女たちを繋ぐ真田紐「真田丸」39話はこんな感じ
NHK 大河ドラマ「真田丸」(作:三谷幸喜/毎週日曜 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時)
10月2日放送 第39回「歳月」 演出:保坂慶太
10月9日は、真田信繁が九度山から大坂城に向かった日。
10月2日放送の「真田丸」39回のラストシーンは、九度山ですっかり家族団らんしている信繁(堺雅人)の元に、オフロスキーじゃなかった明石全登(小林顕作)が「お迎えにあがりました」と暗闇から現れるドラマティックなところから最終章! の予告編に滑り込んで、ワクワク度を急上昇させた。
最後に、おお! いよいよ! と思わせるために、39回は信繁がやたらとうなだれているところや、大坂の陣へ向かうための布石などをたくさんの笑いを交えながら積み上げていた。
信之「全部こんな感じか」
信繁「全部こんな感じです」
流刑されて10年、真田家の大黒柱・昌幸(草刈正雄)が死に、一応、真田家と縁を切ったことになっている信之(大泉洋)が月代を剃った姿で九度山にやって来て、父の残した兵法を見ての台詞がコレ↑
こんな感じとは、文字ではなく◯や△などの記号だらけだったこと。お父さん、亡くなっても楽しませてくれた。
九度山での生活を心配する信之に対して信繁(堺雅人)たちはここでののんびりした生活に慣れてしまった様子(じつはそうでもなく困窮していることが後にわかるのだが)。
「お互い収まるところに収まったということでよろしいのではないでしょうか」なんて言うきり(長澤まさみ)。彼女の妙に暢気な言い回しが可笑しい。このところ口調がゆっくりめになってきているのはおばさんになってる表現か、それとも「菩薩」気分の表れか?
そう、あんまり変わってないように見えるが、1話で15歳だった信繁ももう40代だ。人間50年の時代だと考えると人生の後半戦である。三人の子持ちにもなった。
「子育てはひとそれぞれ。自分にあったやり方をみつけるしかないのかもしれんなあ」と信之と子育て話も。
この時、子育てが得手でないと言っていた信繁が、後に息子・大助(浦上晟周)と囲碁をやることによって子育てを行うところが39回のみどころのひとつ。
昌幸得意の囲碁を戦に見立てる考え方(◯や△で兵法を残しているのもそこから来たものだろうと思わせる)を大助が譲り受け、でも、なかなか上達できず悩む息子を励ますために、信繁が息子に囲碁を習う。「(息子の説明が)わかりやすい」と褒めてのばす信繁の子育て方法はなかなかすばらしい。
父子のコミュニケーションが図られているとき、床に敷かれた昌幸を思わせる獣の皮越しに信繁と大助の手合わせする姿を映すことで、昌幸も息づいていることを感じさせた。信繁自身が父の着ていたワイルドな毛皮をはおることで継承を体現している。
サブタイトルの「歳月」は、従者たちの変化からも感じられる。
信繁、信之の子育てトークのとき、口が過ぎると三十郎(迫田孝也)が注意を受けることと、佐助(藤井隆)がきり(長澤まさみ)相手に、信之のことを、「ここだけの話、あそこの兄貴 まじめなだけでくそ面白くないじゃないですか」「あのくそ面白くもねえ兄貴が・・・」と「くそ面白くない」を連発する場面が印象的だ。
秀次の娘で名目上の信繁の側室・たか(岸井ゆき)もルソンから戻って来たら、妙に積極的になっていて「長年向こうにいたのでわたしなりにいろいろなことがあったわけですよ」と言うくらいだ。
