アスリートの競技人生を通じて身に付くものは、競技力だけではない。それは、ライフスキルと呼ばれ、あらゆる場面に汎用性の効く「生きる力」だと話す、椎名純代さん。前編では目標達成に関係するスキルやプロセスは語学学習の過程に非常に近いというお話を伺ってきました。後半はさらにそのプロセスを紐解き、「習慣化」の話題へと移っていきます。そこには、多くのビジネスマンにとってのテーマでもある「モチベーション」の捉え方が関係してきます。スポーツと語学のみならず、あらゆる世界でステップアップを目指す人必見の「習慣化」メソッドとは。
(写真:瀬藤 尚美)

 

どんな形でも、「継続」し続けることが「習慣化」の第一歩

―「bわたしの英会話」の教室は、女性心をくすぐるような内装になっていますよね。

大山:はい、通いたくなる場所づくりを目指しました。渋谷や自由が丘、銀座など計8教室(2019年1月に池袋開校予定)ありますが、全てコンセプトが違い、部屋ごとの壁紙も変えて飽きにくい仕掛けをつくっています。

 

 

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椎名:最初のハードルを越えたら、次は継続ですからね。フロンターレ時代、選手たちには毎日シートの記入をさせていたのですが、それを守らない子ももちろんいました。私がチェックする日にまとめて一週間分を記入するとか。

大山:そうした子も出てくるでしょうね。

椎名:大人でもそうですが、やはり毎日の習慣化には時間がかかります。最初は一週間単位でもいいので、継続させることが大事です。

大山:これは極論ですが、はじめ、教室に来るのが気が重ければ、会員ページにログインするだけでもいいとお客さまには伝えています。システムにログインする=英会話とつながった状態を維持させることを、特に入会後の3週間は意識していもあります。この3週間はいわゆる三日坊主の期間にあたり、人間がマンネリ化しやすい一種のパターンなのです。逆にいえば、その時期を乗り越えれば、スクールに通うこと、英語に触れることが習慣として身に付き始めます。

椎名:そう、まずは続けることから。そしてある程度続いたら、“成功”を自覚させることも必要です。アカデミーでは、選手のシートをすべてファイリングしてあります。1年2年と続けた頃に、最初に書いた目標設定シートを見せると、「あの時よりもこんなにできるようになってる!」と自分の成長を実感でき、達成感につながります。すると、次の目標設定へのモチベーションが湧き、自発的にシートを書けるようになっていきます。

 

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大山:私達は20回に1回のペースで振り返りのカウンセリングを行っています。目標までの進捗を確認するためにも、学習のなかで新たに生まれた悩みや課題を洗い出すためにも、効果的ですよね。

余談ですが、僕は昔全く運動をしていない時期があり、一念発起してジムに通い始めました。ところがすぐに気が重くなり、雨が降っているとか、お腹が痛い気がするとか、行かない理由を探すようになってしまったんです。これじゃだめだと思い、まずはサウナに行くだけでもいいことにして、ジムに通うことを習慣にしました。それでも、どうしても通えないときには、トレーニングウェアに着替えて寝るとか(笑)。とにかくジムにつながる行動を取るようにして、習慣づけをしました。これを、ベビーステップと呼びます。

椎名:わたしも実はさぼり癖があるので、すごくよくわかります。大山さんの言うように完璧にしようとせず、時にはスモールステップでも続けていくことが自己コントロールにつながりますね。

 

モチベーションに左右されずに行動する方法

―モチベーションが下がったときにはどのようにすればいいのでしょうか。

大山:逆説的ですが、常に高いモチベーションを維持することは難しいと理解することが習慣化には重要だと考えています。完璧な人をロールモデルにすると、挫折したとき余計に落ち込みますよね。人間はそんなにすごくないという前提に立ち、マンネリ化も想定内と考えられるようになれば必要以上に自信を失うこともありません。

椎名:そうした気持ちの浮き沈みがあることを本人が自覚することも大切で、次にまたモチベーションが下がったときに対処する力がつきます。それが「自分をコントロールする力」であり、重要なライフスキルの一つです。スポーツ選手の競技人生において絶えず成長し続ける、ということは実際はありえず、必ず伸び悩む時期が来ます。そうしたときに自分を客観視して平常心を保つためにも、自分の行動や心理パターンを把握することは非常に大切です。

大山:モチベーションの低下や成長が鈍っていることを悩んでいる会員様には、人間だれしもそういうときがある、と割り切って自分を客観視することの重要性を伝えています。私たちはオリジナルの「b 習慣化メソッド」というガイドブックを入会した人にお渡ししていますが、ガイドブックのメインとなるポイントは「自分を知ることが自己コントロールへの第一歩」であるということに気づいてもらうことです。

椎名:私も選手がどうしてもこのシートに取り組めない時期には無理強いはしません。ただこちらからのアプローチとしては、例えばチームメイトとシートを見せ合うなどして、自分自身から他人へと目線を変えさせることもあります。周囲に刺激を受けて、また自分に向き合い直すことができるのです。

大山:自分を知ることと同時に、他人との相対性を知ることも大事ですよね。マンツーマン英会話の場合は、そうした機会を作りにくいのが課題でした。現在会員ページへの機能追加を検討しており、教室全体のSNSのようなコミュニティを作りたいと考えています。そこでは目標を共有できたり、会員同士が学習に関する悩みを相談しあうなどして、互いに刺激しあう環境をバーチャルで生み出したいですね。

椎名:自然と仲間から学ぶ環境があるというのは、スポーツならではかもしれませんね。

 

 

大山:その環境を、語学習得の場にも取り入れていくことで、「習慣化」のサポートができればと考えています。

椎名:逆に、語学習得などの学習の世界のほうがその成果が見えやすいと思います。このシートの記入ができるようになっても、全員が等しく成長できるかといえばそうではないのがスポーツの難しいところ。でもおもしろいことに、私の知る限りではシートをおざなりにしながら目覚ましい成長を遂げた選手はいません。フロンターレのアカデミー生で言えば、今も世代別の代表や大学サッカーで活躍する三笘薫選手(筑波大学3年)や岸晃司選手(専修大学3年)は、幼いころからシートをきちんと記入していました。「自分をコントロールする力」がその頃から身についていたのでしょう。

大山:幼いころからの習慣が大成したのですね。モチベーションに左右されずに「やることが当たり前」になれば、集中力のムラもなくなります。競技においても語学学習においても、高い成果が出るのは明らかですよね。

 

―モチベーションに頼らないことで、安定した成長につながるんですね。

大山:モチベーション自体はもちろん大切です。しかし大体のケースにおいて、何か新しいことを始める瞬間が一番モチベーションが高く、その後は下がる傾向にある。これだと最初に立てたゴールにたどり着く前に燃え尽きてしまう場合が多いのです。「やりたい」「やりたくない」ではなく、「やることが当たり前」という状態になるまで継続することが、結果的に目標達成を引き寄せるのだと思います。

最初にお話ししたキーストーン・ハビットのように、英会話自体を習慣づけのきっかけにしていただくのもおすすめします。英語は人生の選択肢を広げる一つのツールです。そのツールを活用して、どんな経験をしたいのか、と次の目標を立ててまた達成していく。それを積み重ねて、人生に自信を持つ人が増えたら嬉しいですね。

 

 

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