わが子の中学受験塾はどうやって選べばいいのか。首都圏には4つの大手受験塾がある。それぞれの特徴と選び方のポイントを、プロ家庭教師集団「名門指導会」代表の西村則康さんと教育専門家の小川大介さんが解説する--。

※本稿は、西村則康・小川大介『中学受験基本のキ! 第4版』(日経BP)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/miya227
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/miya227

■塾が原因で「勉強嫌い」になることもある

「SAPIX」「日能研」「四谷大塚」「早稲田アカデミー」など、駅前に競い合うように並ぶ大手塾の看板。駅から近く通わせるには便利そうですが、大手塾ならどこへ入れても同じなのでしょうか?

いえ、そんなことはありません。ひとくちに大手塾といってもその中身は様々で、それぞれに特色があります。また、中学受験には大手塾がおすすめですが、大手塾にさえ通わせていれば合格は確実というわけでもありません。確かに大手塾のカリキュラムは受験には有効ですが、それは、お子さんにとってその塾のやり方や環境がマッチしていた場合であり、逆にミスマッチだった場合は、その効果が表れないだけでなく、塾が原因で勉強嫌いにさせてしまう恐れもあります。

では、各大手塾にはどんな特徴があるのでしょうか? 首都圏の四大受験塾のそれぞれの特徴を見ていきましょう。

■「成績上位2割」に合わせて授業を進める

【SAPIX】

御三家をはじめとする難関校への合格実績が最も高い塾。そのため、偏差値の高い、いわゆる“いい学校”へ入れたいと思う親の多くが最初に検討する塾です。しかし、授業は成績上位2割に照準を合わせて進められるため、処理能力が高い子は伸び、そうでない子はなかなか浮上できず、挫折感を味わうこともあります。

テキストも上級層向けのため、中位層以下の子どもは授業についていくのが難しいこともあります。2019年に5年生のテキストが改訂され、解説が詳しくなり使いやすくなりましたが、6年生のテキストが改訂される気配はありません(2020年4月現在)。

また、同種の問題でも、5年生のテキストと6年生のテキストの解法に違いがあったり、同学年のテキストであっても、『デイリーサポート』と『デイリーサピックス』で解法が違っていたりします。上位層の生徒は多くの解法を知り、それを使い分けることで学力を高めていくことができます。しかし、中位層以下の子にとっては、それが混乱する原因になっており、注意が必要です。

入塾するには、4年生の段階で、例えば計算なら1年先のものまでできるようになっていないと、授業についていけません。優秀で精神年齢が成熟している子は、塾での学習だけで伸びていきますが、そうでない子は家庭学習で家族の必死のサポートが必要になります。そういう点では、子どもの能力差で家族の負担度に大きく差のつく塾と言えます。

■「まじめにコツコツ学習する子」に向いている塾

【日能研】

成績上位の子に限らず、どんな子でも受け入れてくれる、間口の広い中学受験専門の塾。特に中堅校に強い塾です。中学受験に必要な知識を満遍なくカバーし、一定のペースで進めていきます。比較的宿題が少なく、同じ問題を何度もじっくり考えさせる傾向があるので、大きく落ちこぼれる子は少ないですが、他塾に比べて類題演習が少ないため、解法や知識の定着には工夫が必要になります。

4〜5年生のうちに1週間の学習リズム(本書の3章「平日&週末の対策」参照)を作り上げられるかどうかによって、親の負担が変わります。「学習力育成テスト(旧カリテ)」や「公開テスト」が来るたびに慌ててテスト勉強をするタイプの子はテストの成績も不十分で、そのテスト直しに時間が取られ、次のテストに向けての勉強ができないという悪循環に陥ってしまいます。

6年生になるとテストの回数が増えるため、毎週の勉強が全く回らなくなってしまう場合もあり、その際は親の負担が大きく膨らみます。まじめにコツコツと学習して、以前に学んだことをきちんと覚えていられる子に向いている塾です。

