ホテル・旅館の倒産件数は4月だけで21件発生。WBFホテル&リゾーツなど中堅企業にも影響が広がった

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ホテル・旅館の倒産は4月だけで21件発生、過去最多を更新した

 宿泊業界が窮地に陥っている。帝国データバンクの調べでは、2020年のホテル・旅館の倒産は4月だけで21件発生し過去最多を更新。4月までの累計は既に44件に上り、昨年同時期の23件を大幅に上回ったほか、東日本大震災が発生した直後の2011年同時期に迫る高水準だ。特に、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う影響が大きく、これまでに発生した「新型コロナ関連倒産」のうち、ホテル・旅館の倒産が最も多く発生。当初、地場の小規模な旅館やビジネスホテルなどが中心だった宿泊業の倒産は、WBFホテル&リゾーツ(4月民事再生、負債約160億円)や、首都圏や京都などにカプセルホテルを展開していたファーストキャビン(4月破産、負債合計約37億円)など、積極的に事業を拡大させてきた中堅企業にも影響が及んできた。

 近年の訪日観光客の爆発的な増加による特需から一転、新型コロナの感染拡大からわずか3カ月間で総崩れした宿泊業。なぜ、これほど短期間で経営破綻が相次ぐのか。そこには、近年のホテル建設ラッシュや民泊サービスの急増による競争激化で経営体力を奪われていたなか、新型コロナの感染拡大による稼働率の急激な悪化がトドメとなり、為す術もないまま事業継続を断念せざるを得なかった宿泊業者の苦悩が浮かび上がってくる。

売上増でも確保できなかった採算性、 人手不足に積極投資も影響

 宿泊業界では、2012年頃から本格的に訪日外国人の数が急増したことで需要が急拡大。2019年のラグビーワールドカップ、20年に予定されていた東京五輪開催も相まって大きな盛り上がりを見せていた。こうした特需に沸く一方、宿泊業界では2018年頃を境に、次第に経営環境が悪化していた。

 帝国データバンクの保有する企業データベースの集計(2020年4月時点)では、2019年のホテル・旅館各社の営業収益(売上高)平均額は約5億5000万円だった。前年度の約4億1000万円を1割以上上回り、3年連続で増加した。ただ、順調に拡大を続けてきた売上高とは対照的に、採算性の改善については大きく遅れた環境にあった。ホテル・旅館各社の本業における儲けを示す売上高営業利益率の平均は2019年で1.03%と、利益面では低水準での推移が続いていた。

 低採算が続いた要因の一つには、昨今宿泊業界で起こっていた深刻な人手不足と、それに伴う人件費の上昇が挙げられる。ホテル・旅館各社の売上高に占める人件費の割合をみると、2016年以降徐々に拡大。2019年は遡及可能な1999年以降で最高となる21.75%に達し、各社の経営にとって大きな重荷となっている。ホテル・旅館業界ではもともと、休暇の取得が難しいこと、他の職業に比べ相対的に給与が低いといった理由から就業希望者が増えず、人手不足が深刻化していた。そのため、事業規模を維持・拡大するためには、限られた人材市場の中でアルバイトや優秀な従業員を確保するため、給与など待遇面を手厚くする必要性に迫られた。

 事業の積極的な拡大により、増大した土地代やテナント料などの支払いも、各社の採算改善を難しくした。ホテル・旅館各社の売上高に占める賃料・地代比率平均をみると、2019年は6.9%に上り、1999年以降で最高の水準だった。ホテルの新規設立などでは、総じて駅前や都心中心部の繁華街など利便性が高い立地が多く、上昇傾向にあった地価の影響を受けやすかった。ビル入居などで支払いが発生するテナント料も、ホテルの収益動向により家賃設定が為されるケースも多い。そのため、売上増加が続けば賃料も比例して増え、収益に占める賃料割合がより大きくなりやすくなる。

客室の供給過剰で崩れた需給バランス

 宿泊需給バランスの変化も、積極的に宿泊事業に参入した事業者にとっては誤算となった。近年、インバウンド需要を見込んだホテルの開発ラッシュが各地で発生。ホテル業者だけでなく、大手デベロッパーや投資ファンド、異業種からも宿泊業への参入が相次ぎ、市場に供給される客室数は急増の一途を辿っていた。実際に厚生労働省の報告では、旅館・ホテルの総客室数は増加傾向が強くみられ、2019年は前年から3.1%増加。10年間でおよそ5万室が新たに供給された。

 しかし、急増していた訪日観光客は2018年頃から鈍化傾向で推移。日本政府観光局(JNTO)によれば、17年まで前年比2ケタで伸長していた訪日外客数は、18年には8.7%増、19年は2.2%増と増加率は縮小した。訪日外客数は過去最高を更新したものの、2019年には訪日客の増加ペースと客室供給の増加ペースが逆転。この頃から、客室過剰による需給の緩みが目立ち始めた。

 もともと、客室の収益はイベントの開催や自然災害、近隣地域へのホテル新規オープンなど、外部要因によって大きく変動しやすい。また、安価なカプセルホテルなどの簡易宿所、一時期に比べると勢いこそ低下したものの、民泊サービスなど新たなライバルも出現し、宿泊顧客の獲得をめぐる競争はより激化。この結果、客室の稼働率維持を目的とした宿泊価格の引き下げ競争が各地で発生。特に大阪や京都など観光客が多く訪れる主要都市では客室単価の悪化傾向が大きく目立っており、当初計画した安定的な収益の計上がより難しくなっていったとみられる。

 宿泊業界を襲ったコストの上昇と、客室の過剰供給による収益力の低下。市況が悪化しつつも均衡を保っていた両者のバランスが新型コロナの感染拡大によって一気に崩れ、持ちこたえられなくなった宿泊施設が次々に経営破綻している。

需要回復見込める2021年の東京五輪まで、 ホテル各社が耐えきれるかがカギ

 今後の宿泊市場は、新型コロナの感染動向と経済の再開、そして東京五輪の開催が回復のカギとなる見込みだ。宿泊施設のデータサービスを提供するSTRグローバル社(英)による東京の宿泊需給予測では、東京五輪の開催が予定される2021年には、大きな経済的効果があった19年のラグビーワールドカップ開催時と同程度のホテル特需が発生すると見込む。

 ただ、新型コロナの感染拡大による休業や客足の大幅な落ち込みに苦しむ各社にとって、2020年を無事乗り切れるかは極めて不透明な状況にある。4月24日に政府が公表した中小企業白書によると、人件費などの固定費を手元資産(現預金など)から拠出した場合、宿泊業は平均6.6カ月分しかなく、資金的余裕がほとんどないことが浮き彫りとなった。全産業の平均が22.0カ月であることから、宿泊業の資金繰りがいかに綱渡りで厳しい状態かがわかる。

現在、ホテルなどでは賃料の減免や取引銀行からの追加資金調達、政府などの公的支援を受けることができる。こうした支援をフルに活用しつつ、本格的な需要回復が見込まれる2021年に向けていかに耐えきることができるかが、宿泊業界各社の命運を分ける。