歳月はひとを変える。とはいえ、あの口の悪いきりすら唖然とした顔をさせた佐助の変貌はどうしたことか。もはや戦国時代ではない、徳川の天下となって世は安泰(このへんを、江戸にいる薫(高畑淳子)とまつ(木村佳乃)、稲(吉田羊)たちの会話で説明)、主従関係にも変化が起きてきたということか。いや、戦に生きる素破の佐助は、戦がなくてくすぶっている。することないから絵ばかり描くしかないのだろう。その溜めがやがてくる大坂の陣で爆発するはず。
「おれ、あの人が本気出すならやりますよ どこまでもついていきますよ」とも言っているし。
もっとも忠実で真面目に見える部下キャラが、ひとかわ剥けばただのチャラい奴で上司や知らない人の前では寡黙というのは現実にもよくあること。こういう人たちってあり余るエネルギーを戦で発散しているだけだったりする。
ところで、佐助が絵を描いているのは、のちに絵草子などで真田伝説が語られる布石だろうか。
関係ないが、大助に囲碁を教える内記役の中原丈雄の白髪の坊主頭が渋くて素敵。彼は漫画家でありパフォーマーである水森亜土の劇団未来劇場の出身で、絵も相当の腕前だとか。一芸に秀でた人ってそれがなんだか顔に出ると思う。
39回には、信繁たちの九度山の生活を支えたと言われる真田紐が登場した。
夕暮れ、外で、きりとはる(松岡茉優)が足でひっかけながら編んでいる場面は、当時の生活者の日常描写としてとても優れていたと思う。長澤まさみと松岡茉優の裸足もすてきで。
信繁をめぐるライバルのふたり、どっちも性格がきつい者同士だったが、この作業を通して、なんだか情を交わし合う。紐を引っ張り合った後、紐を中心に手を握り合うふたり。ここはなんだかいろいろ象徴的だと思う。しかも、真田紐は信繁の側室・たかからアイデアをもらったもの。信繁の女たちが真田紐で繋がった感じ。
きりは村のひとたちに「つーっと裏側から突き刺し表からぷすり」と刺繍を教えていた。
この週、朝ドラ「べっぴんさん」でも刺繍が重要な役割を果たして射た。菅野美穂(主人公の母役)は「まっすぐ刺してまっすぐ引くのよ 糸がねじれてきたらもどしたげてね」と娘に教えていた。
いよいよ最終章へ!
(木俣冬)
10月2日放送 第39回「歳月」 演出:保坂慶太
10月9日は、真田信繁が九度山から大坂城に向かった日。
10月2日放送の「真田丸」39回のラストシーンは、九度山ですっかり家族団らんしている信繁(堺雅人)の元に、オフロスキーじゃなかった明石全登(小林顕作)が「お迎えにあがりました」と暗闇から現れるドラマティックなところから最終章! の予告編に滑り込んで、ワクワク度を急上昇させた。
信之「全部こんな感じか」
信繁「全部こんな感じです」
流刑されて10年、真田家の大黒柱・昌幸(草刈正雄)が死に、一応、真田家と縁を切ったことになっている信之(大泉洋)が月代を剃った姿で九度山にやって来て、父の残した兵法を見ての台詞がコレ↑
こんな感じとは、文字ではなく◯や△などの記号だらけだったこと。お父さん、亡くなっても楽しませてくれた。
九度山での生活を心配する信之に対して信繁(堺雅人)たちはここでののんびりした生活に慣れてしまった様子(じつはそうでもなく困窮していることが後にわかるのだが)。
「お互い収まるところに収まったということでよろしいのではないでしょうか」なんて言うきり(長澤まさみ)。彼女の妙に暢気な言い回しが可笑しい。このところ口調がゆっくりめになってきているのはおばさんになってる表現か、それとも「菩薩」気分の表れか?
