FIFAの決定には大きな疑問が残ると語るセルジオ越後氏

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率直に言って反対だ。大丈夫かなという不安しかない。

FIFA(国際サッカー連盟)が2026年大会より、W杯の出場チーム数を現在の32から48へと一気に増やすことを決定した。グループリーグは3チームずつ16組に分かれ、各組上位2チームが決勝トーナメントに進出。1チームの最大試合数、大会日数は現在と変わらないけど、総試合数は64から80と増えることになる。

W杯の出場チーム数が増えるのは、1998年フランス大会で24から32になって以来のこと。FIFAのインファンティノ会長は「サッカーのグローバルな発展のため」と強調しているけど、それは建前であって、本音は「大幅な増収が見込めるから」だろう。メディアや反対派の「拝金主義」という批判は当然だ。

僕が一番心配しているのは、やはり大会の価値、質が下がること。W杯は4年に一度の世界一を決める舞台。その舞台に立つために、長く厳しい予選を勝ち抜かなければならない。だからこそ、予選も本大会も白熱する。日本も「ドーハの悲劇」を経験したから、その後、皆がひとつになって「ジョホールバルの歓喜」を味わえた。

でも、出場チーム数が増えれば予選のスリルは減るし、本大会もレベルの低いチームが増え、大味な試合が増える。例えば、アジアの出場枠は4.5から8.5に増えるといわれている。でも、14年のブラジル大会を思い出してほしい。アジア勢は日本を含めて4チームが出場して、1勝もできなかった。それなのに、アジア枠が倍近く増えるのは無理があるよ。

グループリーグでは大差のつく試合が出てくるはず。大陸間の力の差は、そう簡単に縮まるものではないからね。ひとつ間違えば10−0なんてスコアも起こりうる。僕はW杯の舞台でそんな“ゆるい”試合を見たくない。熱心なサッカーファンだって、「決勝トーナメントから見ればいいや」となるんじゃないかな。

また、巨大な大会規模を考えると、共催が認められるとはいえ、現実的に大会を開催できる国は限られる。欧州の強豪国、アメリカ、中国くらいだろう。これは僕の勝手な推測だけど、22年カタール大会に続く26年大会は「直近2大会の開催地のある大陸以外から立候補国を募る」という原則を覆して、中国で開催する可能性も十分にあると思う。FIFAにすれば、サッカーバブルに沸く中国マネーを狙わない手はないからね。

サッカーの発展、W杯の価値の向上というなら、出場チームを増やす以外にもっと手をつけるべきことがあるはず。個人的には、開催時期を初秋にズラしてほしい。現行の6、7月開催は、世界のサッカーの中心である欧州のシーズンが終わった直後。しかも気候的に暑すぎる場合が大半。トップ選手は疲弊していて、コンディション的にもモチベーション的にもベストのパフォーマンスを見せるのは難しい。だったら、いったんリフレッシュしてから、最高のプレーを見せてもらったほうが面白い試合を見られると思う。

Jリーグ(J1)のチーム数(当初10、現在18)を見ればわかりやすいけど、いろいろ問題が出てきても一度増やしたものを減らすのはなかなか難しい。W杯も出場チームを大幅に増やすことで目先の利益は増えるにしても、長い目で見てどうなのか。今回の決定には大きな疑問が残るね。

(構成/渡辺達也)