代の進むべき道を照らし出している。日本版のキャッチフレーズは「あなたのことばが未来をつくる」。確かな情報でつながる良質な言論空間、そこで交わされる対話の連なりが、豊かな未来を作り上げていく。
西村陽一（ザ・ハフィントン・ポスト・ジャパン代表取締役）：ハフィントンポスト日本版で私たちが目指すものは、ニュースやブログやユーザーの声をを有機的に結び付けたオンライン上の新しい言論コミュニティだ。朝日新聞の紙面にもオピニオン欄という名物ページがあり、多彩で自由な議論が行われてきた。近年では世界に続いて日本でも、オンライン上にオピニオン論壇を作ろうという動きが具体化し、いくつか先行事例が出てきた。私たちは、既存のネットメディアのコンテンツ編成力や情報発信力にさらに多くを求める人たちに向かって、ニュースとブログとソーシャルを総合した本格的なオピニオンフォーラムを作っていきたい。
まだネットでは活躍していないが、多くの人々にその意見を知ってほしいと思う人がいる。そうした方々にブロガーとして意見を表明していただき、発信してもらう。編集部が独自にまとめた記事も掲載される。アメリカ版で面白い記事があった場合は翻訳して日本語版にのせることもある。さらに日本の記事や意見を翻訳して国際版で発信してほしいという要望があれば、積極的に応じていきたい。
朝日新聞がハフィントンポストから貪欲に学びたい点がいくつかある。最大の点は、いかにしてユーザーを巻き込み、活発な議論を展開していくかということだ。また、ユーザー動向分析やSEO対策、機動的なコンテンツ配信システムも吸収したい。そして、ニューズルームのど真ん中に編集者と技術者が席を並べ、技術に関するフィードバックが編集者に絶えず行われる仕組み。今後、コンテンツとテクノロジーの統合はますます重要なテーマになると考えているが、ハフィントンポストのノウハウに学ぶべき点は非常に多いと痛感している。
ハフィントンポストは、サイト訪問者数でニューヨーク・タイムズを抜き、激しい競い合いを展開している。ピューリッツアー賞も受けるなど、アメリカでは新旧のメディアがしのぎを削る状況が続いている。我々日本のメディアもこの10年以上は変革の荒波にもまれ、ビジネスモデルの模索を続けている。その最中にハフィントンポスト日本版の立ち上げがぶつかった。ユーザーとの双方向性を重視した良質な言論空間、オピニオンフォーラムの構築を通じて、新たな試みに挑戦していきたい。
ジミー・メイマン（ザ・ハフィントン・ポスト・メディアグループCEO）：ハフィントンポストは1年半前にアメリカ以外での展開を考え、カナダやヨーロッパなどに展開してきたが、まさかこんなに短期間でアジアにも展開できるとは思っていなかった。朝日新聞の関係者とは昨年8月のロンドン・オリンピックで初めて会い、交渉を始めたが、それからわずか9ヶ月でサイトのローンチに至った。これは変化を受け入れる日本人の能力の高さの表れだと思う。
この数年間、日本では福島原発や政治などさまざまな問題が起き、人々の報道に対する信頼が失われかけているのではないかと思う。そういった中で、ただ報道するだけではなく自分たちの声を聞いてもらいたいという人たちの声を集め、届けるプラットフォームになりたい。それがハフィントンポストのDNAであり、今こそが最も適した時期だと考えている。
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質疑応答「ハフィントンポストを批判するブログが投稿されたら、どう対応する？」
ニコニコ動画・七尾：既存のニュースメディアに対するネットユーザーのニーズや不満について、どう分析しているか？ その上で、ハフィントンポスト日本版はユーザーのどういった部分にアピールできると考えているのか？アリアナ：ハフィントンポスト日本版でやろうとしているのは、広範囲な対話にもっていこうということ。参加するのは有名な人だけでなく、無名の普通の人たちが自分たちの意見を発信できる場を作る。さらに意見だけでなく、自分の物語を語ってもらいたい。幅広い対話を育むようなプラットフォームを提供していく。言葉や写真や動画で自分の物語を語っていただきたい。
