世界中でさまざまなランキングがおこなわれている。ランキングデータを見るときの注意点は何か。サイエンスライターで作家のトム・チヴァース氏は「ランキングはまったく無意味とは言えませんが、併せて数値を確認する必要があります。さらなる問題は、ランキングの多くは主観的な意見を集めたものに基づいていることです」という――。

※本稿は、トム&デイヴィッド・チヴァース『ニュースの数字をどう読むか 統計にだまされないための22章』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/stockinasia

■ランキングの順位は何を意味しているか

BBCのウェブサイトで2019年に、「インターナショナルスクールのランキングでイギリスが上昇」という見出しが立ちました(※1)。世界中の子どもたちの学習到達度を比較しているPISAランキングで、イギリスは1年のうちに読解力が22位から14位に上がり、科学や数学の順位も上がったのです。良い話に聞こえます、よね?

ええ、どう見ても悪い話ではなさそうです(少なくともイギリスにとっては。ある国の順位が上がれば、別の国は下がるのですが)。しかし、こうした粗いランキングは、多くの情報を隠蔽してしまいます。

彼らがやっているのは、数字を上から順に並べて、どの国が1位、2位、3位、(そしてビリ)と言っているだけです。しかし、ランキング自体に興味があるというのでもない限り、ランキングがそれだけで多くのことを教えてくれるわけではありません。

■ランキングが下がるのは本当に悪いことか

たとえば、イギリスが”世界第5位の経済大国”という言い回しはよく見かけます、というか、少なくとも以前はよく見かけました。IMF(国際通貨基金)によれば2019年に、イギリスはインドに飛び越されました(※2)。

ランキングの順位に驚くほど国の威信をかけていたある種のイギリス人にとって、これは恥でした(とは言え、こんなことが起きたのは今回が初めてではありません。イギリス、フランス、インドは過去数年間に、IMF上の順位が何度も入れ替わっています。5位は、2017年にはフランス(※3)、2016年はインドでした)(※4)。

とはいえイギリスにとって、順位が5位、6位、あるいは7位だからといって、実際に何が違うのでしょうか? ランキングの順位はイギリスの経済について何を物語っているのでしょうか?

最新のランキングが出てからの1年間、イギリス経済は明らかにインドほど早くは成長しなかったと言えます。しかしそれは、イギリスの経済規模が大きいという意味では? 世界には195カ国もあるのですから、5番目に大きいのならすごく大きいと考えるかもしれません。でもそれって本当でしょうか?

■ランキングが変わらなくても中身は変わっている

サッカーに喩えて考えてみましょう。2018〜2019年シーズンは、マンチェスター・シティが1位、リバプールが2位で終えました。2019〜20年は、リバプールが(COVID-19)による3カ月の中断を経て、ついに)1位、シティが2位でした。

もしランキングがすべてなら、この2シーズンはほとんど同じだったと思うかもしれませんが、大きな違いが隠されています。2018〜19年、シティはリバプールより勝ち点が1ポイント上回って終えたのですが、2019〜20年のリバプールは、シティを18ポイントも上回って終えたのです。

同様に、IMFランキングによれば、名目GDPの世界トップ7カ国はアメリカ、中国、日本、ドイツ、インド、イギリス、フランスです(※5)。これはサッカーの2018〜19年シーズンのように写真判定が必要な差でしょうか、それとも2019〜20年のような、ぶっちぎりの差でしょうか?

見てみましょう。

■重要なのは順位よりも、どのくらいの差があるか

イギリスとフランスはほとんど区別できないほどのわずかな差(イギリスの経済規模はフランスよりわずか1.3パーセント大きいだけ)で、国の経済規模を測るのは微妙に難しいところがあることを考えれば、おそらくは誤差の範囲です。5位のインドもわずかに大きい(イギリスより約7パーセント大きい)ですが、圧倒的な差とは言えません。

出所=『ニュースの数字をどう読むか』より

しかし、順位を上げてドイツに来ると、イギリスより40パーセント大きく、その上の日本は87パーセント大きい。そして中国やアメリカに至っては、同じ土俵にも立てないほどです。

中国の経済規模はイギリスより380パーセント大きく(約5倍)、アメリカは630パーセント大きく、イギリスの7倍以上です。どの国が5位になるかという議論は、エバートン、アーセナル、ウルブス[いずれもプレミアリーグで中位のチーム]がヨーロッパリーグの出場権を懸けて争っているのと同じようなことなのです。

■イギリスで3位のバージン・コーラが破綻した理由は

イギリスの経済規模が非常に大きいと言えるかどうかお答えしておきましょう。世界のGDPに占めるシェアで言えば、アメリカは正真正銘巨大であり、全世界で使われる4ドルのうち1ドルはアメリカを経由します。6ドルのうち1ドルは中国です。

