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北朝鮮の主要都市には「第1中学校」という名称の学校がある。1984年7月の「全国教育イルクン(幹部)熱誠者大会」で英才教育の推進を打ち出した故金正日総書記が、同年9月から翌年にかけて作らせたエリート校だ。昔の日本で言えば「ナンバースクール」である。

そのうちのひとつ、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の第1中学校を舞台に、昨年12月から中央党(朝鮮労働党中央委員会)の検閲(監査)が行われている。入試を巡る不正を暴くためだ。

北朝鮮では近年、名門校を舞台にした様々な不正の発覚が相次いでいる。朝鮮中央通信によれば、昨年11月15日に開催された朝鮮労働党中央委員会第7期第20回政治局拡大会議で金正恩党委員長(当時)は、平壌医科大学で「重大な形態の犯罪行為」があったとして厳しく批判したという。

デイリーNK内部情報筋によると、その「犯罪行為」とは特権階級出身の男子学生グループが複数の女子学生に「性上納」を強要するなど虐待を続け、地獄のような苦しみに耐えかねた被害者のひとりが自ら命を絶ったというものだった。

(参考記事:「平壌の悪童」たちが働いた鬼畜性犯罪の顛末

この事件の背景にも、不正入試の横行がある。北朝鮮の大学は現在、コネとカネがなければ入学が困難な状況となっているが、中でも平壌医大は入学が極めて困難な上に、医師免許の取得、卒業後は各地の病院幹部への道が約束されていることもあって、ワイロの相場が高い。そのため必然的に、何でも親の権力とカネで解決してきた質の悪い輩が集まって来るのである。

しかしどうやら、経済立て直しのため科学技術や人材育成を重視する金正恩氏は、こうした現状を苦々しく思っているのかもしれない。

咸鏡北道の第1中学校に対する中央党の検閲も徹底している。中央党はまず、在校生に試験を受けさせた。そして、成績のよくない生徒が多数在籍していることを確認した上で、そんな生徒が多いことそのものが問題だとして、検閲に踏み切った。すると、次から次へと裏口入学の証拠が見つかったという。

たとえば、第1中学校が毎年、「特例」として複数の生徒を選抜し、入学させていたことも暴き出された。学校側の釈明は、学校運営に必要な資材を購入するためというものだった。つまり、「金づる」が必要だったということだ。しかし、中央党は釈明を一蹴した。

幹部やトンジュ(金主、新興富裕層)がなぜ子弟の第1中学校入学にこだわるのか。それは、少しでも良い教育を受けさせたいという親心以外にも、「10年の兵役を3年に短くする最善の方法」(情報筋)であるという事情があるそうだ。

すべての北朝鮮国民は、満17歳になれば徴兵検査を受ける。一般の中学校に通う生徒は、卒業すれば軍に入隊し、世界最長と言われる10年もの兵役に服さなければならない。務め上げれば、朝鮮労働党入党、大学入学の推薦をしてもらえるなどのメリットもある。しかし、施設の整っていない山奥の基地で「飢え」という難敵との戦いを強いられ続け、栄養失調になる兵士も続出、生きていくために盗賊のような真似をさせられたりもするなど、デメリットのほうがはるかに多い。

一方で第1中学校に入れば、卒業後すぐに大学に入学でき、兵役は3年に短縮され、幹部への道も開ける。金を積んででも息子を第1中学校に入れようとするのは、親心の発露であると同時に、経済合理性に叶った行為でもある。

こうした社会事情が変わらない限り、「汚受験」の根絶は難しいだろう。