木村：紙の新聞は、情報の一方的な供給者としての性格が強かったと思う。しかし今の時代は、読者が互いにリスペクトしながら意見を交わして、新しい言論空間を作っていく。デジタルであろうと紙であろうと、その目的は変わらない。ウェブのユーザーのみなさんは「新聞は一方的で、自分たちの意見を押し付けている」と思っているかもしれない。私たちの新聞もできるだけ、社会に開かれて、みなさんと共有できる言論空間を作っていきたい。
フリーランス・亀松：編集権について聞きたい。ハフィントンポスト日本版の最終的な編集権は誰が持っているのか。松浦編集長か、朝日新聞か、それとも本国のハフィントンポストなのか？また、ヤフーニュースに「ハフィントンポスト日本版は失敗する」という記事が出ていたが、自分たちを批判する記事がブロガーから投稿された場合、どのように対応するのか？」
西村：編集権を持っているのは、松浦編集長。朝日新聞とハフィントンポスト日本版の編集権は、全く独立している。私たちのほうからハフィントンポスト日本版に対して、「これをしてくれ」とか「これはいけない」と意見を言うことは一切ない。松浦編集長がすべての責任を負い、編集権を独立してもつ。そのような一般原則を踏まえたうえで、批判は大いに歓迎する。私たちは多様な意見を求めている。
松浦：ヤフーニュース個人に載った記事は私も読んだが、愛があふれた叱咤激励の意見だったと思う。そういう意見を掲載することもやっていきたい。スタートにあたってユーザーの期待に応えられない部分もあると思うが、ユーザーの声を真摯に受け止めて、次のステップに進めていきたいと思っている。
アリアナ：8年前にアメリカでハフィントンポストを始めたときも「失敗するだろう」という予想があった。当時はブログを書く人が少なかったが、今は多くの人がブログを書いている。それはスタート地点からの「旅路」だった。日本でも、個人の物語や対話を育んでいくことで成長していくのだと思う。日本のみなさんが「前向きに問題を解決するんだ」という形でブログを書いてくれれば、もっと早く問題が解決できるのではないかと期待している。
WOWOW・ウチノ：コンセプトは『変えるのはあなた』ということだが、発信する一般の人たちを集めるための具体的な戦略を聞きたい。たとえば、有名ブロガーに頼るのか、広告戦略的なものに頼るのか。具体的にどうやって人々の声を集めるのか？」
松浦：ブロガーのみなさんには有名無名を問わず、発信していただく。政治家のみなさんにも参加してもらう。そして、一般のみなさんの意見をどう集めていくかだが、それは記事にコメントをしてもらうことが中心となると思う。反対の意見だけ
でなく、「こうすればいい」というボトムアップの意見を集めていきたい。
アリアナ：昨日、WOWOWからインタビューを受けた後に、ブログエディターが「一般の人でもハフィントンポストのメールアドレスにあてて記事を出すことができる」と説明した。ここに出してもらえれば、非常に速いスピードで自分の意見を出すことができる。そして、自分のブログに出すよりも、ハフィントンポストに出したほうがトラフィックが大きくなると思う
サーチナ・トクナガ：松浦さんに聞きたい。建設的な議論をする場にしていきたいということだが、日本ではネガティブな意見でブログが炎上しやすいところがある。ネガティブな意見を排除し、建設的な意見にするための工夫として、どのようなことをするのか。一つ一つネガティブな意見を消していくのか、システム的にネガティブな意見を排除するのか、その仕組みを教えてほしい。次にアリアナさんに聞きたい。海外でいくつもサービスを始めているが、海外で最も成功しているのはどこの国か。また今回、日本で始めるにあたって、日本の市場についてどう考えているか。
松浦：コメントへの対応は人力とシステムの両方があるが、誹謗中傷などのネガティブな表現は表示させない形で対応したいと考えている。たとえば、Aという意見に対して、それを改良したA'の案が出て、さらにそれをバージョンアップしたBの意見が出るという感じで、どんどん議論を積み重ねるような空間を作っていきたい。そういうポジティブな空間では、ネガティブなコメントはどんどんなくなっていくのだと思う。これまでの日本のネットサービスでも、ポジティブなコメントで構成されているコミュニティもあるので、同じことをニュースでも真摯に行なっていきたい。
