WHO脱退を示唆するアメリカ、トランプ大統領

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 人々の健康を促進する国際機関を“攻撃”するトランプ大統領(73)。その理由を30秒ごとに理解できるよう専門家2人が解説!

【貴重写真】トランプ大統領らと会話する天皇陛下と雅子さまのご様子

〜この人たちに聞きました〜

中林美恵子さん ◎早稲田大学社会科学総合学術院教授。専門は日米比較政治など。元衆院議員で、米国連邦議会上院予算委員会補佐官を務めたことも

渋谷健司さん ◎WHOテドロス・アダノム事務局長上級顧問。英国キングス・カレッジ・ロンドン教授。元東京大学教授で、同大学客員教授(公衆衛生学)

WHOを非難し離脱を宣言した理由は?

中林教授 新型コロナウイルス対策で失敗。責任を回避するための標的がWHOであり、テドロス事務局長であり、中国なのです。今年11月の大統領選挙は楽勝ムードでしたが、ロックダウン(都市封鎖)による経済的ダメージは、身内の共和党からも批判が噴出しています。

 米国は感染者数160万人、死亡者数10万人と甚大な被害を受けました。4月には14%だった失業率も5月には20%に達し、今後のGDP成長率はマイナス40%にもなると予測されています。

渋谷上級顧問 米国は初動が遅れたため、感染が拡大。国内的にはその責任をかわすため、来るべき大統領選に向けたものが、トランプ大統領の言動だと思います。米中対立が背景にあるのは事実だが、言いがかり的なものではないでしょうか。

 今回は、パンデミックが起きたことにより、本来は医学的な問題が政治的問題にかわった印象があります。

WHOは中国寄りで米国には不利益が?

中林教授 中国のWHOへの報告が遅れたことは事実だし、武漢研究所でなんらかのミスがあった可能性は否定できないので、大統領の言っていることがまったくのウソというわけではない。

 実際にテドロス事務局長は中国の支援で事務局長に選ばれているし、コロナに関して中国をほめ称(たた)えるような発言は疑問ではあります。

 さらに中国はWHOやWTO(世界貿易機関)のような世界的な国連の機関への影響力を増す動きを強めようとしているように見えます。

渋谷上級顧問 実際に中国が、コロナの感染拡大をWHOに伝えるところで、少し手間取ったところはあるが、WHOが中国寄りということはないと考えます。

 WHOも官僚的な組織で完璧ではないし、その国の承認を得ないで勝手に調査に入るような強力な権限は持っていません。

 WHOは昨年12月末に中国から報告を受けた直後、今年1月1日には米国のCDC(疾病予防管理センター)へ報告、協議しています。

 新型コロナの武漢研究所発生説ですが、ウイルスを人工的に作り出したものかどうかは、遺伝子を調べればすぐにわかるもの。多くの研究から世界的にもそれは否定されています。

終息が見えない中、米国は本当に離脱?

中林教授 もし離脱すれば、その影響は計り知れないので、WHOだけでなく、欧州なども反対しています。大統領選挙の結果や予算の決定権を持つ議会の判断にもよりますが、脱退に議会の同意が必要かどうかは明確ではありません。

 いま全米で黒人差別に対する暴動が起きていることもあって、50%を超えていたトランプ大統領の支持率は40%台にまで落ちているが、もし彼が再選されれば、WHOとの関係はなかなかよくならないかもしれません。

 ただ、南シナ海での中国の軍事的行動で、米国での中国批判が高まっているので、たとえ民主党候補のバイデン氏が大統領になっても、対中関係はよくはならないのではないでしょうか。

渋谷上級顧問 離脱は大統領選挙と米国の世論次第ですが、WHOと米国のCDCは昔から二人三脚でやってきたので、今後も協調してやっていただきたい。

 パンデミックには多国間の協力が必要です。

 トランプ大統領は、二酸化炭素の排出規定を行う「パリ協定」からの脱退(11月)も実行するなど、強硬な姿勢をとることがあります。

 今回は、単なる脅しだといいのですが……。