川島明をなめてはいけない(写真:「ラヴィット!」公式サイトより)

最初は視聴率も伸び悩んだが…

2021年4月に始まった麒麟・川島明がMCを務める朝の情報番組『ラヴィット!』(TBS)が人気だ。もともとこの時間帯の民放では社会的なニュースや芸能ネタを扱うワイドショーが主流だった。前番組の『グッとラック!』もその路線を踏襲していた。

だが、『ラヴィット!』はあえてその逆を行き、純粋なバラエティー番組路線を貫いた。開始当初は「この時間帯に時事ネタを扱わないで数字が取れるわけがない」などと噂されていて、視聴率も伸び悩んでいた。

朝の時間帯は「毎日この番組を見る」と決めている固定の視聴者が多いため、そこに新しい番組が割って入って結果を出すのは容易なことではない。

ただ、『ラヴィット!』はしぶとかった。開始から約1年経った今では、数字が安定してきて、評判も良くなってきた。芸人が多数出演するお笑い要素の強い異色の情報番組として多くの人に知られるようになり、ネット上でもたびたび話題になっている。

最近では、MCの川島が新型コロナウイルスに感染してしまい、10日間の療養に入ったことがあった。その時期には、川島の代打として日替わりでさまざまなタレントが出演した。その中には、東野幸治や田村淳といった川島の先輩にあたるメンバーも揃っていて、毎日話題を振りまいていた。生放送の番組らしい臨機応変さを発揮して、ピンチをチャンスに変える豪華な継投リレーを見せてくれた。

ラヴィット!』は、フォーマットとしては単なる朝の情報番組である。しかし、一方では「『ラヴィット!』は大喜利番組だ」などと言われることもある。出演する芸人たちは、大喜利をやっているかのように自由奔放にボケを放っていくし、川島もそれを巧みにさばいていく。たとえちょっとピント外れのコメントをしてスベる人がいても、すかさず川島がフォローの一言を入れて笑いにする。

テレビのスタッフはそれぞれ得意なジャンルを持っているものだが、この番組にはバラエティー畑のスタッフが入っているので、ゴールデンや深夜のバラエティーのノリで情報番組を作っている。だからこそ、グルメなどの実用的な情報を提供するだけではなく、そこに自然な形で笑いを織り込んでいくことができる。

こんな規格外の番組が成功している最大の要因は、MCが川島だったからだ。川島が「大喜利力」「なめられ力」「仕切り力」という3つの能力を高いレベルで持ち合わせていたからこそ、『ラヴィット!』は人気番組に成長したのだ。

3つの能力について順番に説明していこう。まずは「大喜利力」である。川島は、大喜利で面白い答えを返すことにかけては、お笑い界でも有数の実力者である。芸人になる前の中学時代にはハガキ職人として雑誌の読者投稿コーナーなどにネタを投稿していた。そのときから鍛え抜かれた大喜利力の高さには定評があり、大喜利番組『IPPONグランプリ』では優勝経験もある。

自身のInstagramでは、芸人の顔写真を題材にして、その見た目に合ったフレーズを列挙する「ハッシュタグ大喜利」を行っていた。これはのちにまとめられて書籍『#麒麟川島のタグ大喜利』(宝島社)として刊行された。

そんな大喜利の達人である川島がMCを務めているだけあって、『ラヴィット!』は大喜利を軸にして作られているようなところがある。あらゆる話題や企画が「お題」として与えられていて、ゲストの芸人やタレントがそれにどう答えを返すか、というのが試されている。

川島の「なめられ力」をなめてはいけない

しかし、その構造がゲストに余計な緊張感を与えたりすることはない。なぜなら、川島には「なめられ力」があるからだ。「なめられている」というのはインタビューで本人が話していたことでもある。

明石家さんま、ダウンタウンといった川島よりも格上の先輩芸人の番組では背筋を伸ばして気を張っている若手芸人たちが、なぜか『ラヴィット!』ではふざけ倒し、気軽にボケを乱打する。それは自分がなめられているからではないか、と川島は語っていた。

でも、それは決して悪いことではない。実際のところは、なめられているというよりも、信頼されているのだと思う。多少ふざけすぎても川島が軌道修正して面白くしてくれるという絶対的な安心感があるからこそ、後輩芸人がのびのびと振る舞うことができるのだ。

そんな荒れ気味の番組をまとめられるのは、川島に「仕切り力」が備わっているからだ。彼がテレビ業界の中心で本格的に司会者として番組を持ち始めたのは最近のことである。

しかし、それ以前から、川島は番組のワンコーナーで仕切り役を務めたり、「天の声」として声だけで進行役を果たすことがたびたびあった。そのような経験を重ねながら、押し引きをわきまえた仕切り術を身につけていったのだ。

川島は大喜利を得意としているが、自分だけが必死で前に出ようとするタイプではない。むしろ、ほかの人のコメントにフォローを入れたり、補足したりすることで笑いを起こすのを得意としてきたし、本人もそこにやりがいを感じている。そんな彼の仕切り力は、自由なボケが乱れ飛ぶ『ラヴィット!』では最大限に発揮されている。

ラヴィット!』は、情報番組の皮をかぶった本格派の大喜利番組である。しかし、ディープなお笑いファンだけでなく、幅広い層の視聴者が楽しめる間口の広いつくりになっている。ワイドショーしかなかった朝の時間帯にバラエティー路線の番組を定着させた功績は大きい。今後も底抜けに明るく楽しい番組作りに期待している。

(ラリー遠田 : 作家・ライター、お笑い評論家)