日本という国は国民に冷たい、優しくないと思い込んでいないだろうか。私たちの生活のために用意されている様々な制度を知らないだけかもしれない。

■実は国民に優しい日本の社会保障制度

社会保障制度の充実度という点では、よく北欧がよい例として挙げられますが、そこと日本を比べるのはナンセンスです。スウェーデンの人口は東京都より少ない約1025万人。租税負担率は50%以上です。規模や負担が大きく違います。例えば、医療費無料ですが、日本のようにいつでもフリーアクセスで医療を受けられるわけではなく、事前にトリアージされ順番が決められています。

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社会保険の給付は、会社が手続きをしてくれるものもありますが、個人の状況などすべてを、国や自治体が把握しているわけではありません。広報はしていますが、必要な保障などは、個人で自ら申請などすることが大切です。

そこで、みなさんには申請の種類と方法を自ら調べて、行動に移してほしいのです。ハードルが高いように感じるかもしれませんが、そんなことはありません。行政のウェブサイトはとても充実しているので、まずは自分が住んでいる市区町村のホームページを見てみましょう。「住まい」「老後」「子育て」など、項目ごとにわかりやすく掲載されています。また、お住まいの自治体の広報誌に目を通しておくこともおすすめです。ただ、自治体には予算があります。時期を逃すと、次の期を待つことになるので、次回はいつくらいの募集なのかなど、こまめにチェックしてください。

厚生労働省のウェブサイトも参考になります。ここを起点にして、様々なリンクに飛ぶことができるので、合理的に最新の情報をチェックすることができます。

■申請でもらえるお金はコロナ禍でさらに充実

現在、多くの人たちが不安に思っているコロナ関連であれば、内閣官房の「新型コロナウイルス感染症対策」というウェブページがあります。新型コロナウイルスは検査も治療費も無料です。感染によるホテルでの仮住まいも入院みなしになるなど、事細かに告知されています。

井戸美枝『大図解 届け出だけでもらえるお金』(プレジデント社)

その中でも個人に関することは知っておくべきでしょう。とくに傷病手当金については、現状を把握しておくべきです。通常、医師の意見書が必要になりますが、コロナの特例として、医師の意見書なしでも事業主の証明で手続きができるようになっています。

ほかにも「新型コロナ対応休業支援金」が新設されたりと、拡充は続いています。新型コロナウイルスで休業が続いている会社員(中小企業の被保険者)で、休業手当がもらえない場合でも、ハローワークで手続きをすると、休業前賃金の80%、月額上限33万円を休業実績に応じてもらえます。2020年7月以降実施予定のため、厚生労働省のホームページなどをチェックしましょう。

さらに一時的な資金が必要で生活の立て直しを図りたい方は、総合支援資金という制度もあります。無利子、連帯保証人不要で最大60万円まで借りることができ、償還時に、なお所得の減少が続く住民税非課税世帯であれば返済は免除になります(対象外あり)。

新型コロナウイルスによって、多くの企業ではリモートワークを導入するなど、働き方が大きく変わってきました。この流れは今後も続いていくかもしれません。在宅時間が延びるため、これを機に住まいの手入れを行うのもいいでしょう。生活の拠点を、都内と地方の2つにする。または、自分の生まれた故郷に戻って、リモートで仕事をする。そんな働き方が主流になる時代が来るかもしれません。

そこで私が今注目している「申請すればもらえるお金」は地方移住にまつわる制度の数々です。表に載せたもの以外にも、数えきれないほどの制度が用意されています。例えば、秋田県にかほ市では、定住するために住宅を購入し転入した世帯に、奨励金として最大100万円を交付しています。地方移住に興味があれば、「ニッポン移住・交流ナビ」というウェブページを見てみましょう。あなたにぴったりの地方都市が見つかるかもしれません。

■申請の賢者フリーライター和田潮の「申請のススメ」

我が家には育休中の妻と新生児を含む3人の子供がいるが、極力働かずに家族と過ごす時間を最優先にしている。都営住宅に住み、野菜卸業者から格安で買った野菜で自炊するなど、支出を抑えた生活を送っている。ただ無計画に稼ぎの少ない夫をやっているわけではない。将来を考え、家計収支を計算し貯蓄・積み立て・投資をしている。

日本の社会保険制度を利用していれば現状で全く問題ないと判断して、低収入・低支出を選んでいる。なにかあっても申請すればもらえるお金や支払いが免除される社会の制度は多いからだ。家計のために、制度をしっかりと把握し利用していれば、稼ぎが少なくとも安心して日々を送れる。

実際に私が体験した例を挙げよう。かつて肺に穴が開く気胸という病気で入院したことがある。半月ほどの入院で内視鏡手術を受けた。支払い(3割の自己負担)は約30万円だった。貧乏ライターには大金だ。しかし「高額療養費制度」の申請をすれば(私の場合、自己負担限度額は3万5400円のため)約26万円が戻ってきたのだ。民間の医療保険に入っていなくとも、すでにある国の制度を活用するだけで出費の大部分をカバーできるのだ。

申請の仕方としては、支給申請書の必要事項を記入。病院の領収書を添付(健康保険組合や所得・入院の理由により必要書類は異なる)して郵送する程度だ。書類の記入は5分もあれば書き終えられる内容。それだけで約3カ月後に支給される。事前に医療費が高額になることがわかっている場合は「限度額適用認定証」の交付を受けておけば、窓口での支払額は自己負担限度額までとなる。また、家族内での医療費(2万1000円以上)を合算することも可能だし、無利息で「高額医療費貸付制度」を利用することも可能だ。

すべての制度を事前に把握しておくことは難しい。ただ、前もって自分に関係する可能性がある制度の存在を頭の片隅に入れておくことはできるだろう。あとは、いざ結婚や出産、病気や事故など人生のイベントやトラブルに直面した際に詳細を調べて申請すればいい。ほかになにか制度はないかとチェックする癖をつけておけば十分だ。

制度を知らないことや、面倒がって申請しないのはとてももったいないことになる。長年、保険料や税金を払い続けているのにせっかくもらえるチャンスを生かさないのはまさに国の奴隷になることを自ら選んでいるようなもの。受給は国民としての権利なのでぜひ申請をしてほしいものだ。

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井戸 美枝(いど・みえ)
ファイナンシャルプランナー
経済エッセイスト。関西大学卒業。厚生労働省社会保障審議会企業年金、個人年金部会委員。『大図解 届け出だけでもらえるお金』など著書多数。
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(ファイナンシャルプランナー 井戸 美枝、和田 潮 構成=神里純平)