他方、イギリスは世界経済の3パーセントちょっとを占めるにすぎません。比較の意味で、リチャード・ブランソン卿が1990年代初頭に立ち上げたバージン・コーラ(コークやペプシのライバルになろうとして、パメラ・アンダーソン[1967年生まれのカナダ出身のモデル、女優]をかたどった瓶に入っていた)を見てみましょう。

バージン・コーラは、コーラ飲料のイギリス国内マーケットで何とか約3パーセントを獲得したものの、数年後に生産を中止しました(※6)。

バージン・コーラはイギリスで3番目に大きいコーラ飲料会社だったかもしれませんが、それでもさほど大きいわけではなかったのです。同様に、イギリスの経済規模は世界で5番目に大きかったかもしれませんが、それでもさほど大きいわけではありません。

しかし、まだ多くの情報を見落としています。ちょっと考えてみましょう。明日、誰かが何か(レモン2個とファンタの空き缶で作った常温核融合エネルギー生成装置にしましょう)を発明して、一夜のうちに、世界のすべての国の経済が10倍に成長するとします。

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■GDPランキングが高いほど国民は幸福か

先ほどの表を見てみましょう。イギリスはまだ6番目でインドの後塵を拝しています。ただ、GDPの数値の最後にゼロが1つ増えました。

重要なのは相対的な豊かさだというのは本当です。私たちは少なくとも部分的には、絶対値ではなく他人と比べてどのくらい豊かであるかによって幸福感を得るというエビデンスがあります(※7)。

私たちのファンタ缶常温核融合の発明は、世界に革命を起こし、何億もの人々を貧困から救うことでしょう。しかしそれでも、ランキングに限ってみれば何も変わりません。フランスは依然として7位あたりをうろうろしており、無駄なストライキをやりたがる怠け者です。

(国のGDPは国民全員の総和なので、GDPの大きさは個人にとってはさほど意味はないということも知っておくべきです。リヒテンシュタインは人口が少ないためGDPは常に小さいのですが、国民のほとんどはかなり裕福です。逆に、インドネシアは人口が多いためGDPはとても大きいのですが、国民の多くはかなり貧乏です。そう考えると1人当たりGDPのほうが興味ありますよね。IMFの1人当たりGDPのリストによると、イギリスはかなり順位が下がって21位です)(※8)。

■ランキングと併せてデータも確認すべき

ランキングに全く価値がないわけではありません。ランキングは、あなたが同僚に比べてどのくらいよくやっているかについて何かを教えてくれます。“あなた”が営業マンでも、レスターシャー州の学校であっても、あるいは中規模の西欧民主国家であっても。

たとえば、イギリスはCOVID-19のスワブテスト[綿棒で鼻咽頭ぬぐい液を取る検査]の数でドイツに後れを取っているか、あるいは、芸術や防衛にかける予算規模が他の国と比べてどの程度かを知るには有用でしょう。

しかしそうであっても、そのランキングがどんなデータに基づいているかを併せて知らなければ、有用とは言えません。スワブテストでドイツに後れを取っているとしても、ドイツは人口10万人当たり500回、一方イギリスは499回であれば、たぶん気にはなりません。500回対50回なら、何かがどこかで間違ったのかもしれませんが。

とはいえ私たちは今日、大学ランキング、学校ランキング、病院ランキングなど、あらゆるものの順位を数えたがります。カレー屋さんのランキングもあればケバブの賞まであります。

■多くのランキングは主観的意見に基づく

さらなる問題は、ランキングの多くは主観的な意見を集めたものに基づいていることです。たとえば世界大学ランキングのスコアは“学者の評判”を重視しており、大学スコアの40パーセントがそれに依存しています(※9)。

学者に対して調査を行い、200校の大学について、教育と研究をどのくらいしっかりやっていると思うか尋ねます。ほとんどの学者は対象となるほとんどの大学で一度も講義を受けたことがないので、多くは推測になります。

そのため、ランキングはかなり変動しやすいものになります。たとえば、デイヴィッド[著者のデイヴィッド・チヴァース]が学んだマンチェスター大学は、世界大学ランキングで27位ですが、「ガーディアン」のイギリス大学リストでは40位です(※10)。

これは明らかにおかしいです。イギリス国内にマンチェスター大学より良い大学が39校あるなら、イギリスを含む世界のランキングでマンチェスター大学より良い大学が26校のはずがありません。

