友人から「お金を貸してほしい」と言われたとき、どうすればいいか。銀座の高級クラブ「クラブ由美」のオーナー・伊藤由美さんは「5000円や1万円でも、絶対に貸してはいけない。それはお金も友人も失うことになる」という--。(第2回)

※本稿は、伊藤由美『できる大人は、男も女も断わり上手』(ワニブックスPLUS新書)の一部を再編集したものです。

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■借金を申し込まれても「一切貸さない」と決めている

これまでの人生で私が人に貸し、そして“返してもらえなかった”お金はかなりの金額に上ります。

もちろん一度だけではありません。銀座に店を持って39年。その間にいろいろな人から借金を頼まれ、断われずに都合して、でもそれっきり--という長年の積み重ねの結果、合計したらかなりの額になるということです。

当時の私も「断われない人」だったということです。それまでいいおつき合いをしてきたつもりだった人に、藁をもつかむといった形相(ぎょうそう)で「ほかに頼れる人がいない」「借りられなければ死ぬしかない」なんて言われたら、つい気の毒になってしまって。でも結局、そのほとんどは返してもらえませんでした。

もちろん連絡も取れなくなって、それまでのおつき合いもすべて終了になる。当然ですよね。

この原稿を書いていて、今さらながら「あの頃の私は、なんというお人好しだったんだろう」と自分にあきれています。だからこそ今は、借金を申し込まれても「一切貸さない」と決めています。

どんなに気の毒だと思っても、心を鬼にして断わると。金額が多い少ないは関係ありません。ただただ、周囲の人との間に「お金の貸し借り」というバイアスを挟みたくない。親しい人ならばなおさらです。だから貸さない。もちろん私も借りません。それは、さんざん騙され、高い授業料を払い、友人や知人をなくして--そんな苦い経験から得た“リアルな教訓”なんです。

■お金の貸し借りをすることで関係性に“ゆがみ”が生じる

「金を貸すと、金も友だちもなくしてしまう」(シェイクスピア)
「人間は、金を貸すことを断わることで友人を失わず、金を貸すことでたやすく友人を失う」(ショーペンハウエル)
「絶交したければ金を借りればいい。貸してくれなければ、それを口実に絶交できるし、貸してくれたら返さなければいい」(ユダヤの格言)

世界の偉人たちも、お金の貸し借りの危なさ、怖さを警告しています。ほかにも「人にお金を貸すときは、あげたものだと思え」といった言葉もありますね。

そもそも、なぜお金の貸し借りが人間関係を壊してしまうのでしょうか。いちばんの原因は、借りる側に引け目や罪悪感、劣等感のような意識や感情が芽生えることで、両者の立ち位置にゆがみが生じるからではないでしょうか。

寸借詐欺よろしく最初から返す気がなくて借りるような人、借りることに何の抵抗もなく平然と「貸して」と言える人、さらにあまりに借りすぎて借りたことすら忘れてしまう人もいることはいます。

でも普通の神経の持ち主ならば、親しい友人知人に頭を下げて借金を頼むのはつらいことだし、そこには恥ずかしいという思い、申し訳ない思いがあるはず。すぐには返せないような状況であればなおさらでしょう。期限を決めて、それまでに耳を揃えてピシッと返してくれれば何の問題もありません。

とはいえ、それでも、それまでのフラットだった関係に何となく上下感が生まれ、どこかギクシャクしてしまうということが少なくありません。今の世の中、ある程度の金額ならば、短期のカードローンやキャッシング、消費者金融などで借りることも十分に可能です。

きっちり返済できるなら、何も人間関係にヒビが入るかもしれないリスクを冒し、引け目を感じてまで友人に頭を下げる必要はないわけです。それでもそうした機関から借りない、借りられないのは、すぐに返せる状態ではない可能性が高いからです。だから困ってしまうんですね。

■「返して」と伝えるのはなかなか難しい

貸した側は、親しいがゆえに、相手の事情もわかるがゆえに、「返して」のひと言をなかなか言い出せない。「いつ返してもらえる?」などと催促すれば、いくら“聞いてみただけ”であっても、相手の引け目や後ろめたさを倍増させてしまいます。

