ペットの“クローン”に1000万円!? 生物学者は「同じDNAでも中身は別物です」
死んでしまったあなたの愛犬を“復活”させることができるとしたら──。
同じDNAでも同じには育たない
今、韓国や中国で行われている犬のクローンビジネスが、世界中から注目を集めている。死んでしまった犬の細胞さえあれば、同じDNAを持ったクローンをつくることができるのだ。その値段は日本円で1000万円以上もするという。
「ペットロス症候群の癒し方としては、ひとつの方法ですね。死んでしまった犬と、姿形がほとんど一緒なのですから」
と、生物学者の池田清彦さんは話す。しかし、クローンをつくることに賛成はしないと、こう続ける。
「その個体がどう成長するかは後天的な要因も絡んでくるわけです。同じDNAを持っているからといって、死んだ犬とまったく同じに育つというわけではない。それに、代理母犬となった子宮内の環境だって違うわけです。クローンといっても、そう簡単には同じにならないんですよ。
臓器や器官などはDNAに支配されているけど、生身の動物となると最大の問題は脳。脳は生まれたときに機能が確定するわけではなく、どんな刺激を受けるかで、どこの神経細胞とシナプスがつながるかが決まります。そうやって成長していくので、脳の構造や中身、ファンクション(機能)は違ってくるんです」
クローンは、複製したい犬の皮膚などの組織から体細胞を取り出して培養し、細胞の核を取り出す。次に代理母犬の卵子から核を取り除き、複製したい犬の細胞の核を融合させ、子宮に戻して着床させる。
うまくいけば約60日後には、クローン犬が誕生するという。だが代理母犬の負担など、倫理面も含めさまざまな議論を呼んでいる。
「死んでしまった犬のクローンを望むのは、僕から見れば犬がかわいそうという気持ちより、飼い主のエゴですよ。
同じDNAの犬だからといって、その子は別の命を持っています。言い方は悪いけど、入れ物が同じなだけで、中身は別物なんです」(池田さん・以下同)
AIなら“生まれ変わり”が可能
それでも韓国の研究所には、日本を含む世界中から“注文”がくる。この研究所では、'06年から1000匹以上の犬のクローンをつくり続けているという。将来、日本でもこのビジネスは確立するのだろうか?
「韓国や中国でクローンをつくった人がどれくらい満足するか、によるでしょう。ビジネスだから、クローンを行う側はうまくいった人の話でPRするわけです。ペットロスで苦しんでいるお金持ちの気持ちをくすぐって、商売しようと。
何回も言いますが、生まれ変わりではなく、別の犬なんです。僕は日本ではあまり流行らないと思います。クローンをつくってもがっかりすることのほうが多いと思いますから」
そして、どうしても死んだ犬が忘れられないという人には、
「ミックス犬だと難しいけど、僕なら可愛がっていた犬と同じ犬種を飼います。品種改良してできた犬種なら、純血であればあるほどクローンみたいなものですから。
あとは、死んでしまった子の兄弟たちの子どもを連れてくる。クローンというより家系ですね。ブリーダーに次に子どもが生まれたら譲ってください、とお願いしておく。かなり似た子に出会えると思います」
そして“究極”の方法としてこんなことも……。
「AIを搭載したロボット犬。人間の姿をしたロボット、ヒューマノイドの研究も進んでいますので、生身の犬と姿形が変わらないロボット犬も30〜40年したら出てくるでしょう。
AIなら死んでしまった犬の情報を細かくインプットしていけば、限りなく近づいていきますし、個体が壊れても、それこそ“生まれ変わり”が可能ですから。クローン技術で命を弄ぶより、どれだけ健全かと思います」
《PROFILE》
池田清彦さん ◎生物学者、評論家。早稲田大学名誉教授、山梨大学名誉教授。『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)のコメンテーターも務める