R4偏差値(日能研が主催する公開テストの合格可能性数値)など提供されるデータは多いのですが、過去の数値に引きずられている面もあるように感じます。日能研のデータだけで判断するのではなく、他塾のデータも参照したほうがいいでしょう。いろいろなレベルの中学受験に対応可能な塾ですが、“是が非でも御三家”というなら、SAPIXの選択肢も考えておく必要があるでしょう。

■教材の完成度が高いが、一昔前とは大きく違う

【四谷大塚】

小規模の準拠塾が多数あるため、テストの母集団には非常に優秀な上位層から中堅〜下位層まで、幅広く在籍しています。自社制作のテキスト『予習シリーズ』は完成度が高く、以前は中堅〜下位層でも質の高い学習ができていました。

しかし、近年、カリキュラムが変わって、難易度と進行速度が大幅に上がったため、上位層クラスでなければ教材内容を十分に習得することが難しくなっています。首都圏で子ども時代を過ごした親世代にとってはなじみのある塾とも言えますが、一昔前のイメージとは大きく変わっていることを心得ておきましょう。

SAPIXに比べると、テキストがまとまっていることや、クラスによって使う内容が決められているため、親が関わらなければいけない部分は少ないでしょう。ただし、週例テストが4年生から毎週あり、カリキュラム進度が速くなったことで負担は増えています。

■「学習量」と「くり返し学習」を重視する塾

【早稲田アカデミー】

原理原則の理解から思考を深めていくのではなく、一問でも多くの問題を解くことによって考え方や解き方に慣れさせようとする傾向がある塾です。くり返し学習することで身に付く子には向いています。解いて覚えるだけなので学習方法としては分かりやすく、親の管理が楽であるという面もありますが、納得しないと先に進めないタイプの子どもの場合は、戸惑ってしまうこともあります。

早稲田アカデミーといえば、宿題の多さで有名ですが、圧倒的に多かった宿題は減りつつあります。ただし、宿題をやったかどうかのチェックの厳しさは維持しています。テキスト編成は、これまでは『予習シリーズ』+『ダブルベイシック』でしたが、学年やクラス帯によっては、『ダブルベイシック』が『錬成問題集』や『COMPASS』に変わっています。テキストの難易度の差が大きいので、使い方には注意が必要です。

学習量やくり返し学習を重視するタイプの塾であることは変化していません。そのために、理解や納得を伴わない“丸暗記学習”の癖がつきやすく、5年生の半ばあたりから成績が伸び悩む子の比率が高まる傾向にあります。

また、校舎長の権限が強く、校舎ごとの合格実績に差が出やすいという特徴があります。実際に校舎に足を運んで、掲示されているその校舎の合格実績を調べたり、直接聞くなどして、子どもが通う校舎の合格実績に注意しておく必要があります。

■「子どもが自ら伸びる環境」はどこかを考える

こうしてみると、ひとくくりに大手塾といっても、カラーが全く違うことが分かります。本書ではやや辛口のコメントを紹介しますが、塾選びの参考にしてみてください。

そもそも塾は何を基準に選べばよいのでしょうか? 「うちは御三家狙いだからSAPIX」という選択が間違いだとは言いません。でも、「SAPIXに通えば全員が御三家に行ける」というわけでは、もちろんありません。

多くの親御さんは、「大手塾に通わせていれば、わが子の成績が上がる」と思い込んでいます。けれども、塾は勉強の内容を教えるところであって、子どもの能力を伸ばすのは塾の役割ではありません。あくまで「子どもが自ら伸びる環境」として塾を選ぶべきなのです。そのためには、子どもの学力と性格をしっかり見極める必要があります。

時として親というのは、わが子の長所をしっかりと把握できていない場合が少なくありません。例えば、学習の理解に時間がかかる子はスピーディーに問題を解くことは苦手でも、じっくりコツコツ取り組むことができるという粘り強さがあります。