返したいけど返せないという状況は、借りた人を貸した人から遠ざけます。だんだん疎遠になってしまう。相手にしてみれば、そうならざるを得なくなるんですね。こうして次第に友人関係に“きしみ”が生じていくのです。

もちろん、お金の貸し借りがすべて人間関係の破たんに直結するとは限りません。お金を貸し、しっかり返してもらったことでお互いの信頼関係がより高まることだってないとは言えません。ひょっとしたら相手が貸してくれたことを恩義に感じて、つき合いがより深くなることだって--でも、さすがにそれはないでしょうね。

写真=iStock.com/AH86
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いずれにせよ、お金の貸し借りがこれから先の人間関係のあり方に大きな影響を及ぼす「分岐点」になることは間違いありません。つまり、お金を貸すというひとつの行為によって、相手との関係がこれまでと違ったものになる可能性が高いということ。

そして長い歴史のなかで積み重ねられた、その時代時代の先達たちの数知れない経験では、結果的に「ヒビが入ることのほうが圧倒的に多い」ということです。だから冒頭のような格言が今もって教訓として受け継がれているのですね。

■貸した側は「友達」と「お金」の2つを失う

先にも書いたように、私はこれまで、その教訓をイヤというほど味わってきました。だから「知り合いとは一切お金の貸し借りをしない」と心に決めています。それは私自身の人生における“掟”のようなものと言っていいでしょう。

親しいからこそ困っていたら手を貸してあげたい。友人だから助けてあげたい。その気持ちは痛いほどわかります。そのやさしさゆえに、多くの人は親しい友人からの「お金を貸して」を無下に断われず苦悩するのですから。

でも考えてみてください。友人にお金を貸したけど、返ってこない--こうした状況になったとき、借りた側は「友だち」を失うだけですが、貸した側は「友だち」と「貸したお金」の2つを同時に失うことになります。「助けてあげたい」という善意から貸したにもかかわらず、借りた側よりも多くのものを失ってしまうんですね。こんなのおかしいと思いませんか。

だから、やはり、きっぱりと断わるべきだと私は思います。親しいからこそ断わる。ずっといい関係でいたいから断わる。そう決めて断わって、「友だちなんだから貸してくれるだろ。断わるなんて友人じゃない」などと言われるようなら、その人は本当の友だちではないと思えばいい。そう考えるようにしています。

■知り合いから「お金を貸して」と頼まれたらどう答えるべきか

では、知り合いや友人から「お金を貸して」と頼まれたときに、極力、人間関係にヒビを入れずに断わるためにはどうするのが得策なのでしょうか。まず大切なのは、「お金は貸せない」という結論を先に伝えること。のらりくらりとあいまいなことを言ってはぐらかそうとするのはよくありません。

ごめんなさい。貸せません。

とストレートに答えればいいでしょう。「友だちや知り合いにはお金を貸さないことにしている。友だちでいたいから貸し借りはできない」と、自分の心情を素直に伝えるのもいいと思います。

写真=iStock.com/CHUNYIP WONG
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それでも人によっては「全額でなくていい。半分だけでも--」などと切り返されるケースもあります。そのときは、「自分もお金がない」という状況を訴えること。これもスタンダードですが、それゆえに効果もあります。

ごめんなさい。無理です。

ウチも本当に苦しくて、私のほうが貸してほしいくらいなんだ。

こういう仕事をしているせいか、私もときには「銀座でお店を経営しているほどだから、そのくらい都合つくでしょ?」などと言われることがあります。そんなときはやはり、「とんでもない。華やかに見えるけど、この不景気で本当に大変なんです。日々の資金繰りにも汲々(きゅうきゅう)としていて、私が借りたいくらいです」と、すべてこれで押し切ってお断わりしています。

「貸せない。なぜなら、こっちだって人に貸すほど余裕がない」というパターンが王道であり、それが最善の断わり方と言えるでしょう。たとえお金に余裕があったとしても、そう言うべき。

