Jリーグ開幕直前に行われる恒例のゼロックス杯。今年は新加入レアンドロ・ダミアンの決勝ゴールで、川崎フロンターレが1-0で浦和レッズに勝利した。

 浦和のオリベイラ監督は「これからチームはよくなっていく」と強気を装ったが、両チームの力関係は、浦和の状態が今後いくら上向いても逆転は難しいと断言したくなるほど離れていた。

 川崎がいい補強をしたことは間違いない。L・ダミアンは従来の川崎にはいなかった長身FW(188センチ)だ。ともすると、ごちゃごちゃになりがちだったその攻撃は、高い位置で軸となる選手を獲得したことでワンレベル、ブラッシュアップされそうだ。

 とはいえだ。効果的な補強かもしれないが、それは大物を獲得したという感じではない。ポドルスキ−、イニエスタに次いで、新たにビジャを獲得した神戸とは違う。川崎には神戸に負けないほどお金がある。2年連続優勝を飾っているので、その賞金だけでも40億円近くにのぼる。平均的なJクラブの1年分の予算に匹敵する額だが、その賞金は、ファンの存在なしには獲得できなかったまさに声援の賜。使い道には明快さが求められる。有力選手の獲得はその一番の方法だ。

 今季から外国人枠が拡大。試合にエントリーできる外国人選手の枠は5人になった。抱えることができる数には制限がない。7、8人いても不思議はないが、この日の川崎はスタメンに3人(チョン・ソンリョン、マギーニョ、L・ダミアン)でベンチ要員は0。試合当日配られたパンフレットを眺めれば、シーズン登録選手にさらに2人(ジェジエウ、カイオ・セザール)の名前を確認することができたが、新しい規定に的確に反応しているとは言い難い状況だ。

 一方、浦和はどうだったかと言えば、スタメンに2人(マウリシオ、エヴェルトン)。ベンチに2人(マルティノス、ナバウト)、そしてこの日、登録外だったファブリシオ(元鹿島)の計5人だ。反応の鈍さは川崎以上といっていい。

 残念ながらこの試合を通して、新時代が到来したという高揚感は得られなかった。

 Jリーグが開示した2017年の経営情報によれば、年間予算(前年の営業収入)で首位を行くクラブは浦和(79.17億円)だ。巨額の優勝ボーナスを得た川崎と同じ立場にある。この首位の座を、浦和は10年数年守っているので、事実上、Jリーグナンバーワンの金満クラブとなるが、その浦和でさえスタメンに2人しか、外国人選手を送り込めていないのだ。

 年間予算の多いビッグクラブは外国人枠増の恩恵にあずかりやすく、小さなクラブはあずかりにくい。その人件費は、相対的に日本人選手より高いからだが、その結果、Jリーグの上位と下位との差は開くものだ。昨季より今季の方が予算に比例した結果が生まれやすい環境にある。

 浦和、川崎には歓迎すべき改革なのである。神戸、名古屋、FC東京しかり。鹿島、横浜がこれに続くが、今季を語ろうとしたとき抑えておきたいのはこの点だ。

 そうした視点に立つと、目は川崎以上に浦和に向く。ゼロックス杯。そのシュートは長澤和輝が放ったボヨヨーンとしたシュートわずか1本に止まった。支配率も42対58。結果は0-1ながら、先述の通り、内容はそれ以上の開きがあった。しかも、場所はさいたまスタジアム。浦和にとってはホーム戦だった。

 ところが、試合後の記者会見に臨んだオリベイラ監督は余裕綽々だった。普通なら、穴があったら入りたい恥ずかしい気分に陥るはずだが、川崎を「勝利に値するサッカーだった」と持ち上げたり、また、記者からの質問が一通り終わると「もっと私に質問して下さいよ」と、親密さを求めようとしたり、ホームで完敗したことなど、まるで意に介さない様子だった。記者も記者で彼に対して厳しい言葉を掛けることはなく、会見場は緩く和やかなムードに包まれていた。