宮崎港と神戸・三宮港を結ぶ「宮崎カーフェリー」に新造船が就航します。かつての「日本カーフェリー」時代のファンネルも復活、船内はいまの船体と比べて格段に快適になりました。

ハマケンらが歌うテーマソングも話題「フェリーたかちほ」

 宮崎カーフェリーの新造船「フェリーたかちほ」が、2022年4月15日(金)19時10分に宮崎港を出港する神戸・三宮港行きの便でデビューします。これまで就航していた「みやざきエキスプレス」を置き換えるこの船体は、広島県因島の内海造船で昨年10月に進水式、就航の準備を進めていました。

 東九州から近畿地方へ向かうフェリーの拠点、北から新門司(北九州)、別府・大分、宮崎、志布志(鹿児島)は、それぞれがやや離れているうえ、宮崎から陸路で近畿へ向かえば負担は大きくなります。宮崎カーフェリーの航路は、宮崎港から約12時間強で神戸までショートカットする存在として重宝されています。


フェリーたかちほ。三宮港にて(宮武和多哉撮影)。

 車両甲板には宮崎県産の野菜を運ぶトラック・コンテナの姿も目立ち、下船後に阪神高速3号神戸線や名神高速に乗り、そのまま首都圏に向かうことも多いのだとか。もちろん旅客面でも宮崎県に観光客を呼び込む重要な手段となっており、コロナ禍前はツアー客の利用も多く見られました。

 今回の新造船は全長194m、現行の「みやざきエキスプレス」(170m)よりもワンサイズ大きく、トラックの積載台数も3割近くアップしています。旅客定員は現行より2割近く少なくなったものの、代わりに個室が増強されています。共用スペースなどもゆったり構えられるなど、プライベート空間を重視する“アフターコロナ“を見据えた様子が伺えます。

 新造船の就航は宮崎県内では連日のように報道され、俳優・ミュージシャンの浜野謙太さんがボーカルを勤める特別ユニット「PacificOrangeBand」が新しいイメージソングを手がけたこともあり、高い注目を集めています。就航に先立つ4月14日に行われた新造船の内覧会で、その内部を見てきました。

船内は現在の船より“てっげ(とても)快適!“

「フェリーたかちほ」の煙突の “ファンネルマーク”には、空を舞うトンビがあしらわれています。このマークは、同社の前身である「日本カーフェリー」「マリンエクスプレス」時代のデザインを復刻したもので、かつて神戸〜日向細島港の航路を担っていた「高千穂丸」(1998年引退、売却の後にギリシャで就航中)「美々津丸」などにも描かれていました。

 かつては関東でも同様の船が、川崎・浮島港に就航しており、見覚えがある方もいるでしょう。黄金色に縁取られたファンネルを、懐かしそうに眺める人の姿も見られました。

 乗船早々、「みやざきエクスプレス」より入口のエスカレーターが格段に広くなっていることに驚かされます。今回の新造船では通路や共用スペースを大幅に見直したといい、窓の広いラウンジも設置されています。トロピカルフルーツをイメージしたという暖かい色調に包まれた空間は、景色を眺めて座っているだけでも快適そのものです。

 船内の個室は現行の29室から216室まで一気に拡充し、プランも「プレミアム」「ファースト」などが追加。パウダールームやペットテラスも設置され、その快適さはこれまでの船体を大きく上回ります。また、乗船ターミナルにもスロープを設けるなど、バリアフリー動線も改善されています。


ファンネルのトンビのマーク(宮武和多哉撮影)。

 そして、宮崎の農業を担うトラックドライバー向けの個室「ドライバーシングル」も100室以上が準備され、外に向いた景色が良い一角にドライバー専用レストランも設けられました。

 ただ、「みやざきエキスプレス」などにあった宮崎県のご当地ポケモン「ナッシー」の巨大なプリントが見当たらないのは残念なところ。しかし売店ではナッシーグッズをはじめ一通りの土産物、そしてもちろん“御船印”(御朱印の船バージョン)も扱っているそうです。

カーフェリー、宮崎の「稼げる農業」を支える!今後は競争力に課題も

 宮崎カーフェリーは旅客輸送を担うと同時に、きゅうり、ピーマン、大根などの野菜、牛、豚、鶏など、宮崎県産の食材の出荷に重要な役割を果たしています。47都道府県中5位の農業出荷額をキープし、農業従事者は人口の2割弱。近年では海外への出荷額が数年で10倍の伸びを示すなど「稼げる農業」が看板でもある宮崎県にとって、多量輸送によってコストを押し下げる海上輸送・フェリーの存在は、重要な命綱でもあります。

 また宮崎県からのトラックによる陸送の距離は近畿圏で約850km、関東へ約1400km。近年の「働き方改革」による拘束時間の上限設定の影響もあり、県のトラック協会も「配送の場所によっては、陸送では法令を遵守できない」とコメントしています。RORO船(貨物船の一種)の航路を持つ事業者も宮崎カーフェリーに出資するなど、ライバルからも期待を寄せられている状態です。こうして、陸上輸送を切り替える「モーダルシフト」によって、宮崎カーフェリーは物流の需要を堅実に担ってきました。

 しかし、県北部の延岡、県南部の日南などでは、東九州道の開通・延伸により大分港や志布志港に発着する「フェリーさんふらわあ」との競争も起きています。2020年にはコロナ禍によって総旅客数が6割減少したほか、現在は世界的に原油高が進むなど、経営を取り巻く環境は厳しいものがあります。


出航を5時間後に控えて待機中のトラックが集まっている(宮武和多哉撮影)。

 宮崎カーフェリーは2018年に経営の安定と船体の更新を目指して国・県・地元財界が出資する現在の経営体制に移行したばかり。この航路は農作物の出荷時期には積載しきれないほどの状況が続くため、今後も宮崎の農業を支え続けるでしょう。

 なお、「フェリーたかちほ」の2番船となる「フェリーろっこう」も3月に内海造船で進水式を終え、秋に就航する予定。こちらも現行の「こうべエキスプレス」を置き換えます。コロナ禍による影響もまだ残るなか、快適な新造船によって旅行客の呼び込みも期待されます。