8月に資本業務提携した両社。EVで新たな取り組みを始める(写真:尾形文繁)

ようやくアクセルを踏み込んできた。

トヨタ自動車は9月28日、マツダ、デンソーと共同で電気自動車(EV)の基幹技術の開発を行う新会社を設立したと発表した。EV量産に向けた技術や開発手法を確立したい考えで、日産自動車や欧米勢に対して出遅れていたEVの開発スピードを上げる。

新社名は「EVシー・エー・スピリット」。資本金は1000万円で、トヨタが90%、マツダとデンソーが5%ずつ出資する。本社は名古屋市。トヨタの寺師茂樹副社長が社長に就任。発足時はエンジニアを中心に社員40人を擁し、トヨタが17人、マツダが16人、デンソーが数人を派遣する。

「2年間で成果を出す」

新会社ではEV量産のカギとなる基幹技術や開発手法などを共通化することで、開発期間の短縮化や開発コストの削減などを目指しており、軽自動車から乗用車、SUV(多目的スポーツ車)、小型トラックまで幅広い車種群に活用したい考えだ。そのため、ほかの企業にも広く参加を呼びかけており、トヨタ子会社のダイハツ工業、日野自動車、さらにトヨタと提携関係にあるSUBARUやスズキなども加わる可能性がある。 

トヨタ関係者は「2年間で成果を出して一区切りとしたい」としており、2019年以降にトヨタなど参加各社がそれぞれ新会社の開発リソースを使ったEV量産化に踏み切る見通しだ。

トヨタとマツダは8月、互いに500億円ずつを出資して資本・業務提携し、EV技術の共同開発を行うと発表していた。今回、マツダがトヨタとほぼ同じ数のエンジニアを送り込むのは、トヨタがマツダの開発手法を求めているからにほかならない。

EVは今後普及したとしても、ガソリン車と比べて台数規模はまだ小さい。大量生産・販売を得意とするトヨタの手法が必ずしも通用しない可能性がある。小型車から大型車まで基本設計をいち早く共通化して、効率よく開発しているマツダの手法はトヨタにとって魅力的だ。

デンソーとは昨年12月にトヨタが社長直轄で立ち上げた「EV事業企画室」を通じて、EVの設計・開発で協力している。今回の新会社はこの事業企画室とも連携する。デンソーは電池やモーターの制御などに必要な技術を持ち、ハイブリッド車の基幹技術などを担ってきた実績がある。トヨタは新会社でも早い段階からデンソーの技術を取り込むことで、EVの量産化を確実に進めたい考えだ。

急速に進む「EVシフト」


日産が9月に発表した新型リーフ。航続距離を大幅に伸ばし、需要の取り込みを図る(撮影:大澤誠)

EVをめぐっては世界の開発競争が激しくなっている。各国で環境規制が厳しくなる中、日産自動車が10月に大幅に航続距離を伸ばした量産EV「新型リーフ」を発売する予定のほか、米EVベンチャーのテスラが7月に出荷開始した「モデル3」はすでに受注が50万台になった。

独フォルクスワーゲン(VW)も2025年までに世界販売の25%をEVにする方針を掲げるなど、EVシフトの波が起きている。エンジンに比べて構造が簡単なため、中国でもBYDなど新興企業が勃興。英家電メーカーのダイソンも、9月26日に2020年までにEV市場に参入すると発表した。


豊田章男社長は「EVだけ、EVが、と決めつけない」と語る(撮影:尾形文繁)

こうした状況に、トヨタは”脱自前主義”で挑む。豊田章男社長は「グーグルやテスラなど新しいライバルとの海図なき戦いが始まっている」と指摘。トヨタといえども、すべての市場やセグメントをカバーするには膨大な工数、費用、時間が必要になるため、1社でやることには限界が出てきている。

今回、マツダとは開発資源を等しく負担し、お互いに開発や生産設備の有効活用を図る一方、それぞれが車の味付けなどに注力することで、EVをコモディティ化(汎用品化)することなく、独自のブランド価値を追求していくことを目指す。

EV一辺倒とは一線画す

もっともトヨタは「EVだけ、EVが、と決めつけていくことは考えていない」(豊田社長)とも強調する。「ハイブリッド技術を中心にFCV(燃料電池車)、PHV(プラグインハイブリッド車)、ちょっと遅れたがEV、ガソリン車。お客様にとってワイドチョイスを提供し、市場動向に合わせて現実的な解を探していく」としており、EV一辺倒の風潮とは一線を画す。

100年に1度の変革期にある自動車業界。これまで「プリウス」に代表されるハイブリッド技術でエコカー競争を圧倒してきたトヨタだが、次世代カーではまだ勝利の方程式が見えていない。