「打球の角度」は松井秀喜を超えた。名コーチも唸る清宮幸太郎の弾道
名コーチ・伊勢孝夫の「ベンチ越しの野球学」連載●第20回
オープン戦も始まり、プロ野球開幕まであと少しと迫ってきた。そんな中、注目を集めているのが北海道日本ハムファイターズのゴールデンルーキー・清宮幸太郎だ。キャンプ前に右手親指を痛め出遅れたが、初スタメンとなった2月28日の台湾プロ野球のラミゴ・モンキーズとの練習試合ではフェンス直撃の二塁打を放つなど、非凡な才能を見せた。名打撃コーチとして数々のスラッガーを育て上げた伊勢孝夫氏の目に”未来のスラッガー”はどのように映ったのだろうか。
(第19回●阪神ロサリオも当確。韓国経由の助っ人が優良なわけを名コーチが説く>>)
高校時代に日本記録となる通算111本塁打を放った日本ハムのルーキー・清宮幸太郎
清宮のバッティングを見たのは2月21日。ちょうど、彼が初めて屋外のフリー打撃をしたときだった。練習後に「楽しかった」とコメントしたようだが、それが彼の現状を物語っていた。
それはどういうことか……。この時期、ほかの選手は疲れのピークに達しており、とても「楽しい」と口にできる状態ではない。だが、清宮がその言葉を言えたのは、体をいじめていない、なによりもの証拠である。
理由は言うまでもなく、キャンプ前に右手親指を痛め、3週間ほどフリー打撃ができなかったためだ。残念ながら、3週間の遅れは開幕に間に合わないと見るのが普通だろう。それにバッティングに関して気になるポイントもある。そうしたことを踏まえると、個人的には急いで上(一軍)で使わなくてもいいのではないかと思っている。
気になるポイントとは、スイングの際の”無駄な動き”だ。清宮は構えたときにゆらゆらとバットを揺らしながらタイミングをとってスイングに入る。それ自体は別にいいのだが、スイングの始動の直前、ほんのわずかだがバットをこねる動作が入ってしまう。おそらくクセなのだろうが、その動きがある分、わずかだが始動が遅くなるのだ。おそらく内角が苦手だと思うのだが、原因はその”無駄な動き”があるためだと感じた。
人によっては「影響はない」と片付ける方もいるかもしれない。それほどわずかな動きだ。それでも、おそらく今のままでは相手は間違いなく内角を攻めてくるだろう。外角のツーシーム系のボールでカウントを稼いで、まとめの球(ウイニングショット)は内角に集まるはずだ。
清宮としては内角攻めを意識するあまり、体が開き気味になってしまい、そうなると外角のやや甘めの球も先っぽでしかとらえられなくなる。ある意味、打者が崩される典型的なパターンにはまっていく可能性がある。杞憂で終わればいいのだが……。
そしてもうひとつ気になったのが、両足の向きだ。清宮のスタンスは、両足が開き気味で、極端にいえば逆八の字のようになっている。右足はともかく、軸足となる左足が開いているのはよくない。これではテイクバックしたときに体重が乗り切らず、窮屈な打ち方になってしまう。軸足はすぐにでも真っすぐ(投手に対して垂直)にした方がいい。
無論、こうしたポイントは栗山英樹監督をはじめ、コーチ陣は把握しているはずだ。わかっていても、今はまだ修正すべき時期ではないと判断しているのだろう。ただ、内角攻めに対しての指導は大事になってくる。
私なら「フェアゾーンに落とそうと考えなくていいよ」と助言する。つまり、ヒットを打とうとせず、ファウルで逃げればいいと教える。清宮のバッティングを見る限り、手首の使い方は柔らかそうなので、内角の球がきたら腕を縮め、腰の回転で払うようにしてスイングすればファウルを打つことはそれほど難しくない気がする。
その技術をひとつ覚えるだけでも、相手バッテリーは攻めあぐねるだろうし、外のボールも使わなくてはならなくなる。そうなれば清宮のペースになる。なにより「ファウルでいいんだぞ」というひと言で、本人の気持ちはずいぶんと楽になるだろう。
新人の打者、しかも清宮のようなスラッガーを育成するには時間がかかる。とはいえ、二軍でじっくり鍛えるというレベルの選手ではないことも確かだ。
おそらく栗山監督は、大谷翔平のときのように清宮も一軍で使いながら育てていくのだろう。その方針に異論はないが、そうなると問題は守備だ。清宮の守備は正直言ってまだプロのレベルにない。ならば一塁は中田翔に任せて、指名打者で使い続けるのかどうか。これについては栗山監督がどんな起用法を考えてくるのか、非常に楽しみだ。
とはいえ、清宮が傑出したホームランアーチストの金の卵だということは間違いない。その証拠に、彼は「ここだけは飛ばせる」というコースを持っている。真ん中からややアウトコース寄りなのだが、このコースにくれば高い確率でモノにできる。ドラフト上位で指名される打者というのはそうした”得意コース”を持っているものだが、それにしても清宮の飛距離はハンパない。
その飛距離を生んでいるのは決してパワーだけではないところにも注目している。実は、私が清宮のバッティングで一番非凡さを感じているのが打球の角度なのだ。振り上げてあの角度をつくっているのではなく、普通にスイングしてあの打球を打てるのだから、才能というしかない。
高卒でプロ入りした左のスラッガーといえば松井秀喜を思い出すが、1年目の彼は清宮のようないい角度で打てていなかった。それだけでも清宮は松井以上の逸材だといっていいだろう。
そんな稀代のホームラン打者をいかにして育てていくのか。彼の努力と自覚はもちろんだが、同時に首脳陣の”育成力”という点でも、注目してみたいと思う。
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