斎藤工「運命に、似た恋」episode3 不倫じゃないのよ
ドラマ10「運命に、似た恋」(NHK 総合 金 よる10時〜)episode3「恋に落ちる」
脚本:北川悦吏子 演出:石塚嘉 出演:原田知世 斎藤工 山口紗弥加ほか
いま、世間では魔女狩りならぬ不倫狩りが横行し、秘密の不倫カップルが次々暴かれている。
そんな中、不倫ドラマで売ってもおかしくなかった「運命に、似た恋」が、不倫もののようでそうでないところを攻めているのがすてきだ。
主演の原田知世は、以前、このドラマ10枠で、不倫と横領をしてしまう主婦の物語「紙の月」(13年)をやっているので、今回はまたちょっと違う人物像を、ということだったのかもしれない。彼女が演じる香澄(原田知世)は高校生の息子をもつバツイチ。
恋の相手・若手カリスマデザイナー・ユーリ(斎藤工)は人妻(山口紗弥加)と関係してはいるものの、慣習化された業界のドロドロに片足突っ込んでいたところを、45歳で子持ちだけど心のピュアなお姫様・香澄に救われて少年の心を取り戻す。そんなおとぎ話のようなドラマなのだ。
北川悦吏子先生、わかってらっしゃる〜と思うのは、斎藤工をおとぼけくんに描いていること。ちゃらい男にはしないで、誰かとご飯食べているところを見られたことのない仕事一筋の変人くんが、香澄の前では子供のようになってしまう。
例えば、ユーリのつくったインスタレーションの中でキスしちゃったふたり。その後の会話はこう。
香澄「おつかれさまでした」
ユーリ「え」
香澄「いや、ほら、なんかいろいろ」
ユーリ「おつかれさまでしたの、キスですか」
香澄「そんなキスあるんですか」
ユーリ「いや、そんなのないと思うんですけど・・・」
香澄の天然ボケに戸惑うユーリ。そこへ「おつかれさまです!」と入ってくるアシスタントの海知(渋谷謙人)という流れに。
「おつかれさま」って言われてしまったからか、のちにユーリは作業を手伝ってくれた手間賃を香澄に払おうとして、機嫌を損ねてしまう。スタッフが聞いている前で、彼女のパンツの膝の穴について語り恥ずかしい目に合わせたかと思うと、「お礼のかわりに食事行きませんか? 行かない? 行かないですよね、いまの流れじゃ・・・」と一人相撲の挙句、ラグビーのユニフォームについて熱く語りだしてしまう。
こういうとぼけた斎藤工はすてきだ。壁ドン路線から映画「虎影」(15年)のおとぼけ忍者路線や、「団地」のおとぼけ宇宙人路線まで網羅する北川悦吏子の探究心を讃えたい。
3話では、お姫様の知世ちゃんにまでおもしろシーンが。
真帆(山口紗弥加)の家で香澄が意地悪される場面になると、原田知世の頭のむこうの大画面テレビにサメが映る。ちょうど頭にかぶりつきそうなアングルで。まるで真帆が香澄に食らいついているみたいだった。
こうなると、ところどころ登場人物がポエムふうなモノローグを語るところもギャグなのかと勘ぐりたくなるが、絶対違うはず。
夢でもギャグでも「運命に、似た恋」には隙がない。
真帆が「あたしっていたいけ、あたしってかわいそう、あたしってがんばってるって言われてる気がするんですけど」と言いがかりをつけた、香澄が仕事の一貫で跪くポーズ。
要するに下級労働者のポーズだが、1話でユーリが香澄に椅子に座ってとすすめたとき、跪いているのだ。夢の立場逆転をしてくれていたのだ、ユーリは。
このように基本は、貧乏な娘がお姫様に変身する童話の構造。3話はそこに、香澄の息子つぐみ(西山潤)とストーカーのカメ子(すごい名前!!/久保田紗友)の関係と、ユーリの師匠・深見(奥田瑛二)の芸術家としての苦悩まで絡んでくる。
つぐみのほうはちょっと(かなり)エキセントリックなザッツ青春の恋で、深見のほうは老いらくの恋というか芸術と恋愛の複雑な関係。結局、どれも恋愛問題。しかも、全員痛々しいまでに恋愛下手ときた。
真帆なんてほんと痛々しいキャラで、ユーリの心が自分にないから、ユーリも香澄も傷つけるしかない。
「ほんとのあなた(ユーリ)のこと知ったらあなたのこと愛してくれるオンナなんて誰もいないんだから」と謎の台詞も残す。
「悲しい。
着飾る者は悲しい。
着飾る人ほど心は悲しいのだ」と思う香澄。
洋服で着飾ったり、言葉で着飾ったり、とにかくみんな自分の、傷つきやすいやわな心を必死で守っている。
弱いお互いを守り合える、運命の相手に出会ったら幸せ。少年少女の頃の、香澄とアムロと名乗る少年のように。
香澄がちょっと運命に期待して、また失望して、ユーミン歌いながら夜の街をさまよっていると、ユーリが探しに来てくれて。
思わず彼の両手を握って自分のほうに引き寄せると、そのまま体重を香澄にかけてくるユーリ。
香澄「どうして私なの?」
ユーリ「あなたは僕のお姫様なんで。運命のひとなんで」
香澄「へんなひと」
ユーリ「なんとでも」
そのまま抱き合うふたり。
うわあ、くすぐったい! でも、こういう汚れないキラッキラしたドラマもたまには必要だと思います。