トム[著者のトム・チヴァース]が大学院の学位を取ったロンドンのキングス・カレッジもおかしなことになっています。イギリスで63位なのに、世界では31位です。

このように直観に反する結果が出るのは、ランキングにどんな指標を用い、それぞれにどのくらい重きを置くかの判断のせいです。もし“学者の評判”より“学生の満足度”を重視するなら、結果は違ってくるでしょう。

指標として何を評価するかについての恣意的な判断が、結果をがらりと変えてしまいます。ランキングがすべて誤りというわけではありませんが、神様のごとく正しいと見なしてはいけないのです。

■数値がわずかな差の場合のランキングの問題点

さて、PISAランキングに戻りましょう。PISAランキングは何に基づいているのでしょうか? このランキングは役に立つのでしょうか? まず、PISAは大学ランキングほど主観的ではないことは認めましょう。

トム&デイヴィッド・チヴァース『ニュースの数字をどう読むか 統計にだまされないための22章』(ちくま新書)

スコアは、各国で15歳の子どもに実施される標準化された試験に基づいています。試験科目は数学、科学、読解力です。そして、これらの試験は実生活での妥当性を担保しているように見えます。

つまり、PISAテストで成績の良い子どもはそうでない子どもに比べて、さらに進んだ教育を受け、後の人生で良い職を得る可能性が高いという傾向が見られます(※11)。つまり、PISAテストは現実の何かを測定しており、ランキングがまったく無意味とは言えません。

しかし、PISAランキングはPISAスコアに基づいていており、イギリスのように裕福な先進民主主義国家のほとんどはPISAスコアが似通っています。たとえば読解力を見ると、イギリスの平均スコアは504点で日本と同じ、オーストラリアより1点高く、アメリカより1点低い(※12)。

スコアは555点(中国の4つの省)から320点(メキシコとフィリピン)に広がっていますが、裕福な先進民主主義国家の20カ国はほぼすべて493点から524点の範囲に集中しています。

■何も変わらなくてもランキングが大幅アップする

そのため、統計学的に有意ではないわずかな変化でも、イギリスの順位は何番か下がってしまいます。実際、PISAはご親切にも、イギリスのスコアが、スウェーデン(506点)、ニュージーランド、アメリカ、日本、オーストラリア、台湾、デンマーク、ノルウェー、ドイツ(498)と統計学的に区別できないと言ってくれています。

実際には何も変わらなくても、理論上は、ある国が20位から11位に飛び上がることがあり得るのです(イギリスの数学ランキングは27位から18位に上がりました。ただ、それはどうやら統計学的に有意だったようです)。

繰り返しますが、ランキングが無用というわけではありません。しかし、ランキングはそれ自体ではそれほど役に立ちません。ランキングに使われるスコアを知る必要がありますし、そのスコアがどのように作られるかを知る必要があります。

贔屓のサッカーチームがライバルを1点上回ってシーズンを終えるかどうかは気になるでしょうが、自国の経済規模がインドより1パーセント小さいかどうかなんて、まったく気にならなくて当然ですよね。

[脚注]
※1. Sean Coughlan, ‘Pisa tests : UK rises in international school rankings’,BBC News, 2019
※2. ‘India surpasses France, UK to become world’s 5th largest economy:IMF’, Business Today, 23 February 2020
※3. Alanna Petroff, ‘Britain crashes out of world’s top 5 economies’, CNN,2017
※4. Darren Boyle, ‘India overtakes Britain as the world’s sixth largest economy (so why are WE still planning to send THEM £130 million in aid by 2018 ?)’, the Daily Mail, 2016
※5. World Economic and Financial Surveys, World Economic Outlook Database, IMF.org
※6. Marcus Stead, ‘The quiet death of Virgin Cola’, 2012
※7. Clark, A. E., Frijters, P. and Shields, M. A., ‘Relative income, happiness,and Utility : An explanation for the Easterlin Paradox and other puzzles’,Journal of Economic Literature, 46(1) (2008), pp. 95︲144 doi : 10.1257/jel.46.1.95
※8. IMF World Economic Outlook Database, 2019
※9. ‘QS World University Rankings : Methodology’, 2020
※10. ‘University league tables 2020’, the Guardian
※11. OECD PISA FAQ
※12. ‘PISA 2018 results : Combined executive summaries’

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トム・チヴァースサイエンスライター、作家
「テレグラフ」「バズフィード」を経て18年よりフリー。同年王立統計学会'statistical excellence in journalism'賞を受賞。著書に『AIは人間を憎まない』(飛鳥新社)。
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デイビッド・チヴァースダラム大学経済学部助教授
専門はマクロ経済。
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(サイエンスライター、作家 トム・チヴァース、ダラム大学経済学部助教授 デイビッド・チヴァース)