「複数球団の競合によるNPBドラフト1位指名」

 自分に甘えが出ないように、あえて目標を高く設定した。実現すれば独立リーグ出身者初の快挙であり、メディアの注目度は断然上がる。

 新潟アルビレックス・ベースボール・クラブ、長谷川凌汰。


福井商、龍谷大学を経て、昨年BCリーグ新潟に入団した長谷川凌汰

 最速153キロを誇る北陸が生んだ快速右腕は、ビッグマウスと捉えられてもおかしくない自身の目標について尋ねると、その意図をこう説明した。

「昨年はBCリーグ1年目だったこともあり、たとえ育成枠でも下位指名でもNPBに行ければいいと思ってやってきましたが、指名はありませんでした。そこで自分に何が足りないんだろうと考えた時に、まず頭に浮かんだのは意識の部分でした。1番上(の指名)を狙って、結果的に下の順位で指名されるのは仕方ないとしても、育成でもNPBに行けたらいいとか、下位指名でもいいとか考えていたら、『これぐらいやっていればいい』と、そこに合わせてしまう。

 今年は、大学卒業後に社会人に行った僕の同級生たちもドラフト解禁になります。もちろん比較されるでしょうし、彼らに勝ってNPBに行くには、もっと自分を高めていかなければいけない。ビッグマウスに聞こえてしまうかもしれないですけど、そこ(ドラフト1位指名)を狙っていかないと、NPBに入ることもできないんじゃないかと思うんです」

 そう話す長谷川の姿からは、強い決意と覚悟が感じられる。

 昨年秋に行なわれたBCリーグ選抜とオリックス二軍との練習試合で、長谷川は153キロをマークして一躍、時の人となった。ちょうどドラフトが差し迫った時期だったこともあり、メディアで取り上げられる回数も急激に増えたが、惜しくも指名は見送られた。長谷川が振り返る。

「昨年は150キロを出せばNPBに行けるんじゃないかと思っていましたし、知らず知らずのうちに150キロを出すことが目標に変わっていました。でも、結果として行けなかった。ならば、それ以外のところを伸ばしていかなきゃいけないと考え直したんです」

 昨年はBCリーグで、先発、中継ぎ、抑えとフル回転し、計32試合に登板した。防御率はリーグ6位の3.09と突出した数字ではなく、NPBの球団側からすれば、「もう1年、様子を見よう」と考えても不思議ではない。

 長谷川が続ける。

「たとえば、自分は変化球が弱点だと自覚していますし、周りに話を聞いても『今年はもうひとつ変化球が必要じゃないか』とも言われます。なので、試合では真っすぐに頼って抑えるのではなく、変化球も磨いて”一級品”と言われるぐらいまで上げていこうと考えました。『プロに行きたい』ではなく、『プロの一軍で活躍する自分』をイメージして日々を過ごすことにしましたし、もともとの目標も『NPBの一軍で活躍できる選手』だった。自分をひとつの商品として考えるわけではないですけど、そこまでのレベルにたどり着かないと上では通用しない、今の目標にも届かないと考え直したんです」

 今春のオープン戦では、そのテーマを強く意識しながら相手打者と対峙した。150キロ台のストレートはチラつかせる程度にとどめ、極端に言えば変化球でカウントを取り、変化球を決め球にして抑える投球スタイルを試した。

 もちろん、変化球の質を上げるための一時的なものではあるが、ただのパワーピッチャーで終わらないという明確な目標があった。

 3月26日の熊谷さくら運動公園で行なわれた武蔵ヒートベアーズとのオープン戦では、2回を無失点に抑え、4つの三振を奪った。しかし、試合後の長谷川の表情は曇っていた。

「結果としてはよかったんですけど、納得していないです。もっともっと突きつめられるところがあったと感じているので……」

 スプリットやフォークといった変化球の精度に、まだ不満があったようだ。

「極端に言えば、全球変化球でいって試合を締められたらよかったんですけど、それができないから、今日も真っすぐで相手バッターを仕留めました。真っすぐは自信がありますし、打たれるわけがないと思って投げているので、結果はよかったんですけど、内容的には変化球で腕が振れないとか、打たれたらどうしようと思いながら投げている部分があったりして満足はできなかった。これが真っすぐと同じぐらいのメンタルで投げられるようになったら、もっとバッターも振ってくれると思いますし、もっと見逃しも取れるようになると思うんです。それがこれからの課題だと思いますね」

 そして迎えたシーズン開幕。長谷川は直前のブルペンで腰を痛め、少々出遅れてしまった。幸い大事には至らず、4月27日の群馬戦で実戦復帰。徐々に状態を上げていくと、5月6日の武蔵戦では9回106球を投げて、被安打4、四死球1、失点1(自責点0)で完投勝利。16日の栃木戦でも7回82球を投げて、被安打1、四死球0、失点0、奪三振8という完璧なピッチングを披露した。

 昨年のシーズンオフから取り入れた初動負荷トレーニングの効果も感じている。体の可動域を広げ、筋肉を使わずに自然と押し出される感覚をつかんだことで、ストレートの質の向上につながった。

「昨年までは空振りが取れない真っすぐを投げていたんですけど、今年は真っすぐで空振りが取れたり、見逃しを奪えたり……バッターの反応も見られるようになりました。そこは進化できているところだと思います」

 普段の長谷川は、発言のインパクトからは想像もつかないくらい純朴な青年だ。質問に対して、真摯に受け答えする姿はとても好感が持てる。

「過信せず、慢心することもなく、あくまで謙虚な姿勢で、今年は地に足をつけてやっていけたらと思います」

 また大胆な発言の裏には、リーグを盛り上げたいという思いもある。

「そういう選手がいるんだって、BCリーグを見に来てくれる方もいるでしょうし、そういう人の目があればあるほど、自分にもっとプレッシャーをかけられると思うんです。そういう意味では、いいモチベーションになっているんです」

 5月27日現在、チームは20勝6敗1分でBCリーグFUTURE−Eastのトップを走っている。その中心のひとりに長谷川がいるのは間違いない。

「今年は先発一番手としてチームを守っていける存在になろうと決めていました。シーズンは半年間という短い期間ですけど、そのなかで自分が先頭に立ってやることで、チームも優勝にグッと近づくと思いますし、そこも自分にかけるプレッシャーではあります」

 口先だけじゃない。たしかな実力も身につけたBC新潟の快速右腕から目が離せない。