なぜ「生産性」は上がらないのか? 組織と個人に求められる考え方
『生産性』(伊賀泰代著、ダイヤモンド社刊)。『採用基準』に続く本書も、きわめてシンプルなタイトルだが、この「生産性」を上げることに苦心している企業や組織は多い。
事実、日本の労働生産性は先進7ヶ国(G7)の中で最下位という報道があった。日本において生産性を向上させることは急務といえる。
しかし、「生産性を上げる」という話になったときに、往々にして議論は「コスト削減」に行きがちだ。
■そもそも「生産性」とは一体何か?
日本において、「生産性」という言葉が使われる場所は製造現場が多かった。しかし、欧米諸外国では、「生産性」がホワイトカラーやサービス業においても重要視されており、日本はその部分でもかなり遅れをとっているのだという。
では、そもそも「生産性を上げる」とは一体どういうことを言うのか?
何をすれば「生産性が上がった」と言えるのだろうか?
伊賀氏は「生産性」について、次のように説明をする。
生産性は「成果物」と、その成果物を獲得するために「投入された資源量」の比率として計算されます。「アウトプット」÷「インプット」といってもよいでしょう。
(『生産性』p30より引用)
例えば10人の社員で10億円の利益を上げれば、一人あたりの利益は1億円となる。一方同じ利益ながら社員が5人ならば、一人あたり2億円。労働生産性は単純に2倍だ。
■「生産性」を上げるための4つの改善方法
肝心なのは生産性の上げ方だが、伊賀氏は、その方法は投資資源の「削減」だけではないと述べる。
もう一つのやり方が「成果額」を上げるというものだ。商品やサービスの付加価値、価格を上げるのは典型的な例だが、それだけではない。商品開発やサービス設計、プライシング、顧客コミュニケーションという非製造プロセスにおける努力や工夫が必要になる。
そして、「成果額を上げる」「投入資源量を減らす」という2つの方法を達成するための手段として、「改善」と「革新」という2つのアプローチを用意する。つまり、全部で4種類の改善方法があるのだ。
簡単にまとめると次のようなものになる。
〇改善による投入資源の削減
無駄な作業の省略や作業手順の変更。グループウエアによる効率化やITの活用がこれにあたる。
〇革新による投入資源の削減
大きなインパクトをもたらす削減。例えば、アメリカのクレジットカードや消費者ローンを提供する企業は、インドに特別な語学学校をつくり、インド訛りのない英語を話すインド人を育成し、コールセンターをまるごとインドに移管した。
〇改善による付加価値額の増加
商品の付加価値をつける活動のこと。商品のブランディングや人気タレントを使ったプロモーションもこれにあたる。
〇革新による付加価値額の増加
新しい技術や素材にもたらされる革新が分かりやすいが、革新的なビジネスモデルの開発もこれにあたる。
日本企業の場合、前述の通り「コスト削減」、つまり「改善による投入資源の削減」ばかりに目がいってしまいがちだが実際には方法は多様だ。また、製造部門以外の部門の生産性向上も大事になる。
伊賀氏はこの生産性の問題について次のように述べている。
非製造部門を含めた組織全体の生産性の向上は、企業(ひいては産業全体や国全体)が生み出せる付加価値の大きさを規定し、それぞれの競争力の影響を与える重要な経営課題のひとつです。
(『生産性』p45より引用)
経営層が生産性向上を課題として取り組むことができなければ、その企業は時代遅れになってしまうということなのだろう。
■個人の生産性を上げるために
また、本書は組織としての話だけではなく、個々人の生産性向上の考え方についても触れられている。
例えば労働量については、「長く時間をかければ良い仕事ができる」「できるまで頑張る」「とにかく最後までやって頑張る」という信仰があるが、実際はそういうわけでもない。
ただ、この考え方は精神的な高揚感を伴うために慣れてしまうことがあり、「よい仕事はできたが、たいして儲かっていない」「よい仕事はできたが、組織も疲弊してしまった」ということがよく起こりがちになると伊賀氏は指摘する。
どのようにすれば個人が短い時間で高い成果を出せるようになるのか。組織づくりには、そうした観点も必要なのだ。
伊賀氏は、『成長とは「生産性が上がる」こと』と述べる。
組織の成長、自分自身の成長。新しい年に向かう前に見直しておきたいことが書かれている一冊である。
(新刊JP編集部)
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日本において、「生産性」という言葉が使われる場所は製造現場が多かった。しかし、欧米諸外国では、「生産性」がホワイトカラーやサービス業においても重要視されており、日本はその部分でもかなり遅れをとっているのだという。
では、そもそも「生産性を上げる」とは一体どういうことを言うのか?