■貸せなくもない金額がもっとも断りにくい

「知り合いにお金は貸さない」というスタンスを決めたのならば、こういうときこそ“ウソも方便”です。それでもまだ食い下がるようなら、その人は、「あなたが苦しいのをガマンして、こちらに貸せ」と言っているのと同じです。こちらへの誠意や気遣いのない人に貸す義理はないと思えばいい。

そこまで自分のことしか見えなくなっている人に貸したところで、返ってくる可能性は限りなく低いでしょう。借金の申し出は「状況は察するけれど、ないものは貸せない」と、自分の窮状を理由にしてきっぱり断わるのがいちばんいい方法なのです。

何十万円というレベルの大金を貸してくれというのはそうそうあるわけでもなく、もし頼まれても「そんな大金、貸せない」と開き直ることもできるでしょう。また、「自動販売機でジュースを買いたいけど小銭がない。100円貸して」程度なら、あまり頻繁でなければ人間関係がどうこうという事態にはなりにくいもの。

もっとも断わりにくいのが5000円、1万円といった、普段から財布のなかに入っていて「貸して」と言われれば都合できないこともない、という金額の場合です。

この本を書くにあたって、いろいろと周囲の人にも聞いてみたのですが、ある出版社の編集者の方は、以前、割とお金にルーズな同僚に「急な飲み会で持ち合わせがないから1万円貸してくれないか」と頼まれたそうです。そのときは、

ウチは小遣い制で、自分のことで精いっぱい。カミさんの許可が下りなきゃダメ。

と断わったそうです。「さすがに『じゃあ、奥さんに聞いてくれ』とは言わなかったね。それ以来、ボクのところには借りに来なくなった」と。「今、自分の自由になるお金がない」というのも断わり方のひとつでしょう。

「お金の管理は主人がしているから」「ウチの女房がキッチリしていて」という感じです。

■「オウム返しで切り返す」ことでキッパリ断れる

また、「相手の言うことをオウム返しで切り返す」というのは知り合いのOLの女の子に聞いた断わり方です。例えば、

急な飲み会で、持ち合わせがないの。--ごめん、私も今夜、飲み会なの。
スマホ料金、引き落とせなくて。--私もお金なくて払えてないの。ごめんね。

など、「自分もあなたと同じ状況でお金が必要だから貸せない。わかってね」と伝えるのだとか。これらにしても、結局のところは「自分も、他人に貸すほど持っていない」ことを伝えて断わるということです。

伊藤由美『できる大人は、男も女も断わり上手』(ワニブックスPLUS新書)

「持ち合わせがない」「すぐ返すから」などと人からお金を借りることに抵抗のない人、何とも思わない人、クセになっている人、いますよね。財布にないだけなら銀行ATMに行けばいいし(今は24時間引き出せるところもありますし)、すぐ返せるならキャッシングという手段もあります。

今の時代、1週間くらいなら無利子で借りられるカードローンだってあるでしょう。あなたに借りずとも、いくらでも方法はあるのです。友だちとの関係を考えたら、少額で短期間のお金ほど、「人に借りる」のは最後の手段であるべきなんですね。

自分がないのだから人にも貸せない。だから事情はわかるけど断わる。お断わりの理由の裏にある、こちら側の迷いや苦悩、葛藤に思いが至らずに、「ケチ」「冷たいな」などと言うような相手なら、貸すだけ損、悩むだけムダ。

きっぱり断わって、「近くにATMがあるよ」「カードローンもあるじゃない」と教えてあげればいいんです。

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伊藤 由美(いとう・ゆみ)
銀座「クラブ由美」オーナー
東京生まれの名古屋育ち。18歳で単身上京。1983年4月、23歳でオーナーママとして「クラブ由美」を開店。以来、“銀座の超一流クラブ”として政治家や財界人など名だたるVIPたちからの絶大な支持を得て現在に至る。本業の傍ら、「公益社団法人動物環境・福祉協会Eva」の理事として動物愛護活動を続ける。
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銀座「クラブ由美」オーナー 伊藤 由美)