2019年9月に開催されたJ:COMとネットフリックスの提携に関する記者会見の様子(記者撮影)

新型コロナウイルスの影響で、有料放送における勝ち組と負け組がはっきりと分かれ始めた。

好調だったのが、ケーブルテレビ最大手のジュピターテレコム(J:COM)だ。7月の定例会見で、井村公彦会長は「サービスによって凹凸はあるが、総加入世帯数は(1年間で)6万ほど上乗せできた」と胸を張った。同社はケーブルテレビに加え、固定電話、Wi-Fiなど通信事業も手がける。外出自粛に伴い、自宅における通信の必要性が増したことも追い風となった。

さらに、2019年からスタートしたOTTサービス(インターネットを介した動画配信・SNSなど)との連携も大きな後押しとなった。J:COMは動画配信最大手のNetflix(ネットフリックス)と提携。テレビにつなげるだけでケーブル放送や動画などが見られる機器、セットトップボックス(2019年12月新導入)でネットフリックスを視聴できるようにし、サービス利用料金の請求もJ:COMと一本化した。

新セットトップボックスでは、2020年5月の一世帯あたりの視聴時間が月間103時間となり、前年同月の65.3時間から大きく増加した。

その中身を詳細に見ていくと、103時間中39.7時間、実に約4割がOTTサービス・YouTubeの視聴時間だったのだ。20歳から34歳の年齢層に至っては、6割以上がOTTサービスやYouTubeが占める。「加入者は複合的な要因で伸びている。(ネットフリックスなど)OTTサービスとの連携もその1つだろう」(井村会長)。

スカパー!はプロ野球開幕延期が痛手に

動画配信とのタッグで順調なJ:COMに対し、動画配信の攻勢を受けているのが、衛星放送大手のスカパーJSATとWOWOWだ。

スカパーJSATは新型コロナの影響で、人気コンテンツであるプロ野球の開幕が延期されたことが大きな痛手となった。スカパーの8月末の加入者数は316万7735件と、前年同月末と比べて10万2000件減少。WOWOWも8月末の加入者数が277万142件と、前年同月末から12万3000件減っており、衛星放送事業者の厳しさがにじみ出ている。

スカパーJSATの米倉英一社長は、7月に行った東洋経済の取材に対して「巣ごもり需要を期待していたが、やはり動画配信との競争があった」と肩を落とす。WOWOWの尾上純一取締役も7月に行われた決算説明会で「コロナの影響に加え、動画配信サービスの普及により、お客様の視聴の選択肢が増えている」と加入件数が厳しい理由を分析する。

衛星放送が厳しい状況にある最大の要因は、契約に至るまでに“高いハードル”があることだ。衛星放送では、受信可能なアンテナが必須だ。さらに、テレビに付属されているCASカードと呼ばれるカード番号も必要で、クレジットカードさえあれば簡単に契約できる動画配信と比較すると手続きが多い。

WOWOWは動画配信サービス「Paravi(パラビ)」経由でネット契約できるプランを持つが、WOWOW全体の加入件数を押し上げるまでの効果は出ていない。そうした事情も踏まえ、自社サイトからも動画配信と同じくネットだけで契約できるプランを計画。動画配信と比較したときの加入ハードルを埋めるべく、2020年度の下期に開始することを目指している。

他方、スカパーJSATではそうした動きはまだ見られない。同社の米倉社長は「日本はかなりマチュアードな(熟成された)世界だ。(動画配信に移行するのは)物理的には可能かもしれないが、時間とコストを考えると、やはり違うだろうと思う」と話すなど、動画配信への全面移行に否定的だ。

そこには、スカパーJSATの事業構成が大きくかかわっている。スカパーJSATは、衛星放送「スカパー!」を運営するメディア事業と、衛星の運用・管理などを行う宇宙事業の2事業から成り立っている。

その宇宙事業のうち、衛星を利用した放送が営業収益に占める割合は30%。もし、動画配信のような通信専門の事業を打ち出せば、自社の収益柱である宇宙事業に大きな影響を与えかねない。そのため、J:COMと同じ各放送事業者の番組を放送するプラットフォームでも、スカパーJSATが動画配信を行うことは決して容易ではない。

独自サービスの展開がカギ

そこで同社は、すでに加入している会員に対して、コンテンツ視聴だけではなく、加入者限定の観戦ツアーといった形でファンを開拓する青写真を描く。「こうした取り組みで、会員数が300万、400万にはならなくても、価値のあるサービスだと感じてもらい、(会員数を)安定させたい。単純にスカパーチャンネルを見て、『こういうことやっています』というのでは限界がある」(米倉社長)。

WOWOWも同様の方針を掲げており、2020年8月に部署再編を実施。コミュニティプロデュース局を新設し会員ロイヤリティの醸成を狙う。

さまざまな策をめぐらせ、動画配信に戦いを挑む両社。動画配信とのタッグで伸びるJ:COMに対して、動画配信にはない魅力を作り出せるかが生き残りのカギとなりそうだ。