中国、成長目標「5.5%」...前年から引き下げ その背景に「共同富裕」「ゼロ・コロナ」「ウクライナ情勢」の重荷
中国が今年2022年の経済成長率の目標を5.5%に設定した。
いうまでもなく、中国では習近平中国共産党総書記(国家主席)が今秋の党大会でいかに円滑に3期目に入るかがすべてに優先する課題で、成長率目標も「安定優先」で決まったといわれる。
ただ、その目標も達成は容易でないうえ、新型コロナウイルスやウクライナ情勢など不安定要素も多く、平坦な道ではなさそうだ。
ひときわ注目度が高かった全人代
中国は2022年3月5〜11日、全国人民代表大会(全人代)を開いた。国会に当たるもので、「全体会議」が毎年1回開かれる。日常的には、常設機関の「全人代常務委員会」が立法などを行う。全人代は行政機関である国務院と一体となった権力機関で、そもそも、共産党が最高権力を握り、立法、行政、司法をコントロールする仕組みだから、日本などの三権分立とは異なる。
とはいえ、毎年、政府の方針を示し、決定する場として、中国の考え、目指す政策の方向性を知るうえで重要な会議だ。とくに2022年は、秋に5年に1度の共産党大会を控え、今回は通常2期10年ごとの「政権交代」の年に当たることから、全人代への関心も高かった。この点、習総書記が慣例の10年での政権交代をせず、異例の3期目に入ると見られることで、もう1段も2段も注目される全人代となった。
看板政策「共同富裕」が経済成長の足かせ
全人代で最も重視されるのが、冒頭に行われる首相による「政府活動報告」だ。いわば政権の施政方針演説で、李克強(リー・クォーチャン)首相はここで「5.5%成長」を打ち出した。
これが高いか、低いか。21年の成長率は8.1%と「6%以上」とした目標を大きく上回った。ただし、コロナ禍で20年の成長率が2.2%まで減速した反動だった。足元では21年10〜12月期の成長率が4.0%と低空飛行になっている。そのため、22年の「5.5%」という目標は、19年以来3年ぶりに前年目標から下方修正せざるを得なかった、ということだろう。
こうした経済低迷の背景にあるのが「共同富裕」だ。共に豊かになるという意味で、習政権の看板政策といえる。ようするに、格差是正だ。
住宅価格の投機的な高騰などに国民の不満が高まったことから、経済成長を多少犠牲にしても住宅価格を抑えるほか、アリババなど大手IT企業の規制に取り組んできた。徹底して国内のコロナ感染を封じ込める「ゼロ・コロナ政策」とも相まって、経済活動が減速した。
共同富裕は、習氏が政権に就いた当初に力を入れた「反腐敗」(汚職一掃)の取り組みと同様、国民の不満に応える狙いで、ここにきての共同富裕は習政権3期目をにらんだ最重要政策でもあった。ただ、それも行き過ぎると経済を痛めすぎる――そんな懸念が強まっていた。
李首相の政府活動報告は、まさにこの点を意識したもので、報告で共同富裕にはさらりと触れただけ。逆に、景気の持ち直しの重要性が強調され、「積極的な財政政策の効力を高める」として、減税措置や税の還付などを含めて、前年を上回る2.5兆元(約45兆円)の企業負担軽減を進める方針を示した。雇用の安定化に向けて、失業保険や労災保険の保険料引き下げなどの措置の延長も打ち出した。
財政と並ぶ金融政策についても「緩和的な金融政策の実施を強化する」として、21年12月、22年1月と連続で実施した利下げの追加実施に含みを残した。
IMFによる中国の成長率予測...最新は4.8%どまり
ただ、先行きの不安定要素も多い。コロナ感染が再び広がる懸念は常にある。資源価格の上昇は企業収益を圧迫する恐れがある。
さらに、ウクライナ情勢は戦争の泥沼化の懸念もあり、一段の資源価格上昇、対露経済制裁などによる世界経済の減速の可能性があり、中国経済も影響は免れない。今のところ比較的落ち着いている中国国内のインフレも、資源価格の上昇などで加速し、金融緩和の足かせになりかねない。
実際、中国の成長率の予測は、中国のシンクタンクでさえ、ロシアのウクライナ侵攻前でも5%台前半と、政府が今回打ち出した目標の5.5%を下回る水準。国際通貨基金(IMF)の1月の最新予測では4.8%にとどまり、ウクライナ情勢も加味すると、一段の下押し圧力がかかるとみるのが順当だろう。
すべてに優先する習体制継続に向け、不動産バブルの退治など一定の痛みも伴う政策と、経済成長の両立を目指すが、経済運営のかじ取りは難しさを増している。(ジャーナリスト 白井俊郎)