ネルシーニョ監督のもとで大谷は、2度目のJ2優勝を果たした。写真:浦正弘

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「それ、俺は5年前くらいから思っていましたよ」

 2019年3月27日、手塚康平との対談に応えてくれた大谷秀和が、筆者の質問にこう返してきたのを記憶している。そのクエスチョンとは、次のような内容だった。

「(11年に)タイトルを獲ったネルシーニョ監督のもと、(J1で4位の)17年のようなポゼッションをできれば……」

 冒頭の答えが、まだ話している途中に返ってきたが、そんなことは意に介していない。むしろ、間髪入れずに、のめり込むように、突っ込んできてくれたのが嬉しかった。そして、大谷はこう続けた。

「ネルシーニョ監督の良い部分と、(吉田)達磨さんや下さん(下平隆宏監督)とかがやっていた良い部分がちょうど混ざれば、一番良いのになとは思う。だけど、そこは監督のスタイルだったり、例えばボールを動かすことひとつとっても、その瞬間を剥がしていって、フリーマンを見つけていくスタイルというのと、あとはそこよりも、もっと良い状態を狙えというような……。でも、なんか両方できるのが一番良いと思う(笑)。ネルシーニョ監督はとにかく隙を逃さないで前線の選手のランニングを活かしていったり、でもつなぐなっていうわけではない。達磨さんとかも局面の短いパスは多いけど、背後というのがないわけではないから、そのへんは選手が柔軟にやる必要があるのかなと」
 ネルシーニョ第1次政権時(09年7月〜14年12月)の柏は、「とにかく勝負にこだわる戦い方」(大谷)で、10年にJ2で優勝すると、11年にJ1、12年に天皇杯、13年にナビスコ(現ルヴァン)カップを制覇。多くのタイトルを獲得した。

 15年に柏は、アカデミーにポゼッション哲学を浸透させた吉田達磨氏(現シンガポール代表監督)を監督に据え、そこからはトップチームもアカデミーと同じポゼッションスタイルを標榜した。17年にはU−18などでも指導経験がある下平隆宏監督(現横浜FC監督)の下、J1で4位。しかし、18年にはJ2降格の憂き目に遭っている。

 今季で在籍17年目になる大谷としては、ネルシーニョ監督の勝ちに徹する指導も良いし、吉田&下平監督が築いたポゼッションスタイルも良い。その両方を上手く融合できれば理想的で、それは言わば柏の“最強”のスタイルでもあるかもしれない。
 対談した当時は、まだ開幕して間もなかった。ただ、41節で町田に3−0で勝利し、J2優勝を果たした今、思う。柏は大谷がずっと考えていた“理想”に近づきつつあるのではないだろうか。

 ネルシーニョ監督の下で今季は、見違えるように球際で戦えるようになった。基本かもしれないが、正直に言えば昨季はできなかったことだし、それが降格の原因のひとつとも言える。ただ、今季は試合に出る全選手が球際の激しさを徹底。空中戦にもよく勝っているし、昨季にはあまりなかったシュートブロックなども見られるようになり、守備面は格段に向上した。

 そして、攻撃に移れば、セカンドトップのように振舞う江坂任を中心に、最終ラインから丁寧にパスをつなぎ、ポゼッションをしながら相手を敵陣に押し込む。伊東純也(現ゲンク)頼みだった昨季とは違って、選手間の連係も素晴らしい。戦況に応じて繰り出すカウンターもパンチ力抜群だ。
 攻守両面で高いレベルにある柏は、敵地で町田を下してJ1復帰を決めた。試合後、大谷に「ネルシーニョ監督の下、ポゼッションを上手く融合できて、前に話していた理想の形に近づきつつあるのではないでしょうか?」と改めて聞いてみた。

「前半戦のチームのやり方から、多少変わった部分はあると思います。やっぱり、監督もボールをつなげるなら、つなげと言いますし、あくまで、その後はボールを持っている人の判断です。ただ、どういう状況であれ、まずはポジションを取る、というのはシーズン後半戦にかけて、ピッチのなかで選手の意識がより強くなってきたと思います。