アリアナ：海外展開の中ではフランスが特に成功している。スタートから約1年が経ったが、デジタルサイトの中でナンバー1いうポジションになっている。日本版についても非常に期待している。なぜなら日本は今、変革のときであり、人々が豊かな対話を求めているから。自分たちの声を聞いてほしいというニーズがある。そういうときにこのプラットフォームを出すので、期待できると思っている。人々のコメントについても、ネガティブな単なる反対ではなく、対話を育むようにしていきたい。アメリカの例をみれば、それができることがわかっている。私たちは今までに2億6千万のコメントを得ているが、それが非常に有益な形で対話を育んでいる。
ジミー：私たちは日本市場に非常に大きく期待している。これまで展開してきたどのマーケットでも、参加者・売上のいずれも成功している。それぞれ開始から2年後には、各国のトップ5のサイトになれると想定して進出している。日本でも上位5社の中に入ることを見込んで始めている。
東洋経済・ヤマダ：木村社長に聞きたい。朝日新聞はオピニオンサイトとしてWEBRONZAも運営しているが、これとの住み分けはどうするのか？ アリアナさんに聞きたい。米国版のサイトでは、オバマ大統領などの超VIPがブロガーとして参加しているが、日本で期待しているライターはいるか？ たとえば、安倍首相に書いてほしいとか。
木村：WEBRONZAもみなさんの支持を得て、かなり育ってきた。朝日新聞デジタルも有料会員が12万人いる。今のところ、すべてを統合することは考えていない。それぞれに支持者がいるので、全体的なバランスをみながら将来的な構想を考えている。
西村：WEBRONZAもハフィントンポストも、オピニオン言論空間という点では共通しているが、WEBRONZAは総合雑誌的なゆったりとした、落ち着いた議論をするウェブ空間と位置づけている。ハフィントンポストはもっとライブというか、ユーザーの意見を取り込んでどんどん議論を発展させていく言論空間と考えている。二つの性格はちょっと違う。今はそれぞれの特徴を伸ばし合い、高め合いながら、二つの言論空間を育てていきたいと思っている。
アリアナ：ハフィントンポストで一番書いてほしいのは一般の方々。ここには階層はない。一つ例を挙げると、米国版で政治家やセレブの隣のブログに、ホームレスのティーンエージャーのブログが載った。それがハーバード大の入学審査官の目に留まり、そこから入学できるようになった。私はこういうことが起こるのを喜びとしている。いろんな人たちが混じり合って、それぞれの物語を語ってもらう。唯一の共通点は質の高いものをもっているということだ。
パネルディスカッション「ネット選挙にソーシャルメディアはどう関わっていくか？」
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近藤正晃ジェームス（Twitter Japan代表）：昨年のアメリカの大統領選挙ではTwitterが使われ、投票日だけで3100万件のツイートがされた。非常に活発にネットで議論が起き、選挙を動かした。今年の参院選では、日本でもネット選挙の解禁により、政治家と国民の議論が変わるだろう。ニュースのサイクルも変わって、国民がどんどん議論を出していく。ハフィントンポストも含め、そういうことが選挙の議論のあり方を変えていくのではないかと楽しみにしている。
田端信太郎（LINE執行役員）：あえてディベート風にいうと、ネット選挙については危惧していることがある。いまはすごくネット選挙に関する議論が盛り上がっているが、実際に参議院選挙が行われたときに、選挙結果にどれだけネットが影響を与えられるか、必ずしも楽観できないと思っている。実際の選挙になったら、サイレントマジョリティの影響力のほうが大きい可能性がある。ネットというのは、声が大きい、変わった人たちがワーワー騒いでいるだけで、世の中のメインストリームではないということが白日の下にさらされるというリスクもあるのではないか。ネット業界の人間としては盛り上がってほしいが、楽観しているわけではなく、むしろネットの真価が問われると思っている。
