自分の意思に反して手や足が震えてしまう…「本態性振戦」とは

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執筆:藤尾 薫子(保健師・看護師)
医療監修:株式会社とらうべ


医学では「振戦(しんせん)」と専門的に呼ばれますが「ふるえ」のことです。

健康な人でも寒い、怖い、緊張している…などの状況で起こる一般的な生理現象です。

しかし、なかには原因不明の病気としての「ふるえ」もあり、

「本態性振戦(ほんたいせいしんせん)」

と呼ばれます。

日常生活に支障を来たすほど深刻な人もいます。

現在この病気について分かっていることを検証します。

「ふるえ」が起こるさまざまな原因

「ふるえ」といっても原因はさまざまで、本態性振戦以外には次のような場合があります。

生理的振戦:緊張・寒さ・モノをもった時などに起こるふるえ。病気ではありませんので、日常生活に支障がなければ治療も不要です。

アルコール依存症:いわゆる「アル中」の症状です。アルコールが切れるとふるえが出ます。もちろん、治療が必要です。

甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう):バセドウ病とも呼ばれます。甲状腺ホルモンの過剰な働きによる病気で、手先に細かいふるえが出るのが特徴の一つです。

パーキンソン病:脳内のドーパミンの減少によって発症するといわれるパーキンソン病。高齢者に多くみられ、安静時にふるえがでます。

本態性振戦とは

本態性振戦は、「ふるえ」(とくに両手のふるえ)だけを症状とする原因不明の病気です。

「ふるえ」以外に症状はありません。

ちなみに「本態性」という言葉は、原因不明であることを意味しています。

「何かをしようとすると手がふるえる」とか「止めようとすればするほどふるえが強まる」など、仕事や日常生活に支障をきたすこともしばしばあります。

従来、40代中年期から高齢者に多い病気とされていましたが、20代で発症するケースも報告されています。

ですから、遺伝性も取り沙汰されているものの、今のところ解明には至っていません。

本態性振戦の特徴

本態性振戦は運動障害に分類され、通常は手に、ほかにも足・頭部・声などにふるえの症状が現れます。

コップを口まで運ぶといった自分でコントロールできる随意運動のときと、手や腕を前に伸ばすなど重力に反した姿勢を維持するときなどに起こりやすい、周期的なふるえです。

前者を

「動作時振戦」

、後者を

「姿勢振戦」

と呼び、本態性振戦の患者さんのほとんどが両方の振戦を経験しているといわれています。

ふるえが起こるメカニズムについて今のところ分かっているのは、

交感神経が過剰に興奮すると振戦の幅が大きくなること

です。

これには小脳・視床・脳幹など特定エリア間の伝達異常が起こっていることも判明してきました。

本態性振戦の治療について

早期発見と早期治療が鉄則だと言われる「本態性振戦」。

生活に支障がありQOL(生活の質)が低下しているケースでは、神経内科や脳神経外科を受診しましょう。

軽ければ交感神経の興奮を鎮める薬物療法が施されます。

血圧を下げるβ遮断薬や抗てんかん薬が有効とされ、一部は保険適用されています。

しかし、薬で効果が得られない場合は手術療法も適用されます。

頭部に小さな穴をあけて交感神経にかかわる脳の一部を除去したり、放射線ガンマナイフを利用した手術が行われたりしていましたが、2017年からは

「MRガイド下・集束超音波治療」

という新しい外科治療が開発されました。

患者は専用ヘルメットのような医療機器を頭にかぶりMRIに入ります。

MRIでふるえに関連する場所を正確に特定し、ヘルメットに内蔵されている千個近くの端子からビームを照射し、標的組織を熱で破壊します。

ヘルメットには冷却装置もついていて、MRIで温度変化を観察しながらゆっくりと治療は進行するとのこと。

局所麻酔で1時間くらいの手術時間で済み、ビームを15回ほど当てる手術法です。

本態性振戦のセルフチェック

次のような場合、本態性振戦の疑いがあるとされています。受診の参考にしてください。

結婚式などの記帳で手がふるえ、自分の名前が書けない

人前で話をするとき、声がふるえる

宴席で飲み物を注いでもらうとき手がふるえる

コーヒーカップなどを持つと手がふるえてこぼしてしまう

着替えをするとき、ボタンがうまくかけられない

食事のとき、箸や食器を持つ手がふるえる

頭が左右に細かくふるえて、人と会うのが苦痛になる

PCのタイピングがうまくできない


本態性振戦の症状が現れているとき、お酒を飲むとふるえが軽減されることがあります。

しかし、専門家によると、この方法は「絶対に避けるべき」と注意を呼びかけています。

アルコール中毒になる危険性が高いからです。

長寿社会となり、快適に日常生活を送ることの重要性はますます高くなっています。

命に関らないから…と看過しているうちに、QOL(生活の質)が低下しているかもしれません。

気になる「ふるえ」がある人は、早めに医療機関を受診しましょう。


<執筆者プロフィール>
藤尾 薫子(ふじお かおるこ)
保健師・看護師。株式会社 とらうべ 社員。産業保健(働く人の健康管理)のベテラン

<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供