ビール売り場と遜色ない広さのチューハイ売り場が展開されているライフ神田和泉町店(記者撮影)

9月上旬のある日の夕方。都内スーパーの酒売り場には、色とりどりの缶チューハイがぎっしりと並んでいた。1缶100円前後の商品が次々と買い物客のかごに入っていく。

チューハイ市場の拡大が止まらない。英調査会社ユーロモニターインターナショナルによると2017年の市場規模は6000億円を突破。この10年で7割近くも伸びた。特にここ数年は40〜50代男性を中心に、アルコール度数が7%超のチューハイに人気が集まっている。業界関係者は「節約志向の高まりで“家飲み”が増える中、1本で手軽に酔える点が支持されている」と口をそろえる。

サントリーが市場を牽引

2017年6月からは、価格面で競合関係にある新ジャンル(第三のビール)が酒類の安売り規制によって値上がり。缶チューハイへ流入する消費者が増えた。

現在、チューハイの350ミリリットル缶1本当たりにかかる酒税は28円で、新ジャンルと同額。酒税法改正で26年にかけて段階的に増税されるが、新ジャンルのほうが20円多く増額される。そのため、新ジャンルからチューハイへの流入が加速することが見込まれる。

現在の市場は、サントリースピリッツが約40%のシェアを握りトップに立つ。「氷結」ブランドを中心にそれまで首位だったキリンビールを10年に逆転した。「-196℃ ストロングゼロ」や「ほろよい」といった大型ブランドの投入をきっかけに、シェアを伸ばし続けている。「チューハイを食中酒として訴求し続けてきたことが功を奏した」(サントリースピリッツでチューハイ事業を統括する佐藤晃世・RTD事業部長)。

チューハイは焼酎やウオツカなどのスピリッツ類に果汁を加え、炭酸で割ったもの。ビールと違い、発酵や醸造の技術は必要ないことから、製造が比較的容易だ。こうした参入障壁の低さも市場の拡大に寄与している。


国内飲料シェア首位の日本コカ・コーラも本格的にチューハイ市場に参戦する構えだ。5月には九州限定で缶チューハイのテスト販売を開始。売れ行き次第では全国展開も視野に入れる。

ビールや焼酎市場が年々縮小する中、成長を続けるチューハイに力を入れるメーカー各社。だが、その裏で頭を悩ます問題がある。ビール類に比べて採算が悪く儲からない、という点だ。

価格競争が過熱

野村証券の藤原悟史アナリストの試算によると、製品にもよるが、350ミリリットル缶1本当たりのチューハイの限界利益はビールより30%も低い30円程度。新ジャンルと比べても14%ほど低い。ビール類からの流入が増えれば増えるほど利益が減っていく、まさに“豊作貧乏”になりかねない状態なのだ。

なぜチューハイは低収益なのか。要因の一つが、熾烈な価格競争だ。定価で販売されることの多いコンビニでは140円前後のチューハイでも、スーパーやドラッグストアでは110円前後まで価格が下がる。特売では100円を切ることもざらだ。さらに1本90円を切るようなプライベートブランドを次々と投入する小売企業も出てくるなど、年々安売りに拍車がかかっている。

スーパーでは競争の激しさゆえ、「売り場確保や安値維持のための販促費(卸業者や小売店に支払うリベートなど)がほかの酒類に比べてかさむ」(酒類メーカー首脳)。別のメーカー首脳も、「少しでも広告費を積み増すとまったく儲からなくなる」と嘆く。

原価が高いこともネックだ。他社製品と差別化するために使われる果汁が収益を圧迫する要因になっている。実際、「原価の中で果汁が占める割合は高い」(サントリースピリッツの佐藤氏)。中には、アサヒビールのように収穫直後の新鮮な果実を使用するメーカーもある。チューハイは味の種類が多く、ビール原料の麦芽やホップに比べて調達面で規模のメリットも働きにくい。

物流にも課題を抱える。ビール類の場合、輸送効率を考慮し大手メーカーは全国に満遍なく工場を配置している。一方、メーカーにもよるが、チューハイの製造体制はビール類ほど整ってはいない。そのため、輸送距離やトラック台数が増え、物流費がかさんでしまう。

サントリースピリッツの佐藤氏は「売り場に自社製品が多く並び、消費者との接点が増えるという意味でシェアは重要」と強調する。それだけに、「規模のメリットが働くサントリーの安値での攻勢が今後も続きそうだ」(藤原アナリスト)。

キリンは採算改善急ぐ

そうした状況の中、シェア2位のキリンは採算改善の取り組みを始めた。今年4月には無果汁のチューハイを発売するなど、「今後は果汁を使っていないチューハイを強化する」(社内関係者)。

製造体制の増強にも動く。同社は全国にビール工場が9カ所ある一方で、チューハイが製造できるのは5カ所のみだった。19年5月には50億円を投じ、名古屋工場内にチューハイの製造設備を増設する。手薄の中部地方にも拠点を置き、物流費の削減を狙う。


当記事は「週刊東洋経済」9月29日号 <9月25日発売>からの転載記事です

ただ、「トップシェア以外の立場では、リベートを減らすなどで店頭価格を改善していくような価格主導権はない」(藤原アナリスト)。キリンホールディングスの磯崎功典社長も、8月に行った中間決算会見の席上で「プレーヤーが多く競争も激しいので、(収益面での)改善については中長期的に努力していきたい」と述べるにとどまる。

一見すれば市場拡大で救世主に映るチューハイ。だが、メーカーも“手軽に酔える”ほど市場は甘くない。儲かる体制を整えていくことが急務になっている。