水野美紀、視聴者を圧倒する“怪演” 左右されない「人間性」のルーツとは
水野美紀の怪演に、ますます磨きがかかっている。『M 愛すべき人がいて』第2話(テレビ朝日系)ではヒロインを猛特訓するボーカルトレーナー役で登場。「イノシシをやれるくらいのパンチを!」などの奇抜な台詞と見た目で、ゲスト出演ながらも強烈な印象を残した。
かと思えば『浦安鉄筋家族』(テレビ東京系)では明るくパワフルな「お母さん」を好演中。昨秋から今春まで放送されたNHKの朝ドラ『スカーレット』で女を捨てた(?)新聞記者役をこなしたのに続き、さまざまなキャラを見事に演じ分けている。
水野美紀が現在に至るまで
しかし、彼女はもともと、こういう怪演タイプの女優ではなかった。ブレークしたのは'92年、唐沢寿明と共演した『KOSE LECHERI(コーセー ルシェリ)』のCMだ。おしゃれなキスシーンと「チューして」という台詞が話題になった。
その2年後、大手事務所のバーニングに移籍して、'01年には月9ドラマ『女子アナ。』(フジテレビ系)で連ドラ初主演。「生体肝」を「性感帯」と読み間違えるようなドジだがまっすぐなヒロインを演じた。
そんな正統派路線だった彼女が転機を迎えたのは、31歳になった'05年のこと。独立して個人事務所を作り、舞台活動に力を入れ始めた。身体を張り、振り切った芝居が評判を呼び、さまざまな役のオファーが舞い込むことに。そこで次々と結果を出していったわけだ。
ただ、独立やイメチェンは失敗することも多い。彼女が成功できたのは、一匹狼的な生き方が性に合っていたからだろう。ちなみに「本性は”おっさん”」という自己分析もしている。そのぶん、重視しがちな同調性にとらわれることなく、我が道を行くことができたのだ。
そんな性格は思春期の経験によるところが大きいようだ。5月13日放送の『突然ですが占ってもいいですか?』(フジテレビ系)では、中学1年生でCMオーディションに応募したきっかけについて、夏休みに東京に行きたかったから、としつつ、こんな告白もした。
「転校生で、ちょっとイジメに遭ったりとかもしていて、小6から」
つまり、学校生活での鬱屈が溜まり、そこから抜け出したいという渇望もあったのだろう。このオーディションで準グランプリとなり、芸能界入り。他人と合わせるより、自分のやりたいことをやって未来を切り拓いたという経験が、のちの独立やイメチェンにもつながったと考えられる。
さらに、この番組ではこんな話もしていた。
「『ガラスの仮面』に影響受けてたからね。そういう意味で、お芝居に興味はあったんだけど」
美内すずえのマンガ『ガラスの仮面』(白泉社)は演劇と出会って覚醒する少女の物語。ヒロインはイジメなどを乗り越えながら、役に憑依する才能を持つ女優へと成長していく。水野もその姿に自身を重ね、未来を夢見たりしたのだろう。
また、小6から中1にかけて彼女は少林寺拳法を習い、それがのちにアクションに取り組むきっかけとなった。舞台で身体を張り、振り切った芝居をするようになる原点がこの時期だったのである。
そんな怪演女優としての資質を見抜いたのが、放送作家で脚本家の鈴木おさむだ。舞台を見て「普通の女優だったらやらないことをやる」と感心。'17年の『奪い愛、冬』(テレビ朝日系)で、クローゼットに隠れて夫の浮気現場を押さえ「ここにいるよー! 見てたよ〜!」と言いながら飛び出すシーンなどを演じさせた。出演当時、彼女が妊娠中だったことも話題になったものだ。
そして、昨年の『坂の途中の家』(WOWOW)には、生後8か月のわが子を風呂に落として虐待死させた母親役で登場。平凡な女性像にこだわらないからこそ、そこから逸脱した女や人間の妄執のようなものも彼女は表現できるのだ。その怪演がさまざまな人の心を揺さぶるゆえんだろう。
とはいえ、昨年には子育て本も出版するなど、よき家庭人の一面も。その演じ分けも見事だ。今回のドラマ『M』での怪演については、
「驚くほどの反響をいただき、おののいております」
と、コメントしている。彼女がおののく以上に、視聴者をおののかせるような怪演をこれからも期待するとしよう。