「#家出少女」に群がる下心丸出しの『泊め男』、心を許してしまう少女の本音
「何も特別な事件ではありません。ネットでつながった人の家に行く、そこに住んでいるという未成年はほかにもいるでしょう。18歳未満は条例で23時以降はファミレスやカラオケを使用できない。切羽詰まっている彼女たちが、ネットで泊まる先を探すのは日常だと思っています」
そう話すのは特定非営利活動法人BONDプロジェクトの橘ジュン代表。日ごろから10代20代の少女たちの保護や相談の支援を行っている目には、今回の誘拐事件は起こるべくして起こったと映る。
大阪市の小学6年の女児(12)が栃木県小山市内で、6日間監禁された末に保護された事件。未成年者誘拐の疑いで逮捕された伊藤仁士容疑者(35)と少女の600キロ以上離れた点と点を結びつけたのはSNSだった。
加害意識、被害意識もなく結びついてしまった
一方に「親が嫌い」「家が嫌い」「学校がイヤ」と、居心地の悪さを訴える少女らがいる。
もう一方には「少女たちとつながりたい大人」(前出・橘代表)。その両者を接着するのがSNS。
伊藤容疑者の家には15歳の女子中学生もいたが、彼女は監禁ではないと話し、伊藤容疑者も誘拐ではないと供述している。一方ともう一方が、加害意識、被害意識もなく結びついてしまったケースだ。
伊藤容疑者が逮捕された直後にも埼玉県と兵庫県の女子中学生を、所有する借家に住まわせていたとして埼玉県の不動産業・阪上裕明容疑者(37)が、愛知県の女子中学生を4日間自宅に寝泊まりさせたとして東京都の会社員・小林政司容疑者(43)がそれぞれ逮捕された。容疑はともに未成年者誘拐の疑いだ。
刑事事件を専門に取り扱う末原刑事法律事務所の末原浩人弁護士は、
「SNS、そしてその利用を極めて容易にさせるスマホが登場したことで、子どもを食い物にする悪い大人とつながるリスクが急激に増大した」
警察庁によれば、昨年SNSを通じて被害にあった18歳未満の子どもは1811人。中高生が被害の9割弱を占めているが、小学生の被害が過去最高の55人に増えている。
子どもたちのSNS問題に詳しい兵庫県立大学の竹内和雄准教授は、
「今の子たちは、生まれたときからスマホを当たり前のように使っているので、危機感がない子が多いですね。
例えば、好きなアーティストのファンとネットで出会ってコンサート会場で交流する、なんてことは普通なので。ネットで出会うことへの抵抗はどんどん減っています」
家出少女は「今すぐ話を聞いてくれる人」を探している
SNSで「#家出」「#家出少女」と検索すると、泊まる場所を探す少女たちが書き込んでいるのがわかる。リアルタイムでアップされると「泊めるよ」「大丈夫?」「迎えに行くよ」という言葉が、食いぎみに殺到する。
少女たちに群がる彼らが『泊め男(とめお)』と呼ばれる男たちだ。親への不満、学校の悩みの書き込みなどに即座に反応する、下心丸出しの男たち。
前出・橘代表は、
「子どもたちは今すぐに話を聞いてくれる人を探している。すぐ答えてくれる人に対し、自分を気にかけてくれる、と錯覚してしまうんです」
家族心理学が専門の目白大学の小野寺敦子教授は、
「家出までするケースは、家庭に何らかの問題があるかも」
と前置きし、娘と母親の関係性に注目する。
「中学生は、親から精神的に自立したいという願望が強まる年齢です。“親がうざい”という気持ちが強まる。母親に悪い印象を持っていると、娘は母親を拒絶することがある。
今回の大阪のケースの問題点は、家にも学校にも居場所がなかったというのがいちばんの問題だと思います。精神的な居場所、身体的な居場所、それが家にはなかったのではないでしょうか」
「寂しい大人だ」と思うと共感してしまう
その結果、ここではないどこかに自分の居場所を求めてしまう少女たち。これまで多くの家出少女と接してきた前出・橘代表は、少女たちのこんな本音を聞いたことがある。
「彼女たちは言うんです。(泊め男は)気持ち悪いし嫌だけど、自分と同じ雰囲気がするって。寂しい大人だって思うと共感してしまうそうです」
彼らの多くは独身でひとり暮らし。お金はあっても友達はいない、同年代の女性からも相手にされない。そんな寂しさから居場所のない少女たちに声をかける。
わいせつ目的ばかりではないという。
「困っている子を助けてあげただけと、正義感を持っている人もいるそうです。悪いことをしていると思っていない」
と前出・橘代表はあきれる。
男たちの少女への接し方は優しく、少女たちも彼らに優しく接する。そのため『泊め男』をやめられないし、少女たちも『泊め男』を頼るほかない。
家に帰らなくても捜索願を出さない親さえもいる中、少女と大人の歪んだ連鎖が成立し続けてしまう。
大阪女児の事件について前出・末原弁護士は、
「未成年者誘拐罪が成立する可能性は高いと思います。弾丸を見せられた、といった話も出てきていますので、監禁罪で起訴される可能性もある」
と見通し、こう断罪する。
「いい大人が判断能力の未熟な小6女児を言葉巧みに誘い出し、家から遠く離れた栃木まで連れ去った。犯行の悪質さは否めません」
再発を食い止めるための対策は
再発を食い止める手立てはあるのだろうか。
「命よりスマホが大事と考える子もいます。子どもたちを守るためには規制するだけでなく、視点を合わせ考え、話さないとダメ」(前出・橘代表)
と大人たちに変革を求める。
前出・竹内准教授は、
「Twitterは13歳以下はできないとなっていても、使っている子がいる。必ず年齢認証をする体制をつくらないと、この問題の被害者はどんどん増えていきます」
と規制強化にも言及する。
前出・小野寺教授も、
「一般的に家庭は、本来は安全の基地、困ったら助けてくれる安心の基地です」
と家庭の大切さを強調。
前出・末原弁護士は、
「ひとつのアイデアとしては、東京都の自画撮り規制条例のように画像の要求の段階で処罰の対象としているように、SNS上の勧誘の段階で処罰できるように法制化していくことが考えられます」
ネット上では、今日も正義づらした加害者予備軍が舌なめずりしている。