アリアナ：このような規制緩和が日本で行われたことは、驚きであるとともにうれしいことだ。いまの日本は、本当に変革のときだと感じている。アメリカでは、Twitterが非常に大きな影響力をもった。Twitterでリアルタイムにニュースを受けながら、Twitterに加え、ほかのソーシャルメディアでも自分の意見をどんどん出していく人が多かった。Twitterと他のソーシャルメディアとの間で相乗効果が生まれた。これは今後、避けて通ることのできない未来だと思う。
田端：ハフィントンポストが政治やネット選挙とどう向き合うかという点と、TwitterやLINEのような技術的なプラットフォームがどう使われるかという点は、少しレイヤーが違うのではないか。たとえば、アリアナさんは米国版のハフィントンポストでオバマ大統領を支持したり、銃規制に賛成したりという意見を表明していると思うが、日本版でも同様のことを期待したい。今度の参院選でどの政党が勝つべきなのか、憲法改正についてどう思うのか。日本のメディアはそういう点について、はっきりと明言してこなかったが、ハフィントンポスト日本版にはポジションを明確にすることを期待したい。推している政治家や政党が選挙で勝てば、キングメーカーとしてのメディアの影響力を見せつけることができる。そうなると、ハフィントンポストに書けば世の中に影響を与えられるかもしれないと、ユーザーが期待するようになるのではないか。
アリアナ：ハフィントンポストは基本的に論説という形のスタンスを取り、誰か一人の候補者をチアリーダーのように応援することはない。しかし私たちのスタンスとして、たとえば、雇用を重視するという考え方はある。それに関連して、安倍政権が打ち出している政策で「3年間の育児休暇」というのがある。これについて、オープンな場でディベートしてみてはどうか。賛成か反対か、代替案としてどんなことがあるか。リアルタイムでどんどん出してもらう。そういうやり方こそが、選挙のキャンペーンについても、論点を深めていくやり方になると思う。
松浦：去年の衆議院選挙では、原発の問題がメディアで大きく伝えられたが、争点にならなかった。我々はまず、ユーザーの声を集めて、ユーザーが何を求めているかを浮き彫りにしていきたい。ユーザーとしての大きなイシューが分かれば、そこに対して議論を積み重ねていく。さらに、それに関する政治家の主張を聞いて、再びユーザーに返していく。そのように考えてもらうことが、今回のやり方なのかなと思っている。
近藤さんに聞きたい。Twitterでは、多数のツイートのなかで誹謗中傷があふれかえることがあると思う。大統領選のとき、テレビCMを使って各陣営によるネガティブキャンペーンが行われたが、Twitterでもやろうと思えば、できるかもしれない。そういう点も含めて、大統領選でどのように対応したのか。また、今回の解禁にあたって考えている対策はあるのか。
近藤：誹謗中傷の問題について、アメリカの大統領選挙で参考になったのは、オバマ陣営による「真実のチーム（Truth Team）」というサイト。もしも誹謗中傷や攻撃があった場合に、このサイトに本当の事実はこれだという反論を出していき、それに対する議論も入れて、共有していくというもの。誹謗中傷に対しては、最終的に法的な措置をとる場合もあるが、民主主義の中ではできるだけ積極的な議論が展開されるのが健全な形だと思う。
誹謗中傷的な発言に対して「すぐ落とすべきだ」と言論抑圧の方向に行くのではなくて、イシューごとにきっちり議論していく。政治家やメディアの方と話しながら、そういう環境と作っていきたいと思っている。ある意見の善し悪しについて、誰か審判の立場の人が判断するのではなく、いろいろなアルゴリズムを使って、誰がどういう意見に賛同し反対しているのかを透明化して、アジェンダを純化したり、議論を深化させていくことが、日本の民主主義を一歩前へ進めることにつながるのではないかと期待している。
