沖縄地区記者・當山 雅通氏が選ぶ今年のベストゲームTOP5

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 沖縄県高校野球界にとって2015年の主役は次の3校だったと言えよう。春の県大会で同校初となる決勝進出を果たした宮古は、夏は10年振りのベスト4入り。春、宮古を倒して優勝した興南は、夏に5年振りの頂点を極めると甲子園でもベスト8へ進出。新人中央大会で初優勝した八重山は、秋の県大会決勝で興南をも撃破し九州大会ベスト8。強い興南の復活と、宮古と八重山ら離島勢の活躍が光った年であった。その中から筆者が選ぶベストゲームを紹介していこう。

5位:春季沖縄県大会準決勝 興南vs沖縄尚学

比屋根 雅也(興南)

永遠のライバル!

 2008年夏。東浜 巨(関連コラム)と島袋 洋奨(2013年インタビュー)(両者ソフトバンク)が投げ合った伝説の試合から2014年まで、春夏秋の主要3大会で興南と沖縄尚学が対戦したのは7年間で5度。1年半振りの顔合わせとなったこの試合は、完封した比屋根 雅也の活躍が光ったものの、興南にとっても沖縄尚学にとっても緊張感溢れる試合を展開出来たことが、最後の夏へも繋がっていったベストゲームと言えよう。

 2回は比屋根 雅也のスクイズ、4回は具志堅 大輝の右越えタイムリー三塁打と、興南は二人の2年生が躍動。この2点を守り切った比屋根 雅也は、決勝戦でも6回ゼロ封。計31イニング連続無失点でチームを優勝へと導いた。

 敗れた沖縄尚学だったが、夏の準決勝で再び興南と対戦すると、9回裏二死ニ・三塁で一打同点、というところまで追い詰めるなど、秋の初戦敗退から春夏連続4強と、見事に立て直してきたのだった。(試合レポート)

4位:第97回沖縄大会1回戦 普天間Vs八重山商工

與那原 大剛(普天間)

雷光は新しい主役の到来を告げるものだった!

 夏の大会初日、普天間と八重山商工の戦いは一進一退の攻防に包まれた。普天間の宮城 優大と高良 雄士にタイムリーが生まれると、八重山商工も仲嵩 勇雅に2点打が飛び出すなど2対2の同点でゲームは延長へ。10回裏、八重山商工が無死一塁としたところで天空に突然雷光が走る。その後の大雨もあり翌日再試合となる波乱の幕開けとなったが、その雷光は新しい主役の到来を告げるものだったのかも知れない。

 2014年秋は2回戦で去り、年明けの春も1回戦で敗退していた普天間・與那原 大剛(2015年インタビュー)だったが、この試合と翌日の18イニングを一人で投げきって勝利を収めると夏の主役へと躍り出、チームをベスト8へと導いた。またそれだけではなく、ドラフト会議において読売ジャイアンツから3位指名を受けるなど、自身の持つポテンシャルをプロに認めさせたベストゲームであった。(試合レポート)

[page_break:3位:秋季沖縄県大会決勝 八重山vs興南 / 2位:春季沖縄県大会準決勝 宮古vs豊見城]3位:秋季沖縄県大会決勝 八重山vs興南

仲山 琉斗(八重山)

県内不敗の比屋根を倒した八重山が嬉しい初優勝!

 春の県大会、チャレンジマッチ、夏の選手権沖縄大会と、2015年県内公式戦不敗を続けていた興南・比屋根 雅也は、秋の県大会でも決勝へ進出。クロスステップから放る角度のある球は、好調八重山打線といえども攻略は難と見ていたが、4回裏、クリーンアップの3連打が興南鉄壁の守りを狂わせる!エラーと悪送球などが絡み3点を奪うと、投げては仲山 琉斗が要所を締める1失点完投。比屋根 雅也との投げ合いを制し、八重山を同校初の秋季大会初優勝へと導いたベストゲームを演出した。

 八重山地区新人大会からこの決勝まで13戦無敗とした八重山は、初の九州大会でも鹿児島城西を相手に5対1で快勝(試合レポート)。その後、九州覇者となる秀岳館に敗れたものの、堂々のベスト8入りを果たしたのだった。(試合レポート)

2位:春季沖縄県大会準決勝 宮古vs豊見城

松川 竜之丞(宮古)

敗色濃厚の崖っ淵から歓喜のサヨナラで初の決勝進出!

