新星ケルヴィン・ハリソン・Jrに注目!話題作が続々控える次世代スター
映画『ルース・エドガー』(6月5日公開)と『WAVES/ウェイブス』(近日公開)での演技で注目を浴びる新星ケルヴィン・ハリソン・Jr。両作が日本公開を控える今、その魅力に注目したい。
1994年にルイジアナ州ニューオーリンズに生まれ、双子の姉とともにミュージシャンの両親のもとで育ったケルヴィン。名門ニューオーリンズ・センター・フォー・クリエイティブ・アーツでジャズを学び、その後に映画を勉強するためにニューオーリンズ大学へと進んだ。そして、第86回アカデミー賞作品賞などに輝いたスティーヴ・マックィーン監督の『それでも夜は明ける』(2013)でデビューを果たした。
2017年には『イット・カムズ・アット・ナイト』での演技により、ゴッサム・インディペンデント映画賞のブレイクスルー俳優賞にノミネートされて大きな注目を浴びた(このときの受賞者は『君の名前で僕を呼んで』のティモシー・シャラメ)。そんなケルヴィンのさらなる飛躍の後押しをしたのが、まもなく日本で公開を控える話題作『ルース・エドガー』『WAVES/ウェイブス』だ。
ジュリアス・オナー監督の『ルース・エドガー』でタイトルロールに抜てきされたケルヴィンは、主人公である17歳の少年を演じている。バージニア州の高校に通うアフリカ系アメリカ人のルースは成績優秀なスポーツマンで、スピーチを得意とする非の打ち所がない人物。バラク・オバマの再来とも目されていたが、あるとき歴史教師からルースが危険な過激思想に染まっており、同級生への性的暴行事件にも関わったのではないかという告発を受けたことで物語は大きく動き始める。
アメリカの歴史や政治、人種問題に鋭く切り込む同作を支えているのが、謎めいた複雑なキャラクターのルースを体現するケルヴィンの演技力。「完璧な優等生か? 恐ろしい怪物か?」という映画のコピーが示すように、全編を通じて二面性を孕んだルースを巧みに演じ、この映画が提議する複雑多岐にわたる問題に説得力を与えている。息子の言動に戸惑う両親役のナオミ・ワッツとティム・ロス、ルースと対峙するアフリカ系の女性教師を演じたオクタヴィア・スペンサーなどの実力派たちと堂々と渡り合ってみせた。
『イット・カムズ・アット・ナイト』に続くトレイ・エドワード・シュルツ監督とのタッグとなった『WAVES/ウェイブス』でも、複雑な感情を抱える高校生を演じたケルヴィン。恵まれた家庭で育ち、レスリング部のスター選手で美しい恋人もいるタイラーは、肩の負傷が発覚したことで選手生命の危機を告げられ、恋人の妊娠も判明。順風満帆な人生の歯車が狂い始める。挫折を味わい、葛藤しながら深い絶望へと落ちていくタイラーを、ケルヴィンはリアルな演技で表現している。
話題の映画制作会社A24が手掛けたとあり、『ムーンライト』を思わせるような色彩美が印象的で、登場人物の揺れ動く心情がスタイリッシュに彩られている。そして劇中で流れる31曲もの楽曲も見逃せない。プレイリストにはフランク・オーシャン、ケンドリック・ラマー、カニエ・ウェスト、レディオヘッドなどが名を連ねており、色彩表現とともに音楽が感情に寄り添うように演出されている。ケルヴィンが手掛けた楽曲「La Linda Luna」も収められており、その多才ぶりの一端を感じることができる。
この2作で世界に演技力の高さを証明してみせたケルヴィン。さらなる活躍が期待される最注目の若手俳優から目が離せない。(編集部・大内啓輔)