逆に理解が速い子はスピード能力や複数のことに目が向けられる器用さはありますが、ムラもあり、ミスも多いものです。

■塾選び成功のポイントは「わが子の特性を把握すること」

一般的に中学受験は早熟な子に向いていると言われますが、必ずしもマイペースな子に向いていないというわけでもありません。お子さんが中学受験に向くか向かないかを判断する前に、お子さんの性格を長所・短所の両面から客観的に見て、お子さんが「ここなら頑張れそう!」と気持ちが乗ってくる塾を選ぶことが大切なのです。

考えてもみてください。例えば、あなたが靴を買うとき、家のクローゼットにどんな服があるかを思い返して、それに合ったものを買いませんか? その日の夕飯の献立を考えるときも、まずは冷蔵庫の中身を見てから買い物へ行くはずです。それなのに、こと塾選びに関しては、わが子の性格を見ずにブランド名だけで塾を選ぶ親御さんが多い。その結果、お子さんの性格と塾の方針にミスマッチが生じ、失敗してしまうケースが出てくるのです。

塾選びを成功させる最大のポイントは、わが子の特性をできるだけ正確に把握することです。

例えば、学力面で言えば「計算力・暗記力・集中力」の有無など、性格面で言えば「気が強いか否か」といった点で、どんな塾と相性がいいかがおおまかに分かれてきます。SAPIXや日能研のようにテストの成績で生徒を競わせて鍛えようとする塾は、勝ち気で、自尊心の強い子に向いているでしょう。逆に、慎重な子、まじめで言われたことをコツコツこなせる子には、四谷大塚や早稲田アカデミーが向いていると言えます。

見極めるのは性格だけではありません。中学受験は長期戦です。わが子が勉強に向き合える体力・気力がどれくらいあるかも親はよく観察し、欲目なしにわが子に合った塾を選びましょう。

■親ができないことを、塾というプロに頼む

塾と子どものマッチングはとても大切なことです。けれども、親のサポートなしではうまくはいきません。最近増えている共働き家庭にとって一番の悩みは、子どもと過ごす時間に制限があることだと思います。

西村則康・小川大介『中学受験基本のキ! 第4版』(日経BP)

けれども、それも塾の選び方次第です。

塾を選ぶときは子どもの性格を考慮することに加え、自分の家が求めている役割を果たしてくれるのはどこかという視点で選ぶことも重要です。例えば、子どもと一緒に過ごす時間が少ない家庭は、宿題チェックを親がやるのか、塾がやるのかで、親の負担が変わってきます。宿題チェックを親がしなければいけない塾しか選択肢になければ、宿題が比較的少ない塾を選ぶといいでしょう。

宿題のチェック程度ならできるけれど、勉強を教える時間まではないという家庭は、勉強のやり方をしっかり教えてくれる塾を選ぶようにしましょう。親ができないことをプロに頼むという考え方で、賢く塾を活用するのです。誰が何をするかという役割を明確にし、親と塾で子どもをサポートする。それが中学受験の理想の形なのです。

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西村 則康(にしむら・のりやす)
プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
日本初の「塾ソムリエ」として、活躍中。40年以上中学・高校受験指導一筋に行う。コーチングの手法を取り入れ、親を巻き込んで子供が心底やる気になる付加価値の高い指導に定評がある。
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小川 大介(おがわ・だいすけ)
教育専門家・「かしこい塾の使い方」主任相談員
京都大学在学中より大手塾で看板講師として活躍後、中学受験プロ個別指導塾を創設。6000回を超える面談を通して子どもが伸びる秘訣を見出す。受験学習はもとより、幼児低学年からの能力育成や親子関係の築き方指導に定評があり、幼児教育から企業での人材育成まで幅広く活躍中。『1日3分!頭がよくなる子どもとの遊びかた』(大和書房)『頭のいい子の親がやっている「見守る」子育て』(KADOKAWA)、『ドラえもんの国語おもしろ攻略 国語力をきたえるカタカナ語』(小学館)、『親も子も幸せになれるはじめての中学受験』(CCCメディアハウス)など著書多数。中学受験情報局「かしこい塾の使い方」
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(プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康、教育専門家・「かしこい塾の使い方」主任相談員 小川 大介 構成=越南小町)