 6回表、味方のエラーで1点を失った宮古・松川 竜之丞。追加点を奪おうと粘る豊見城に9回表の攻撃も二死二塁とされるが、この日140球目となる渾身の球で三振に斬り、その裏の攻撃に望みを託した。

 だが、先頭打者が打ち取られると次打者の当たりもショートゴロ。ダメかと思われたが、硬くなっていたのは相手も同じだった。エラーで出塁すると、4番笠原 崚央はツーストライクと追い込まれたものの、ここから粘りと意地で9球目をレフト前へと運び一・二塁とした。ここで打席に立ったのが松川 竜之丞。4球目を弾き返した打球は、センターを襲う同点のタイムリー二塁打へと変わる。最後は、代打下地 翔太がレフト前へ運びサヨナラのランナーが生還。宮古にとって春季大会初の決勝進出は、劇的なサヨナラ勝ちとなるベストゲームでもあった。

 その後宮古は、夏の選手権沖縄大会でも10年振りとなる準決勝へ進出。宮古島から初の甲子園出場という悲願は残念ながら持ち越されたものの、その夢近しを印象付ける宮古ナインの奮闘が光った2015年だった。

[page_break:1位:第97回沖縄大会2回戦 沖縄尚学vs那覇商]1位:第97回沖縄大会2回戦 沖縄尚学vs那覇商

左から中村 将己主将、神里 廣之介投手(沖縄尚学)

これが真の諦めない野球!名門が見せた奇跡の逆転劇!

 9回表の相手の攻撃が終わり得点は3対0。春3位の沖縄尚学の夏がここで終わるのかと思われたが、名門の底力が爆発。二者連続ヒットと四球で無死満塁とすると、ベンチが代打で送った菊池 塁が初球をレフト前へと運び1点。なお満塁から与那覇 廉が犠牲フライを放ち2点目を奪うと、次打者の内野ゴロの間に三塁走者が生還し同点に追い付いた。

 延長11回表、二死満塁から那覇商は代打屋良 朝哉が左中間を破る走者一掃のタイムリー三塁打を放ち再び3点をリード。今度こそ、と思う那覇商だったが、9回でマウンドを降りていたエースの後を継ぐ投手陣に、プレッシャーがのしかかっていた。2つの四球にワイルドピッチで労せず走者をためた沖縄尚学は、与那覇 廉がレフトへの二塁打を放ち一気に1点差。さらに死球と単打で満塁とすると、主将中村 将己のタイムリーで同点。続く比嘉 優真が初球をセンター前へと運び、劇的なサヨナラ勝ちを収めた。

 2013年、7回裏から8点差を逆転して明治神宮野球大会を制した沖縄尚学(試合レポート)の姿はまだまだ記憶に新しいところ。2度の崖っ淵から這い上がったこの試合こそ、名門に受け継がれる諦めない野球。筋書きのない、まさにドラマティックなベストゲームだった。

 以上、あくまで個人的主観で選んだベストゲーム5であるが、選手権石川大会の決勝で8点差をひっくり返した星稜とまでとはいかないものの、やはりサヨナラゲームというのは観ている者を興奮と歓喜の渦に巻き込む。但し、何度もベンチや監督さんたちを取材してきた者として、彼ら指導者たちの代弁をさせてもらうと「こんな胃が痛くなる試合なんか、ベストゲームではない」との答えが返ってくるはずだ(笑)。

 その他夏1回戦のコザvs名護、準々決勝戦の沖縄尚学vs普天間、秋の1回戦前原vs糸満など、ここでは語らなかったがもっと多くのベストゲームがあった2015年の沖縄県高校野球。長き冬のオフシーズンを経た2016年も、高校野球が見せる熱きスピリットとドラマに期待したい。

(文・當山 雅通)

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