2000本安打の偉業の陰で、阿部慎之助はライバルのエースも育てた
巨人・阿部慎之助が8月13日の広島戦(マツダスタジアム)でプロ野球史上49人目となる通算2000本安打を達成した。巨人の生え抜きでは川上哲治、長嶋茂雄、王貞治、柴田勲に次ぐ5人目の偉業だった。
中央大から巨人に入団した阿部は、ルーキーイヤーの2001年3月30日、阪神との開幕戦(東京ドーム)に「8番・捕手」で先発出場を果たし、星野伸之からプロ初打席・初安打・初打点という鮮烈デビューを飾った。その後は、長らく巨人の主軸として、また正捕手としてチームの黄金期を支えた。
8月13日の広島戦で史上49人目となる2000本安打を達成した巨人・阿部慎之助
阿部の2000本安打達成についての取材を考えたとき、真っ先に思い浮かんだのがヤクルトの石川雅規だった。
年齢は阿部が1歳上だが、ともに東都大学リーグ出身(石川は青山学院大)で、2000年のシドニー五輪でもチームメイトとして世界と戦い、プロ入り後はセ・リーグのライバルとしてしのぎを削ってきた。なにより、現役のなかで阿部との対戦がいちばん多い投手が、石川なのである。
早速、石川に話を聞くと、こちらの予想以上に阿部への強い思い入れがあった。
「今まで多くの偉大な先輩がいましたけど、年齢が近くて、ずっと第一線でやられ、対戦が多いのが阿部さんですから、やはり特別な存在です。大学も同じ東都で、僕が2年のときに阿部さんもいる大学日本代表に選ばれ、すごく面倒をみてもらいました。あの強肩と長打力は、当時からずば抜けていましたし、単純に憧れの先輩ですよね。プロに入ってからもすぐに試合に出て、ましてや巨人のクリーンアップをずっと任されている。僕は『阿部さんを抑えたら、プロの世界で生き残れるんじゃないか……』という思いで、なんとか抑えようとやってきました」
―― ふたりの対戦成績は、2005年からの数字を見ると、102打数34安打、打率.333、9本塁打となっています。
「めちゃくちゃ打たれているじゃないですか(笑)。学生のときもよく打たれましたし……。本当に抑えるのに必死というか、何を投げても打たれる印象で、打ち損じ待ちのときも多かったですね。阿部さんを抑えるためにインコースに投げきる練習をしたり、変化球を磨いたりしましたが、打つ技術がすごい。キャッチャーなので”読み”も鋭く、その”駆け引き”は対戦していて面白いというか、勉強になりました。いずれにしても、僕が言うのもおこがましいのですが、数字が示す通りの強打者です」
―― 打たれているとはいえ、年度別で見ると抑えているシーズンも多々あります。
「先程も言いましたが、阿部さんを抑えないとプロの世界でメシを食っていけないと思っていましたので……シーズンはなんとか抑えようと頑張りますし、対戦が長く続くと傾向も出てきます。偉大な選手とアマチュアのときから対戦し、全日本では同じチームとして近くでプレーできた。それにプロ入り後も同じリーグで10年以上も対戦できたことも嬉しいことですよね。阿部さんにはヒットやホームランを献上していますけど、僕自身、そのことで成長できた部分は間違いなくあると思います」
―― 現在の阿部選手の印象と、今後はどんな対戦になると思いますか。
「ここぞという場面での勝負強さ、試合を決める一打、一発はキャリアを重ねるごとに増しています。もちろん、僕も打たれていますし。リアルな話をすれば、僕自身はキャリアの最終コーナーを回っています。阿部さんはわからないですけど……。阿部さんとの対戦は、打たれているからあまり好きじゃないんですけど、気持ちも入るので、特別な思いがあります。でも昨年と、今年もここまでは対戦がないので、やっぱり対戦したいですよね。抑えたら自信になるし……120%の力で抑えにいきたい。そうでないと抑えられないバッターです」
大学時代から数えると、ふたりの対決は20年におよぶ。それでも石川は、いまだ阿部との対戦を楽しみにしているという。野球界には「打者が投手を育てる」という言葉が存在するが、石川にとって阿部は、まさに大エースへと育ててもらった恩人なのであろう。
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