不倫上等! と泥の中で美しく咲こうとするヒロインもかっこいいけれど、人にそしられる要素が一切なく、決して汚れない女の子もこころにひとり生かしておきたい気もするのです。
(木俣冬)
脚本:北川悦吏子 演出:石塚嘉 出演:原田知世 斎藤工 山口紗弥加ほか
いま、世間では魔女狩りならぬ不倫狩りが横行し、秘密の不倫カップルが次々暴かれている。
そんな中、不倫ドラマで売ってもおかしくなかった「運命に、似た恋」が、不倫もののようでそうでないところを攻めているのがすてきだ。
主演の原田知世は、以前、このドラマ10枠で、不倫と横領をしてしまう主婦の物語「紙の月」(13年)をやっているので、今回はまたちょっと違う人物像を、ということだったのかもしれない。彼女が演じる香澄(原田知世)は高校生の息子をもつバツイチ。
恋の相手・若手カリスマデザイナー・ユーリ(斎藤工)は人妻(山口紗弥加)と関係してはいるものの、慣習化された業界のドロドロに片足突っ込んでいたところを、45歳で子持ちだけど心のピュアなお姫様・香澄に救われて少年の心を取り戻す。そんなおとぎ話のようなドラマなのだ。
例えば、ユーリのつくったインスタレーションの中でキスしちゃったふたり。その後の会話はこう。
香澄「おつかれさまでした」
ユーリ「え」
香澄「いや、ほら、なんかいろいろ」
ユーリ「おつかれさまでしたの、キスですか」
香澄「そんなキスあるんですか」
ユーリ「いや、そんなのないと思うんですけど・・・」
香澄の天然ボケに戸惑うユーリ。そこへ「おつかれさまです!」と入ってくるアシスタントの海知(渋谷謙人)という流れに。
「おつかれさま」って言われてしまったからか、のちにユーリは作業を手伝ってくれた手間賃を香澄に払おうとして、機嫌を損ねてしまう。スタッフが聞いている前で、彼女のパンツの膝の穴について語り恥ずかしい目に合わせたかと思うと、「お礼のかわりに食事行きませんか? 行かない? 行かないですよね、いまの流れじゃ・・・」と一人相撲の挙句、ラグビーのユニフォームについて熱く語りだしてしまう。
こういうとぼけた斎藤工はすてきだ。壁ドン路線から映画「虎影」(15年)のおとぼけ忍者路線や、「団地」のおとぼけ宇宙人路線まで網羅する北川悦吏子の探究心を讃えたい。
3話では、お姫様の知世ちゃんにまでおもしろシーンが。
真帆(山口紗弥加)の家で香澄が意地悪される場面になると、原田知世の頭のむこうの大画面テレビにサメが映る。ちょうど頭にかぶりつきそうなアングルで。まるで真帆が香澄に食らいついているみたいだった。
こうなると、ところどころ登場人物がポエムふうなモノローグを語るところもギャグなのかと勘ぐりたくなるが、絶対違うはず。
夢でもギャグでも「運命に、似た恋」には隙がない。
真帆が「あたしっていたいけ、あたしってかわいそう、あたしってがんばってるって言われてる気がするんですけど」と言いがかりをつけた、香澄が仕事の一貫で跪くポーズ。
要するに下級労働者のポーズだが、1話でユーリが香澄に椅子に座ってとすすめたとき、跪いているのだ。夢の立場逆転をしてくれていたのだ、ユーリは。
このように基本は、貧乏な娘がお姫様に変身する童話の構造。3話はそこに、香澄の息子つぐみ(西山潤)とストーカーのカメ子(すごい名前!!/久保田紗友)の関係と、ユーリの師匠・深見(奥田瑛二)の芸術家としての苦悩まで絡んでくる。
つぐみのほうはちょっと(かなり)エキセントリックなザッツ青春の恋で、深見のほうは老いらくの恋というか芸術と恋愛の複雑な関係。結局、どれも恋愛問題。しかも、全員痛々しいまでに恋愛下手ときた。
真帆なんてほんと痛々しいキャラで、ユーリの心が自分にないから、ユーリも香澄も傷つけるしかない。
「ほんとのあなた(ユーリ)のこと知ったらあなたのこと愛してくれるオンナなんて誰もいないんだから」と謎の台詞も残す。
「悲しい。
着飾る者は悲しい。
着飾る人ほど心は悲しいのだ」と思う香澄。
洋服で着飾ったり、言葉で着飾ったり、とにかくみんな自分の、傷つきやすいやわな心を必死で守っている。
弱いお互いを守り合える、運命の相手に出会ったら幸せ。少年少女の頃の、香澄とアムロと名乗る少年のように。
香澄がちょっと運命に期待して、また失望して、ユーミン歌いながら夜の街をさまよっていると、ユーリが探しに来てくれて。
思わず彼の両手を握って自分のほうに引き寄せると、そのまま体重を香澄にかけてくるユーリ。
香澄「どうして私なの?」
ユーリ「あなたは僕のお姫様なんで。運命のひとなんで」
香澄「へんなひと」
ユーリ「なんとでも」
そのまま抱き合うふたり。
うわあ、くすぐったい! でも、こういう汚れないキラッキラしたドラマもたまには必要だと思います。
不倫上等! と泥の中で美しく咲こうとするヒロインもかっこいいけれど、人にそしられる要素が一切なく、決して汚れない女の子もこころにひとり生かしておきたい気もするのです。
(木俣冬)