さらに、両者の関係を硬化させたのは、「国会の暴れん坊」ハマコーこと浜田幸一がこのホールに乗り込み、「なんだ、これはッ」とイスをひっくり返してバリケード排除に出たこともあった。もはや両者は全面対決、党分裂かの一大危機に陥った。以後、じつに40日間モメ続け、これが世に言う自民党史に残る「40日間抗争」ということになる。当時の自民党担当記者の証言がある。

 「この間、さまざまな妥協点を見い出そうとする動きがあった。反主流派からは『総裁・福田、総理・大平でどうか』という話も出たが、田中・大平連合が『“総総分離”というのはあまりに変則的だ』として拒否、結局、特別国会召集後1週間目にして、自民党からは大平と福田の二人が立候補するという異例の事態になった。先に、『天の声にも、変な声もある』と恬淡として大平に政権を譲った形の福田だったが、ここに至っての“ねばり腰”は権力という魔物の凄まじさを改めて見せつけた格好だった」

 この首班指名選挙は、結局、大平が勝利するが、事はこれで落着とはならなかったのだった。
(文中敬称略/この項つづく)

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小林吉弥(こばやしきちや)
早大卒。永田町取材49年のベテラン政治評論家。抜群の政局・選挙分析で定評がある。著書に『愛蔵版 角栄一代』(セブン&アイ出版)、『高度経済成長に挑んだ男たち』(ビジネス社)、『21世紀リーダー候補の真贋』(読売新聞社)など多数。