ジャイアントパンダ(パンダ)は「目や耳、四肢の周りなど一部だけ黒く、他の部分は白い」という特徴的な体毛で知られる生物で、その体毛には「かつての生息地である積雪地域で捕食者から見つかりにくくするために役立つ」といった保護色説が存在しますが、その独特なツートンカラーがどれほど保護色として機能するかは不明瞭でした。イギリス・中国・フィンランドの共同研究チームが新たに最先端の画像分析技術を用いて「パンダの体色は保護色として実際に役立つ」という研究結果を発表しました。

The giant panda is cryptic | Scientific Reports

https://www.nature.com/articles/s41598-021-00742-4

October: panda camouflage | News and features | University of Bristol

https://www.bristol.ac.uk/news/2021/october/panda-camouflage-.html

Pandas' Iconic Colors Turn Out to Be Good For Something Aside From Looking Cute

https://www.sciencealert.com/the-panda-s-famous-colors-are-actually-a-very-effective-form-of-camouflage

パンダは異彩を放つ見た目と2021年7月まで絶滅危惧種だったという希少性から動物園でも際だって人気が高いとされる生き物です。パンダの最大の特徴はその体毛の配色で、自然界に生息するほとんどの哺乳類が茶色ないしは灰色の体毛を有しているとされる中、パンダは「黒と白」という奇抜なツートンカラーの体毛を有しています。

このパンダの体毛については「保護色として機能する」という説が存在しますが、実際に動物園でパンダを見ると、青々とした木々の中の黒色・白色はかなり目立っているように感じます。この点について新たに、フィンランドのユヴァスキュラ大学とイギリスのブリストル大学、中国科学院傘下の動物進化・遺伝研究センターの研究者らが最先端の画像分析技術を用いて「より現実的な捕食者の視点から見ると、ジャイアントパンダはかなりよくカモフラージュされる」とする研究を発表しました。

研究チームは自然環境下で撮影された野生のパンダの画像15枚に対し、それぞれの色がどのように配置されているかや色同士の境界部分がどの程度明瞭か、色ごとのコントラストの差はどのようになっているかなどを定量的に分析するQuantitative Colour and Pattern Analysisという分析法を適用。同時に野生動物の目で認識できる電磁波の波長をベースに「動物の視界」を再現できるMultispectral Image Calibration and Analysisというツールを使って、「パンダの捕食者になり得るネコ科や犬科の動物がどのようにパンダを見ているのか」を調べました。

論文中で例示された野生のパンダの画像が以下。



以下の画像では、やや汚れたパンダが岩や木などの自然物によく溶け込んでいることがわかります。なお、パンダは画像中央部にいます。



パンダの特徴的な黒色と白色のツートンカラーは、遠目で見たときには、あえてハッキリとしたコントラストを体表に設けることで体の輪郭を目立たなくできるという「Disruptive coloration」というカモフラージュとして機能すると考えられるそうです。



さらに同様の方法で比較分析を行った結果、パンダのカモフラージュ能力はカモフラージュに優れるとされる他の動物に匹敵していることも確認されたとのこと。



今回の論文に携わったブリストル大学生物科学部のティム・キャロ教授は「中国の同僚が野生のジャイアントパンダの写真を送ってくれたとき、写真の中にジャイアントパンダがいないと思ったので、これは何かあるなと感じました。比較的視力に優れるとされる霊長類の目をもってしても視認できなかったということは、視力に劣る捕食者にも見えないだろうなと考えたわけです。後はそれを客観的に証明すればいいだけでした」とコメント。ブリストル大学心理科学部のニック・スコット=サミュエル教授は「写真や動物園のジャイアントパンダが目立って見えるのは、近くから見られる上に、その背景も自然の生息環境を反映していないことが原因です。より現実的な捕食者の視点から見ると、ジャイアントパンダは実際にはかなり上手にカモフラージュされています」と述べました。