中国、2023年に「高所得国」入り? 著名経済学者が挙げる3つの理由
2022年1月21日、北京で開催された経済フォーラムで、「中国が2023年末までに高所得国入りする」との見解を、中国の著名経済学者らが示した。1年後には「人口14億人、世界最大の高所得国が誕生する」と予想される、3つの理由とは何なのか。
■韓国、台湾に続く高所得国へ成長
中国共産党機関紙、環球時報の報道によると、「中国経済の現状と未来」をテーマに中国公共外交協会が主催したフォーラムでは、中国を代表する経済学者間でさまざまな議論が交わされた。その中で特に注目を集めたのが、「中国が2023年末までに高所得国になる」という見通しだ。
世界銀行の元チーフエコノミストであり、中国人民政治協商会議(CPPCC)全国委員会常任委員の林毅夫氏は、中国経済の展望について、「2022年の成長率は6%前後と確信している」「今後数十年にわたり、世界の成長の原動力であり続けるだろう」との見解を示した。
第二次世界大戦以来、低所得から高所得への進歩に成功したのは、台湾と韓国の2ヵ国のみという点にも触れ、「中国本土は3番目になる可能性がある」とも述べた。
一方、中国共産党全国委員会経済委員会副主任の劉世珍氏は、2022年下半期から成長速度が再加速し、成長率が5%を超える可能性は「非常に高い」と予測した。
■「中間所得国の罠」にハマった中国 コロナ禍の高度成長は失速?
林氏らの見解は、過去に推定されていたより早い時期に、中国が「中間所得国の罠」から抜け出すことを意味する。「中間所得国の罠」とは、新興国が中所得国になった後に成長が鈍化し、発展国に仲間入りできない状況を指す。
高所得国入りする時期については繰り返し議論されてきたが、直近ではKPMGが「第14次五ヵ年計画(2021〜25年の中国経済・社会発展目標)」の年間平均成長率を4.0%前後と想定し、2025年末と予想していた。
中国経済は2003〜2010年にわたり、概ね2桁台のGDP成長率を維持していたが、過去10年間は足踏み状態が続いていた。2021年はコロナ禍の需要の高まりが追い風となり、輸出をけん引役に10年ぶりの8.1%という高度成長を記録した。
しかし、感染の再拡大による厳格な入境規制や、中国恒大集団の経営危機にともなう不動産市場の冷え込みが足かせとなり、第4四半期のGDP成長率は前年比4%と過去1年半で最も低い伸びとなった。中国人民銀行は2021年12月から2ヵ月連続で政策金利を引き下げた。
景気減退の懸念が市場に広がったことを受け、IMFは中国経済の実質GDP成長率予測を0.8ポイント減の4.8%に、世界銀行は0.3ポイント減の5.1%へ下方修正した。
■「中国が2023年までに高所得国入りする」3つの理由
中国の経済回復の持続性が疑問視される中、林氏らは3つの期待材料を挙げている。
● ●1.中国経済全体と国民1人当たりの水準が、堅調な伸びを示している
中国国家統計局が発表した2021年の統計によると、後半は失速したとはいえ、中国経済の成長ぶりは目を見張るものがあった。
中国の一人当たりのGDPは前年比8.0%増の8万976元(約147万8,322円)と世界平均の1万2,100ドル(約139万4,505円)を上回り、世界銀行が定義する高所得国の水準に迫った。世界銀行は2022年度の一人当たりのGNI(国民総所得)を、1万2,695ドルと定義している。GNIとは、居住者が国内外から1年間に得た所得の合計で、GDP(国内総生産)同様、国の経済成長の指標だ。
国内総生産(GDP)は、前年比8.1%増の114兆3,670億元(約2,069兆1,894億円)である。GNIと一人当たりの労働生産性もそれぞれ7.9%増、8.7%増と大幅な伸びを示した。第1〜3期にわたり経済が急回復する中、人民元高が進んだことが追い風となった。
● ●2.政策と経済モデル
劉氏いわく、中国の政策は「国の実情に基づいて決定されるため、費用効果が最も高い」ため、「コロナの生産と雇用への影響を抑制する一方で、高度な成長を遂げることができた」という。
この点については、中国共産党系列のメディア、チャイナネット(中国網)が「揺るぎない戦略的方針を維持し、マクロ経済政策に的確に力を発揮させ、的確な施策を実施した」と、「中国共産党の制度的優位性」を絶賛している。
また2020年には、新たな経済モデル「双循環」を打ち出した。習近平国家主席はこれを「国内大循環を主体として、国内外の双循環が互いに促進する経済の新発展モデル」と説明している。引き続き国外市場を重視する一方で、生産や消費からなる国内市場を強化する発展モデルへの転換を目指す。
● ●3.類まれに見る成長力
林氏は「中国の貯蓄高は世界で最も高く、GDPに占める政府の赤字の割合は最も低い国の1つ」であることに加え、「高度投資成長を維持するためのリソースがある」と主張している。
同国の貯蓄率は2000年を境に上昇に転じ、世界屈指の貯蓄大国となった。今や「世界の工場」のみならず、5GやAI(人工知能)といった先端技術分野でも世界をリードする存在だ。2021年の対中投資は、14.9%増の1兆1,494億元(約20兆9,694億円)と過去最高記録を更新した。
このような背景から、林氏は「2019〜2030年にわたり、年間成長率が8%に達する可能性がある」と期待を寄せている。
■「世界最大規模の高所得経済圏」実現の野望
もちろん、林氏が指摘しているように、たとえシナリオ通りに「中所得国の罠」から脱出できたとしても、所得格差や環境汚染、国民の高齢化など、経済発展の観点から解決すべき問題は山積みだ。また、データ隠ぺいの歴史から、「中国が公表する数字(特に経済関連の統計)は信用できない」という指摘も多い。
そう考えると、中国が主張する「コロナ禍の高度成長」もどこまで信用してよいのか分からない。
1つだけ確かなのは、経済成長の低迷から抜け出せない先進国を横目に、中国が「世界最大規模の高所得経済圏」の野望実現に向けて突き進んでいることだ。その計り知れない野望こそが、新たな成長の原動力となっているのだろう。
文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)