何をすれば「生産性が上がった」と言えるのだろうか?
伊賀氏は「生産性」について、次のように説明をする。
生産性は「成果物」と、その成果物を獲得するために「投入された資源量」の比率として計算されます。「アウトプット」÷「インプット」といってもよいでしょう。
(『生産性』p30より引用)
例えば10人の社員で10億円の利益を上げれば、一人あたりの利益は1億円となる。一方同じ利益ながら社員が5人ならば、一人あたり2億円。労働生産性は単純に2倍だ。
■「生産性」を上げるための4つの改善方法
肝心なのは生産性の上げ方だが、伊賀氏は、その方法は投資資源の「削減」だけではないと述べる。
もう一つのやり方が「成果額」を上げるというものだ。商品やサービスの付加価値、価格を上げるのは典型的な例だが、それだけではない。商品開発やサービス設計、プライシング、顧客コミュニケーションという非製造プロセスにおける努力や工夫が必要になる。
そして、「成果額を上げる」「投入資源量を減らす」という2つの方法を達成するための手段として、「改善」と「革新」という2つのアプローチを用意する。つまり、全部で4種類の改善方法があるのだ。
簡単にまとめると次のようなものになる。
〇改善による投入資源の削減
無駄な作業の省略や作業手順の変更。グループウエアによる効率化やITの活用がこれにあたる。
〇革新による投入資源の削減
大きなインパクトをもたらす削減。例えば、アメリカのクレジットカードや消費者ローンを提供する企業は、インドに特別な語学学校をつくり、インド訛りのない英語を話すインド人を育成し、コールセンターをまるごとインドに移管した。
〇改善による付加価値額の増加
商品の付加価値をつける活動のこと。商品のブランディングや人気タレントを使ったプロモーションもこれにあたる。
〇革新による付加価値額の増加
新しい技術や素材にもたらされる革新が分かりやすいが、革新的なビジネスモデルの開発もこれにあたる。
日本企業の場合、前述の通り「コスト削減」、つまり「改善による投入資源の削減」ばかりに目がいってしまいがちだが実際には方法は多様だ。また、製造部門以外の部門の生産性向上も大事になる。
伊賀氏はこの生産性の問題について次のように述べている。
非製造部門を含めた組織全体の生産性の向上は、企業(ひいては産業全体や国全体)が生み出せる付加価値の大きさを規定し、それぞれの競争力の影響を与える重要な経営課題のひとつです。
(『生産性』p45より引用)
経営層が生産性向上を課題として取り組むことができなければ、その企業は時代遅れになってしまうということなのだろう。
■個人の生産性を上げるために
また、本書は組織としての話だけではなく、個々人の生産性向上の考え方についても触れられている。
例えば労働量については、「長く時間をかければ良い仕事ができる」「できるまで頑張る」「とにかく最後までやって頑張る」という信仰があるが、実際はそういうわけでもない。
ただ、この考え方は精神的な高揚感を伴うために慣れてしまうことがあり、「よい仕事はできたが、たいして儲かっていない」「よい仕事はできたが、組織も疲弊してしまった」ということがよく起こりがちになると伊賀氏は指摘する。
どのようにすれば個人が短い時間で高い成果を出せるようになるのか。組織づくりには、そうした観点も必要なのだ。
伊賀氏は、『成長とは「生産性が上がる」こと』と述べる。
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