新型コロナ、在日外国人が驚く日本政府のリーダーシップ不足「切迫感が伝わらない」
「マスクを買う行列」「リーダーシップのない政府」「衛生への意識が高い」。コロナ禍の日本の対応は長年、生活している外国人にとっては驚きの連続。日本人が気づきにくい『常識』について4か国出身者が率直に明かした。
【写真】2003年、党幹事長時代の安倍首相。今と顔つきが違う
政府は説明不足。リーダーシップも足りない
■ビアンキ・アンソニーさん(アメリカ)
「日本政府は国民への説明や情報提供が足りない。国の対応には疑問も残ります。例えばオリンピック延期後に急に緊急事態宣言が出たこと。意図があったか偶然かはわかりませんが、説明が曖昧だから“何か隠している”とか言われてしまうんです」
特にリーダーシップの弱さについては危惧している。
「私の出身地のニューヨーク州では、知事が毎日テレビで状況を説明しています。悪い状況でもすべて。日本ではこうした説明も、国民と一緒に困難に立ち向かうという姿勢もリーダーから感じられません。リーダーシップは政治の役割でもあると思います」
さらに医療体制についても指摘。ICU(集中治療室)などの数が足りない現状にも驚いたという。
「こうなることを予測したうえで、当初から規模を増やしたほうがよかった。現在、発表されている感染者数はほかの国と比べたら少ないですよね。でも医療崩壊一歩手前とも言われています。これは準備不足を表しています」
一方、よかった点は「国民の心がけ」だと話す。
「日本人の感染症対策への意識の高さを実感しました。日本人は政府からちゃんと情報と指導があればきちんと守ると思うんです。政府の対応策は一般人の日常生活とちょっと離れているように思います。納得できなければたまには反発したほうがいい。多くの国民が求めていることならみんな協力すると思います」
アメリカも依然として感染拡大が続いているが、
「アメリカ人は非常事態にはとても強い。民族、宗教、人種、さまざまな人がいるので普段は摩擦もあります。でも非常事態になれば一瞬で団結して危機を乗り越えようという勢いがある。これはアメリカが移民の国であることに由来しています。ようやくできた居場所なのでそれを守る、という意識があるんですよ」
ビアンキ・アンソニーさん◎ニューヨーク市出身。テレビ制作会社に勤めたのち、1989年来日。文科省の外国語指導助手や愛知県、同県犬山市教育委員会に勤務。日本人女性と結婚後、日本国籍を取得。2003年から5期、犬山市議に当選。’17年5月より2年間、議長も務めた。現職。
ドラッグストアの行列が危ないのでは?
■石野シャハランさん(イラン)
「日本には国民に強制的に外出を禁止する法律がないので(自粛要請は)しかたがないことだと思っていますし、個人の権利を制限するような法律がないことに、この国の民主主義を感じました。非常に素晴らしいことです」
と評価する一方で、政府の姿勢については苦言を呈す。
「日本のリーダーたちの会見を見て思ったことは、言い方が遠まわしで必要以上に丁寧なこと。一体なにを話したいのかがわかりにくい。表情や声のトーン、ジェスチャーも優しいんですよね。これでは切迫感が伝わってこない」
特に驚いたのは、マスクなどを求めて行列を作る日本人たちだった。
「マスクやトイレットペーパーを買うために長時間並んでいる姿にはちょっとびっくりしました。“そっちのほうが感染のリスクが上がるんじゃないかな”と、行列を見て思いました。日本はITやテクノロジーの国だと思っていたので、もっとほかのやり方ができたのではないのかと思いました」
イランではこうしたパニックはほとんど起きないそう。
「イランイラク戦争やその後も10数年、経済制裁をされているので国民はパニック慣れしているんですよね。数日、混乱してもすぐに元に戻ります。今回の新型コロナウイルスにしても、すぐに日常になってしまうんです」
イランでも感染拡大が続く。都市間の移動の禁止などの措置はとられているが、集まるのが好きな国民性や、経済制裁により国内の医療機器や物資が不足していることも関係があると推測できる。
最も危惧していることは日本経済の低迷だ。
「私も個人で仕事をしていますので、これがおさまらないと前に進めない。そして倒産する企業を1つでも少なくできるように努力しなくてはいけない。おさめるために期間を決め外出を控えないと。ダラダラやっても、そのしわ寄せは国民に来るんです。国民も政府も努力し、協力し合っていかなければいけません」
石野シャハランさん◎日本企業の異文化コミュニケーションの指導・コンサルをする『シャハランコンサルティング』代表。’02年来日。日本人女性と結婚、日本国籍取得。Twitter@IshinoShahran
日本人は危機感が足りない、甘すぎる!
