北朝鮮の市場経済化をリードしているのは女性だ。男性は、国から割り当てられた職場に出勤しなければならず自由に商売できないが、女性はそのような縛りから比較的自由であるため、1日中市場で商っていられるからだ。

富を蓄積してトンジュ(金主、新興富裕層)となった女性たちが、タクシー業に進出し、男性ドライバーをあごで使うという今までの北朝鮮では考えられなかった状況も生まれている。その様子について、平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えてきた。

北朝鮮は男性本位の社会であり、女性の多くは様々な人権侵害に泣いてきた。

(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為

しかしそれも、世の変化とともに少しずつ変わっていくのかもしれない。

北朝鮮の流通の中心地、平城(ピョンソン)と順川(スンチョン)ではタクシーの数が増加している。順川では、2〜4人乗りのセダンよりも、5〜8人乗りのワンボックスカーのタクシーが増えている。荷物がより多く積めるからだろう。

タクシーは男性ドライバーと女性車掌の2人1組で営業するが、北朝鮮では車掌の地位がドライバーよりも上だ。それは、車掌が車のオーナーだからだ。車掌は助手席に座り、男性ドライバーの働きぶりを監視しつつ、乗客から料金を受け取る。

彼女らがドライバーとして雇うのは男性の朝鮮労働党員で、彼らを服従させる女性オーナーの姿はまるで党書紀のようだと情報筋は語る。たとえ党員であっても、女性オーナーに気に入られなければ、たちまち解雇されてしまう。社会をリードするエリートだった労働党員が、社会の変化に伴って雇われる立場となったのだ。

タクシーのオーナー兼車掌は、誰にでもできる仕事ではない。タクシーの評判は、どれほど検問にひっかからずにスムーズに走れるかで決まるが、そのためには10号哨所、つまり国家保衛省(秘密警察)の検問所との「コネ」を作っておく必要がある。

あらかじめ挨拶に行って、ワイロを渡しておき、自分たちの車をフリーパスで通過させてもらえるように仕込んでおかなければならない。10号哨所は、市や郡の境界線ごとにあるため、数多くの検問所を買収するには、相当の財力が必要になるのだ。

もし、検問に引っかかって長時間足止めを食らったら、「あそこのタクシーは使えない」と悪評が立ち、商売が立ち行かなくなってしまうのだ。

ドライバーになるのも、決して楽ではない。運転免許を取るには、20歳以上で技能工学校や軍の養成所に1年も通わなければならない。その後も3〜5年、ドライバーの見習いを務めてようやく自分で運転ができるようになる。

そんな面倒なことはしていられないと、ワイロで免許を買う人もいる。また、そうした不正行為がバレて処罰される保安員(警察官)も少なくないという。