楽天モバイルは、廉価版スマホ端末「Rakuten Mini」で、総務省に必要な届け出をせず対応周波数を変更していた(記者撮影)

4月8日に携帯電話事業をスタートしたばかりの楽天モバイルが早くもつまずいている。主力のスマートフォン端末「Rakuten Mini」(以下Mini)で、総務省に必要な届け出をせずに対応周波数を変更していたことが発覚。電波法違反に該当する恐れがあるとして、同省が楽天モバイルに報告を求めている。

無断変更の具体的な内容は、5月以降の製造・販売分のMiniで、自社通信網で利用する周波数(バンド3)を除き、国内で主に利用されている周波数(バンド1=NTTドコモなど大手3社が利用)への対応をやめて削除し、代わりに主にアメリカなどで使われる周波数帯のバンド4を入れたというもの。

この理由について同社は「バンド4を入れることによってアメリカなど海外でのローミング(ほかの通信会社の回線への乗り入れ)を使いやすくし、利便性を高めるため。対応できる周波数に限りがあるためバンド1を削除した」(広報)と説明する。

“後出し”で行った変更申請

元々、Miniの製造にあたって製造認可を取得していた対応周波数はバンド3やバンド1で、変更には電波法上、追加申請が必要だったがこれを怠っていた。

楽天モバイルは消費者にも変更を伝えていなかったが、ユーザーからの指摘で明るみに出たため、6月10日にホームページ上にお詫びを掲載。“後出し”の形で周波数変更の申請を行い、「バンド1」などを外す周波数変更についての「技適マーク」(電波法の適合基準を満たす認証)を6月11日に取得した。

ただし、5月以降からこの追加取得までの期間について、無断で対応周波数を変えた端末を製造・販売していたことが確認されれば、「電波法が定める工事設計の合致義務に違反している可能性がある」(総務省電波環境課)。同省は6月26日までに楽天モバイルに詳しい報告を求めており、その結果を踏まえて処分内容を検討する方針だ。

電波法への違反事実が認定されると、どのような処分がありうるのか。楽天モバイルにとって最悪のシナリオは、総務省からすでに市場に出回っている端末の回収を求められることだ。

総務省電波環境課は「処分内容は事象の中身を確認してから」としており、規模や悪質性次第では回収も「選択肢の1つ」という。

違反認定されれば楽天モバイルには是正の必要が生じるが、前出の通り11日の追加認証でバンド1を外す変更は認められている。少なくとも現時点では、違反状態は解消されていることになる。また、認証なしに周波数帯を変更して製造・販売していた期間の端末について楽天モバイルは、希望者にはバンド1に対応する端末への無償交換に応じる方針も明らかにしている。

こうしたことも踏まえると、楽天モバイルの報告や同省の調査でよほどの話が出てこない限りは、再発防止を求める程度にとどまる可能性が高そうだ。とはいえ、仮にそうしたレベルの行政処分となったとしても、一連の騒動による楽天モバイルのブランドイメージの低下は避けられない。

勝負手だった1円販売

今回の問題が発覚する前に、楽天モバイルは大きな勝負手を打っていた。それがMiniの1円販売だ。

楽天モバイルは5月27日〜6月17日の間、通常1万7000円(税抜き、以下同)のMiniを、同社の通信プランに新規加入することを条件(同社のMVNO<格安スマホ>からの移行でも可)に1円で販売するキャンペーンを展開していた。

楽天モバイルは、「Miniが大変ご好評をいただいているので、より多くの人に使ってもらおうと考えキャンペーンを実施した」(広報)と説明するが、背景には別の理由があるとみられる。

同社は開始当初から通信料金を1年間無料にするキャンペーンを展開してきた(キャンペーン終了後の2年目からの通常料金は月額2980円)。今年中に300万人の利用者獲得を目指すが、5月中旬までの利用者数は数十万人程度にとどまっているとされる。

ユーザーにとって初期コストの端末代がネックになっているとみられ、やむを得ず1円販売を始めたというのが実態のようだ。

この1円販売という大盤振る舞いによりMiniの販売台数は急増。調査会社BCNによると、5月25〜31日の家電量販店などでのスマートフォン販売台数で3位となり、前週の84位から急浮上。6月1日〜7日には首位に躍り出た。

楽天モバイルは、通信料金の無料キャンペーン期間中はほとんどこの携帯電話事業での収入がないうえ、自社通信網で賄えないエリアはKDDIへのローミングに頼っており、1ギガバイト当り約500円の対価も支払っている。そのうえで実施したMiniの1円販売は、端末コストを利用者に転嫁することなく自ら被ることを意味しており、負担は小さくない。

大手の常套手段だった1円販売

この「スマホ端末1円販売」といえば、ついこの間までは大手携帯通信会社の常套手段だった。その際、大安売りの条件として、大容量など指定の通信プランの2年契約に加入させ、途中解約には高額の違約金を課すことで解約を防いでいた。


事業開始2カ月余りだが、先行きが懸念される(記者撮影)

だが、改正電気通信事業法の施行によって昨年10月以降は、1000円以上の違約金は禁止され、通信契約を条件とする端末の値引きにも2万円の上限が設けられた。そのため、大手各社の売り方からは一部例外を除き、1円販売はなくなった。

楽天モバイルの場合、 Miniは元々の端末代が現在2万円を切っているため、1円販売は、法的に問題はない。ただし、通信契約には縛りがないため、無料期間が終了するとあっさり解約されてしまう可能性はある。サービスへの満足や信頼を地道に積み上げていかなければならないところで、今回の騒動が起きた。

通信業界に詳しいMM総研常務の横田英明氏は、「これまでも楽天モバイルは通信障害などネガティブな話ばかりが前面に出ている。ライフラインを預かるキャリアは信用ビジネスでありイメージが重要だ。電波法違反のようなものを出す会社のサービスを利用者が積極的に使いたいとは思わないのではないか」と指摘する。

元々、平坦ではなかった楽天モバイルの携帯電話事業拡大への道のりは、自らの失策により、さらに厳しいものとなっている。