『ファンタビ』なぜジョニー・デップは降板したのか グリンデルバルド役交代の真相
映画『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』が本日、日本で公開された。今作でグリンデルバルドを演じるのはマッツ・ミケルセン。しかし、今夜「金曜ロードショー」(日本テレビ系)で放送されるシリーズ2作目『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』では、この役をジョニー・デップが務めている。役者が交代になったのには、どんな背景があったのか。(Yuki Saruwatari/猿渡由紀)
デップが演じるグリンデルバルドは、1作目『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』の最後でちらりとお目見え。2作目で本格登場し、3作目は出番がたっぷりになると言われていた。デップも楽しみにしていたはずだが、彼は1シーンを撮影しただけで、映画を降ろされてしまうことになったのである。イギリスの出版社を相手にした裁判で、デップが負けたせいだ。
裁判は、イギリスのタブロイド紙 The Sun が、デップを「DV男」と呼んだことに本人が怒って起こしたもの。デップの元妻アンバー・ハードは2016年春、離婚申請にあたって、デップからDVを受けていたと主張した。デップはそれを否定したが、The Sun はハードの言い分を信じる記事を書いたのだ。
二人が証言し、過去のメールや日記、写真など証拠が出された裁判では、デップもハードも互いに向けて暴力をふるっていた事実が明らかになっている。しかし、この裁判は、記事が名誉毀損にあたるかどうか、つまり嘘を書かれたかどうかについてのものであることから、たとえ自分も相手から暴力を受けていたにしろ、デップがDVをしていたことは「おおむね事実と言える」という結論に達した。そうやってあらためて「DV男」認定をされてしまったデップに、米ワーナー・ブラザースは降板を迫ったのである。
デップはそのことを、Instagramを通じてファンに報告。ワーナーの要望に従うことにしたという結論に加え、支持をしてくれるファンへの感謝と、真実のために戦い続けるという姿勢を示した。それが、2020年11月6日のこと。代役にミケルセンが決まったと確認されたのは、11月25日。すでに撮影が進んでいたこともあり、かなりのスピードキャスティングだ。
この展開に、デップの忠実なファンは激怒した。デップが不当な扱いを受けていると信じる彼らは、「#JusticeForJohnnyDepp」のハッシュタグとともに、やはりワーナーが製作・配給の『アクアマン』続編からハードを降板させろとソーシャルメディアで要求。同じようにDVをしていたことがわかっているのに、ハードだけ何事もなかったかのように出演させるのはフェアではないからだ。オンラインで始まった署名運動には100万人以上が賛同した。
しかし、彼らの努力は報われず、それからおよそ7ヶ月後、ハードは『アクアマン』続編の撮影現場に向かった。この時にはファンの怒りが再燃したが、プロデューサーのピーター・サフランは、ハードを降板させることは考えなかったと米メディアに語っている。デップと違って、ハードは裁判所から「DVをしていた」と言われたわけではなく、人々の意見だけで契約を解消するのは容易でないという事情も関係していたと思われる。
唯一救いと言えるのは、ほとんど仕事をしなかったにもかかわらず、1,000万ドルのギャラが全額、約束通りデップに支払われることだろう。デップはここのところ裁判続きで、多額の弁護士費用がかかっているはずなのだ。実際、この元夫妻は別の裁判でまたもやご対面する。こちらは The Washington Post に寄稿した意見記事でDV体験を語ったことに対し、デップがアメリカで起こした名誉毀損訴訟だ。記事の中でハードはデップを名指しこそしていないものの、読めばそれがデップを指していることは明白。この記事から受けたイメージダウンの賠償として、デップはハードに5,000万ドルの支払いを求めている。それを受けて、ハードはデップに1億ドルを要求する逆訴訟を起こした。この泥沼離婚は、終わるところを知らない。
グリンデルバルド役を失うという無念な思いをしたデップが望むのは、DV男という納得いかないレッテルを完全に剥がすこと。そのためになら、苦しくても彼は永遠に戦い続けるのだ。スクリーンで暴れ回ることができなくなっても、彼にはこれから裁判所での長いバトルが待っている。この私生活の物語で、彼は困難を克服することができるのだろうか。映画のようなハッピーエンドはあるのだろうか。デップ本人はもちろん、ファンもそれを願ってやまない。