「ジョジョの奇妙な冒険」「だが断る」の正しい使い方

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乗り物に乗るとヒドい目に遭うジョジョワールド


ジョジョ主人公達の乗り物運の悪さはすごい。そもそもジョースター卿の馬車が崖から落ちなかったら悪党ダリオ・ブランドーに目をつけられることもなく、その息子ディオが家にもやって来ず、第一部も始まらなかったのだから。


吸血鬼と化したディオが巣食う街に急ぐ馬車も切り裂きジャックに襲われて、馬は首チョンパ。そしてディオとの決着が付いたと思った後のハネムーン、豪華客船には宿敵の生首が先回りしていた。エリナが脱出に使った棺も「乗り物」に数えておこう。

第二部では、悪党にエリナ婆ちゃんにもらった服を血で汚された幼き日のジョセフがキレて、パイロットを失神させて自家用機を墜落。カーズとの最終決戦でも飛行機を落とされていて、二連チャンだ。

そんなジョセフと旅をともにした第三部の一行だから、旅客機のパイロットをスタンドに殺されたり、悪夢(スタンド攻撃)にうなされた花京院のがきっかけで墜落したのも序の口だ。船を爆破されて漂流したあとに貨物船に捕まり、車で砂漠を横断しようとすれば怪物カーに襲われ、陸路を避けて潜水艦に乗ったら大破。最後にはロードローラーに押し潰されそうになった承太郎は、乗り物がトラウマになってもおかしくない。

ご町内バトルの第四部は移動こそ少なめだが、今回は露伴先生がバスに乗ったら……という受難の話だ。幼き日の仗助も高熱を出して乗った車が大雪で立ち往生した。が、学ランを犠牲にして救ってくれたリーゼントの学生が人生観(と髪型)に深く影響したのだから、まんざら悪いことばかりじゃなさそうだ。

満面の笑顔でいきなり小指を詰めるジャンプ漫画家


「一二三(ひふみ)!!!「倍付け」で2倍払い!!!」

前回の続きで、チンチロリンのサイコロを振る露伴先生。サイコロはミキタカが化けた姿で、仗助が仕込んだイカサマだ。人を騙すことは「空気を読む」のが命だが「宇宙人」を名乗るミキタカに期待できるわけがない。

イカサマに勘づいて、サイコロを虫メガネで調べる露伴先生。気のせいかサイコロに見つめられてる気がしてならない……これは後のちょっとした伏線だ。「ちょっと噛んでみるか」など、削られた仗助と露伴先生のやり取りもねちっこくて面白いので、アニメから入った人達はぜひ原作も読んでもらいたい。

理想はなんとなく勝ち、最後にほんのちょっぴりだけ勝てばいい。しかしミキタカのサイコロは仗助に6のゾロ目を出してボロ勝ち。こいつ分かってねぇー!と仗助と一緒に胃がキリキリ痛くなる。

「二度あることは三度あるか。フフフアハハ」

満面の笑顔、そして突然ナイフで小指を詰める!この瞬間にCMに突入し、「この世で最も不穏な笑顔」を提供絵(スポンサー表記の背景にする絵)が画面に張り付くのだった

「おめえ頭おかしいぞ」という仗助には同意するが、いつもの露伴先生の通常運転だ。あと一回ずつ勝負して、イカサマを見破れなければ200万円でクレイジーダイヤモンドに指の治療を頼んでやる……やっぱり頭おかしい!

その代わり、仗助は自分の小指を賭けさせられる。クレイジーダイヤモンドは本体の怪我は治せないから、これはキツイ。そんな“賭け金”の取り立てにやってきた男は、小林玉美だった。

サーフィス=間田敏和の情報を仗助達に提供し、トバッチリで頭を殴られて草むらに放置されていたすごい気の毒な男。そのスタンド「ザ・ロック」は罪悪感を覚えた相手の胸に錠前をかけて約束を果たさせる能力で「取り立て屋」はまさに天職だ。

仗助がフツーにサイコロを振るという逃げ道も、「イカサマをしないで勝った場合、玉美の錠前が自動的に襲う」というルールにより封じられた。そして露伴先生が振ったのは3、3、4。やっと「自然で普通の目」を出したサイコロ=ミキタカだったが、回されすぎてゲロを出した上に、追い打ちに消防車のサイレンの音!