松浦：LINEは、どういう形でネット選挙に関わっていくのか。
田端：LINEはプライベートのメールに近いので、そもそも誹謗中傷や名誉毀損ということ自体が概念として成立しにくいところがある。LINEを通じて、すべての人に開かれた形で議論が巻き起こるということはあまり想定していない。いま興味があるのは、書評におけるアマゾンのレビューのように、オピニオンを集約させるハブのようなサイトができるのかどうか、ということ。ネット上のオピニオンはいろいろなところに分散、断片化しているが、それらを一つの視点で可視化して、議論につなげていけないか。
その点、Twitterの「ハッシュタグ」というのは、うまい仕組みだと思う。それぞれのユーザーがホームグラウンドを持ちながら、ある特定の話題について横串を通すことができる。FacebookやTwitterやLINEのように、純粋に技術のレイヤーに特化しているプラットフォームならば、「ニュートラルでフェアなジャッジだな」と思わせる信頼感が出せるかもしれない。だが、ハフィントンポストの場合はどうなのか。まさしく「編集長」というのは、生身の人間がある種の偏見をもってジャッジするということを裏側にもっていることを意味する。生身の人間であることを超えて、公平性や中立性を出せるのか、すごく興味がある。たとえば、サラ・ペイリンみたいな人が寄稿したいといえば、受け入れるのか。
アリアナ：もちろん。サラ・ペイリンでも、ブログを寄稿できる。どんな意見を持っている人であっても、誹謗中傷のカテゴリーに入らなければ、自分の意見を自由に表現できる。私たちは自分たちに同意する意見だけを出すわけではない。ハフィントンポストの一番大切な仕事は、真実を求めること。ジャーナリストとして真実が何かを探求し、それを人々に示していくというのが、私たちの仕事だと思う。たとえば、銃規制についてもいろいろな論争があるが、究極的には自分を守るためにはどうすればいいのかという点について、いろいろな意見を募っている。
松浦：逆に、アリアナから近藤さんや田端さんに質問したいことがあるか？
アリアナ：近藤さんのプロフィールに「瞑想」について書かれているのを見て、とても興味深く感じた。私も興味を持っているテーマなので、ぜひハフィントンポストでブログを書いてほしい。
近藤：瞑想を始め、日本のいろいろなライフスタイルがアメリカで非常に注目されている。いまアベノミクスで日本の経済に対する注目が集まっていると思うが、ほかにも日本にはいろいろな良い宝物があって、海外でも日本の価値として認められている。ハフィントンポスト日本版でオピニオンを書く人のなかにはフードライターや禅僧もいて、世界的な発信力をもっているので、期待している。いい人がたくさんいるので、そういう人を選んでもらえればいいと思う。
アリアナ：いやいや、私はほかの人ではなく、近藤さんに書いてもらいたい。近藤さんはTwitterという近代的でリアルタイムに動いていく技術にたずさわりながら、一方で、まったく時間を超えた座禅を組むという日本の伝統を身につけている。その二つの両方をもっている方に、その物語を書いてもらいたいと思う。田端さんに聞きたいのは、LINEのスタンプのこと。LINEにはいろいろなかわいいスタンプがあると思うが、あれはどのように選んでいるのか。どのようにして人々の感情をあらわすスタンプだと判断しているのか。
田端：我々の社内にクリエイティブのディレクターがいて、チェックしている。外部のスポンサーのスタンプは、そこが監修している。LINEは日本以外の国でも展開しているが、国ごとにコミュニケーションのスタイルが違うように思えて、実は、使われるスタンプの傾向は共通した傾向が読み取れる。人間の喜怒哀楽を含んだコミュニケーションのベーシックなパターンは、言語や文化や人種を超えて、ユニバーサルな部分があると思っている。
松浦：今回はいろいろ議論が出てきた。続きは、ハフィントンポスト日本版で記事化していきたい。（了）
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