そう、あんまり変わってないように見えるが、1話で15歳だった信繁ももう40代だ。人間50年の時代だと考えると人生の後半戦である。三人の子持ちにもなった。
「子育てはひとそれぞれ。自分にあったやり方をみつけるしかないのかもしれんなあ」と信之と子育て話も。
この時、子育てが得手でないと言っていた信繁が、後に息子・大助(浦上晟周)と囲碁をやることによって子育てを行うところが39回のみどころのひとつ。
昌幸得意の囲碁を戦に見立てる考え方(◯や△で兵法を残しているのもそこから来たものだろうと思わせる)を大助が譲り受け、でも、なかなか上達できず悩む息子を励ますために、信繁が息子に囲碁を習う。「(息子の説明が)わかりやすい」と褒めてのばす信繁の子育て方法はなかなかすばらしい。
父子のコミュニケーションが図られているとき、床に敷かれた昌幸を思わせる獣の皮越しに信繁と大助の手合わせする姿を映すことで、昌幸も息づいていることを感じさせた。信繁自身が父の着ていたワイルドな毛皮をはおることで継承を体現している。
歳月が人の口を悪くさせるのか
サブタイトルの「歳月」は、従者たちの変化からも感じられる。
信繁、信之の子育てトークのとき、口が過ぎると三十郎(迫田孝也)が注意を受けることと、佐助(藤井隆)がきり(長澤まさみ)相手に、信之のことを、「ここだけの話、あそこの兄貴 まじめなだけでくそ面白くないじゃないですか」「あのくそ面白くもねえ兄貴が・・・」と「くそ面白くない」を連発する場面が印象的だ。
秀次の娘で名目上の信繁の側室・たか(岸井ゆき)もルソンから戻って来たら、妙に積極的になっていて「長年向こうにいたのでわたしなりにいろいろなことがあったわけですよ」と言うくらいだ。
歳月はひとを変える。とはいえ、あの口の悪いきりすら唖然とした顔をさせた佐助の変貌はどうしたことか。もはや戦国時代ではない、徳川の天下となって世は安泰(このへんを、江戸にいる薫(高畑淳子)とまつ(木村佳乃)、稲(吉田羊)たちの会話で説明)、主従関係にも変化が起きてきたということか。いや、戦に生きる素破の佐助は、戦がなくてくすぶっている。することないから絵ばかり描くしかないのだろう。その溜めがやがてくる大坂の陣で爆発するはず。
「おれ、あの人が本気出すならやりますよ どこまでもついていきますよ」とも言っているし。
もっとも忠実で真面目に見える部下キャラが、ひとかわ剥けばただのチャラい奴で上司や知らない人の前では寡黙というのは現実にもよくあること。こういう人たちってあり余るエネルギーを戦で発散しているだけだったりする。
ところで、佐助が絵を描いているのは、のちに絵草子などで真田伝説が語られる布石だろうか。
関係ないが、大助に囲碁を教える内記役の中原丈雄の白髪の坊主頭が渋くて素敵。彼は漫画家でありパフォーマーである水森亜土の劇団未来劇場の出身で、絵も相当の腕前だとか。一芸に秀でた人ってそれがなんだか顔に出ると思う。
女たちを繋ぐ真田紐
39回には、信繁たちの九度山の生活を支えたと言われる真田紐が登場した。
夕暮れ、外で、きりとはる(松岡茉優)が足でひっかけながら編んでいる場面は、当時の生活者の日常描写としてとても優れていたと思う。長澤まさみと松岡茉優の裸足もすてきで。
信繁をめぐるライバルのふたり、どっちも性格がきつい者同士だったが、この作業を通して、なんだか情を交わし合う。紐を引っ張り合った後、紐を中心に手を握り合うふたり。ここはなんだかいろいろ象徴的だと思う。しかも、真田紐は信繁の側室・たかからアイデアをもらったもの。信繁の女たちが真田紐で繋がった感じ。
紐は大事だけど刺繍もね
きりは村のひとたちに「つーっと裏側から突き刺し表からぷすり」と刺繍を教えていた。
この週、朝ドラ「べっぴんさん」でも刺繍が重要な役割を果たして射た。菅野美穂(主人公の母役)は「まっすぐ刺してまっすぐ引くのよ 糸がねじれてきたらもどしたげてね」と娘に教えていた。
いよいよ最終章へ!
(木俣冬)