サイレンの鳴り響く中で(音をかき消すように)気合の雄叫びをあげた仗助、最後の一投だ。6のゾロ目でオーメン、錠前は動かずイカサマ確定。露伴先生から死角でゲロを出すサイコロ……が、全ては「消防車がサイレン鳴らして飛んできた原因」が分かってウヤムヤにされる。露伴先生!あんたん家が燃えてんだよ! さっきの虫眼鏡はここに繋がるわけだ。

「たかが家が焼けてるぐらいどうでもいい!それより仗助のイカサマを見抜く方が大切だ!」

たかが家、さすがジャンプ連載作家! 結果は岸辺露伴の家ーー半焼約700万円の損害(小指はクレイジー・ダイヤモンドがタダで治療)、仗助ーー別に損はしてないが露伴からの恨みをますます根深いものにした。ただ二人の関係が最悪にこじれただけ!

両親を盗撮する小学生・川尻早人


「昨日二ツ杜トンネルの入口にバイクが衝突して運転していた少年が重傷を負いましたがその後の警察の調査で…」

川尻家に流れる杜王町レディオは、ほぼ吉良吉影(現・川尻浩作)のテーマ曲と言っていい。「最近ママが変だ。おしゃれして新しい口紅、ご機嫌。何かあったのか?」と家庭の異変に気づく一人息子の小学生・川尻早人。吉良の部屋に仕込まれていた隠しカメラの持ち主だ。「ママがパパの前で裸になるなんて久しぶりだな」とうそぶく盗撮歴のベテランぶりで、その後あんなに化けるとは……間違いなく終盤の最重要キャラにつき、注目していきたいところだ。

最高の名言「だが断る」の正しい使い方


独立したエピソードだった「ぼくは宇宙人」(チンチロリン)と「ハイウェイ・スター」を繋げている今回のお話。原作では6週かけたチンチロリンが端折られて駆け足気味だったが、このニコイチはそれを補って余りある再構成だ。「仗助と露伴先生の関係性」を描く上で、2つは切り離せないからだ。

「未起隆!未起隆!ちゃんと私の後ついてきなさい!」
「わかったよ。母さん」

少しずつ積み上げたミキタカ=宇宙人説が、ガラガラと崩れる親子のやり取り。東京の前の学校では本気にしちゃった方が大騒ぎしたという母、僕が洗脳して息子だと思い込ませてるというミキタカ、どちらが正しいかは20数年後の今も分かっていない力「藪の中」だ。

なんだったんだあの若造は!と「宇宙人」に呆れる幽霊こと写真のおやじというのもシュールすぎる。しかぁーし!次こそ!次のスタンド「ハイウェイ・スター」こそっ!息子を追うものを倒すっ!とテンションもうなぎのぼりで、ますます千葉繁さんの本領が発揮されつつある。

「なに顔そらしてんだよ。あいさつぐらいしろよな。少なくとも僕は君より年上なんだぜ東方仗助」

まさに火事の翌日、バスの中で仗助と鉢合わせした露伴先生。「映画『プリティ・ウーマン』の中にも出てきたのと同じ250万円の家具も焼けちまったよ。ちぃ~~とも気にしてないがな」と思いっ切り気にしている様子だ。

サイコロゲームの仕返しを誓いながら、トンネルの壁の中にある「部屋」とその中での惨劇に気づいてしまった露伴先生。新たなスタンド使いの仕業? 女の手を切断していた男はまさか吉良吉影? 