■マルコ・マッセターニさん(イタリア)
「イタリアの新聞にローマで有名なナヴォーナ広場のことが書かれていました。多くの人でにぎわっていたこの広場も外出禁止で人が訪れなくなったら噴水の石の間からは草が生えてきていました。私はその記事を読んで泣きました。しかし、改めてウイルスのことも怖くなりました」
と声を詰まらせた。だからこそ日本人にももっと危機感を持ってほしいと願う。
「コロナによる生死だけではありません。ここ数か月で何十億人の人生が変わりました。他国は日本のことをとても心配しています。日本に住む外国人が思っているのは“日本の対応が甘すぎる”ということ。自分の国が大変な状況になっているのを見ているから“なぜ日本はやらないの”と思うんです」
イタリアでは3世代同居も珍しくない。最初、若者が感染し、帰宅後に同居する高齢者や家族にうつったとみられている。特に日常から交わすキスやハグを通して感染が拡大したともいわれている。
「イタリア人がこんなに長くほかの人に触れられないのは初めて。ストレスになっている人が多いです。家族や友人に触れたいんです。ですが、触ることが怖くもなっています。イタリアはもう、以前のイタリアには戻れません」
感染だけでなく、経済活動の低迷や自粛生活が長引いたことにより自殺者が増えることも懸念しており、日本政府へ対応策の検討を訴える。
だが、希望もある。
「イタリアに住む家族の隣人は音楽家で、夜になるとベランダでチェロを弾いて人々の心を慰めているそうです。
日本でも今はほかの人のために何ができるかを考え、一緒にがんばらなくてはいけません。沖縄には『イチャリバチョーデー』という言葉があります。これは『みんなきょうだい』という意味です。乗り越えるため、みんなで一緒になって励まし合っていきたいです」
マルコ・マッセターニさん◎1997年来日。翌年、沖縄県に移住し、イタリア語や料理指導を行う『イタリアンカルチャー倶楽部』を開設、代表に。在沖縄領事連絡員として、通訳なども務める。
いつまでもマスクが買えないのはなぜ?
■レ・フン・クンさん(ベトナム)
「いちばん驚いたのはマスクや消毒液が足りない、買えないってことですね。特にマスクや医療用の防護服が足りないなんて信じられませんでした」と戸惑いを隠せない。
感染防止を徹底する国民性には感心したが、かたや外出を続ける人たちのニュースには不安を感じている。
「感染を減らすためには国民ひとりひとりが自覚し外出しないなど、協力しないといけません。ですから政府はもっと厳しく言ってもいい。これは国民の命を守ることです。
ただ、娘もまだ電車で通勤しています。生活が苦しくなるのはわかりますが、命あっての仕事、非常に心配です」
心配は感染だけではない。
「私たち外国人は政府からの補償や給付を受けられるのでしょうか。何十年も日本に住んで給料の中から税金もきちんと払ってきました。もし、受け取れなかったらと考えるととても不安です」
鳥インフルエンザやSARSを経験しているベトナムでは徹底した対策により、感染者数が少ない。そのため、心配した家族から帰国を促す連絡が来ることもあるという。
「帰国は考えていません。それでも、まだ日本は安全だと考えています」
ベトナムではバイクに乗るときなど、普段からマスクをつける習慣があった。
「ベトナム人はミシンを買い、マスクを作っています」
作ったマスクは知り合いの日本人や困っている人に配っており、国籍を超えた支え合いが広がっている。
レ・フン・クンさん◎30年ほど前に来日。大阪府内でベトナム料理店を営む。日本に定住するベトナム人の助け合いや日本人との交流を目的とした『八尾ベトナム人会』副会長も務める。