そう目撃したと言われても、しこりが残る仗助には絡まれてるとしか思えない。嘘つき呼ばわりされた露伴先生は「サイコロでイカサマするようなウソつきに…いつも言うこととやることが違うおまえのようなウソつきが」とド正論を言って、よけい感情をこじらせて二人は決裂してしまう。

一人でトンネルに戻ってきた露伴先生、バイクに乗ってノーヘルも原作のまま。「高校生が現金を賭けてギャンブル」も地上波に流したわけで、アニメ版スタッフは「原作どおり」と心の中で思ったならっ!その時すでに作画は終わっているんだッ!という信念を貫き通してる。

全長450mのトンネルをくまなく調べてみたものの、ドアや窓はおろか壁もない。やはり幻覚だったのかと手を着いた壁が開き、中から部屋が現れた。しかし、さっき見た男女はいない。いないが、この部屋には何かいる……。

姿は見えないが何か向かってくる。人間では無い何かが! スタンドだから「人間ではない」は毎度のことだが、映像化したからこそ「正体の見えない恐怖」がいっそう際立つ。第四部アニメはホラー演出のノウハウが詰まった宝箱だ。

うっすら見えてきたスタンドの姿は「足跡」だった。時速は60km、バイクのスピードをそれ以下に落とすと追いつかれる。ちょうどキアヌ・リーブス主演の映画『スピード』が大ヒットした頃(公開は1994年、第四部の連載は1992年?1995年)だったと懐かしくなる。

ちょっと減速しただけで捕まってしまい、「お前の養分を俺にくれ~」と迫るハイウェイ・スターの声優は谷山紀章さん、愛称はきーやん。『進撃の巨人』のジャン・キルシュタイン役が有名で、『うたのプリンスさまっ♪』など色気ある演技も上手く、来週出てくる「本体」にはピッタリの人選だろう。

「スタンドの名はハイウェイ・スター。あの部屋は罠。好奇心であの部屋に入った者を匂いを嗅いだ猟犬のようにどこまでも追跡しそいつの養分を吸い取る』

敵を本に変えて情報を引き出すヘブンズ・ドアーは実に有能だ。しかしパワーをどんどん吸い取られて命令を書き込むことができず、力尽きて囚われる。そこに戻ってきた仗助! 二度と会いたくねぇと言ったばかりだけど、言うこととやることが違うウソつきだからだと。ひねくれてても嫌いでも、仲間を見捨てない情の厚さがジョースター家の血統である。

ここからがジョジョ史上指折りの名言タイムであり、前後の文脈を含めてセットなので、一言も余さず収録しておこう。

「早く言えよ。怪しんで近づいて来ねぇじゃねぇかよ。お前ら別に愛し合ってる仲じゃあねぇんだろ?」
「あ…あいつを引きこめば…あいつを差し出せばほ…ほんとに僕の命…は…助けてくれるのか…?」
「だが断る」
「ナニッ!?」
「この岸辺露伴が最も好きな事の一つは自分で強いと思ってる奴にNOと断ってやることだ」

だが断る!最高にかっこいい名言だが、ただ断ることじゃあない。相手の立場が圧倒的に強くて、自分にとって有益で美味しい話をあえて突っぱねる、という意味での「だが」なのだ。大したことのない提案に対して「だが断る」を安売りしちゃダメだ。

さらには「逃げろと言われたのに、自信満々で近づく仗助」に至る熱い場面を、精緻かつ迫力たっぷりに描いた作画の気合が凄まじい。露伴先生、残りの力を振り絞り、「時速70kmで後ろに吹っ飛ぶ」という命令を仗助に書き込み。ハイウェイ・スターに食い込まれた仗助だったが、ピンチをいったん脱出!

チンチロリンでこじれにこじれた二人の話を「ハイウェイ・スター」に直結させたから、露伴先生が大嫌いな仗助を命がけで助けた男気にグッと来る。次回、時速60kmオーバーで敵本体を探す戦いが始まる!
(多根清史)