【侍ジャパンU-18代表コラム】アメリカ打線を抑え込んだ郡司 裕也の「頭脳的リード」を探る

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 8月29日(土)、「第27回 WBSC U-18ベースボールワールドカップ」1stラウンド最初のハードルであるアメリカ戦を3対0で乗り越えた侍ジャパンU-18代表。今回は140キロ台の速球、落差が鋭いフォークで5安打完封勝利をあげた佐藤 世那(仙台育英)の側でなく、佐藤をリードした仙台育英の同僚・郡司 裕也のマスク越しに、史上初のU-18年代アメリカ戦完封を分析していく。

「フォーク」を武器にした理由

佐藤世那をリードする郡司裕也(仙台育英)

 1stラウンド5試合全てナイター開催となっている侍ジャパンU-18の先発メンバーは、試合当日の朝に言い渡される。「僕らは、いつも強い相手になると燃えるのですが、今回も『やってやるぞ!』と(佐藤)世那と一緒に燃えましたね」。郡司 裕也が振り返る仙台育英3年生バッテリーの先発が言い渡されたのも試合開始から12時間を切った朝であった。

 その一方で、郡司の準備は万端だった。アメリカは初戦でチェコと対戦し、11対1の7回コールドストレートの対応力の高さ、打球速度、パワーはとても高校生とは思えないほどハイレベル。次の塁を狙う走塁姿勢も卓越していたアメリカ打線。しかし、郡司は映像を見てある弱点に気が付いた。

「彼らはリーチが長いので、外角系のボールに強いことが目につきましたが、凡退した内容を見ると縦の変化球が有効かなと思いました」。

 指揮官の西谷 浩一監督も同様の感想だった。「佐藤の変化球をアメリカの打線は嫌がるかと思いました」。2人に託した理由はそこである。早速、郡司は佐藤 世那のもとへ向かう。「世那と話し合って前半はとにかくフォークを見せる投球にしました」。変化球の選択も決まった。

 迎えた戦いの舞台。2回表、5番のプラットをいきなりフォークで空振り三振を奪うと、6番、7番も三振に打ち取り、三者連続三振。まさに狙い通りの配球が決まった瞬間であった。

勇気ある「ストレート中心」への一時切り替え

 しかし敵もさるもの。すぐにアメリカ打線はフォークに狙い球を絞る。3回表、二死から1番モニアクにフォークを打たれ二塁打。ここで郡司は勇気ある決断を下す。

「今日の世那のフォークならば、日本ではフォークを継続しても打たれることはないのですが、アメリカの対応を見てこのままではまずいと思いました。リーチは長いですし、しっかりと狙い打たれるだろうという直感がありました。世那もそう感じていたようで、あいつと話をして、いったんストレート中心の攻めに切り替えました」

 この危機察知能力が功を奏す。フォークに頭があったアメリカ打線は、佐藤の140キロ前後のストレートに対応ができない。スイング対応への迷いが見えたところで、バッテリーは再び決め球にフォークを使っていった。

 その真骨頂が見えたのが両者無得点で迎えた5回表。一死満塁とこの試合、最大のピンチを迎え、打者は2番・ラザーフォードの場面である。

 1球目から出方を確かめるためにいきなりフォーク。ラザーフォードはタイミングが全く合わない空振り。郡司はこのスイングを見て「フォークで打ち取れる」と考えた。

 そこで2球目はボールゾーンのストレートで様子を伺い、3球目は再びフォーク。狙い通りの二塁ゴロ併殺に打ち取り、窮地を切り抜けた。

 ピンチの後にチャンスあり。その裏、先頭の伊藤 寛士(中京大中京)が右前安打で出塁すると、「甲子園でも1回だけしかやっていないので、かなり緊張した」郡司が送りバントを成功。一気に3点を先制し、侍ジャパンU-18は一気に試合の主導権を握ったのである。

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郡司裕也(仙台育英)

 フォークと思えばストレート。ストレートと思えばフォークと迷いを極めるアメリカ打線。こうなると佐藤 世那・郡司 裕也の仙台育英バッテリーを止める者は誰もいない。

 佐藤の出来もそこに輪をかける。郡司は試合後、こう話してくれた。「ストレートの勢いは甲子園の時よりずっと良いですし、何よりコントロールが一番良い。フォークも甲子園の時より落差も、コントロールも格段に良かったです。両方が伴っていたからアメリカ打線に勝負できたと思います」

 6回表、一死一塁から5番・プラットを内角ストレートで見逃し三振。「あれは会心のストレート、攻めでした」と郡司が振り返るようにストレートも大きな武器となった。

 一方の佐藤も自分の投球に手応えを感じていた。「舞洲ベースボールスタジアムはスピードガンもないので、スピード面を意識することなく目の前の打者を打ち取ることだけに注力して、初回から全力で飛ばしていました。今日、コントロールが良かったのは、フォームのバランス、リリースのタイミングが今まで一番良かったので、ストレートも走っていたと思います」

 9回表。4番・クインダナをフォークで三振に打ち取りまず一死。5番・プラットには5安打目となる右前安打を打たれたが、6番ベンソンは二飛。そして最後は郡司の強肩が炸裂する。7番ストップの場面で、プラットは盗塁を仕掛け、郡司はストライク送球で盗塁阻止。この瞬間、U-18年代初となるアメリカ戦完封劇は完成した。

「狙い通りの配球、リードができた試合でした。捕手にとってまさに会心の試合です」と笑みを見せた郡司。普段から厳しい女房役も「今日の投球については100点満点を付けてもいいんじゃないですか」と佐藤を褒め称える中、舞洲ベースボールスタジアムの夜はふけていった。

「アメリカ戦完封」の意義と効果

 もう1つ、アメリカ戦で見逃せないのはベンチの采配である。当然、試合前は継投も頭においていた西谷監督。が、完璧に抑える佐藤の投球を見て「今日は1人で行かせよう」と決断し、相手に大きなダメージを与える完封につなげた。これも2年前からの蓄積があったからだ。

 第26回 IBAF 18Uワールドカップ 2013で1stラウンドでは別グループだった侍ジャパンU-18とアメリカはスーパーラウンド最終戦で対戦。すでに翌日行われる両者の決勝進出が決まっていたこともあり、継投策を選択した侍ジャパンU-18だったが、2番手以降が痛打を浴び4対10と大敗。翌日の決勝戦でも松井 裕樹(現:東北楽天)が奮闘するも2対3で敗戦し、世界一を逃した。

 しかしこの試合で仙台育英バッテリーは一瞬の隙さえも見せず。アメリカはもし、決勝戦で対戦したとしても、迷いの中で侍ジャパンU-18と対峙することになる。その効果と影響は計り知れない。

 だからこそ、5安打完封の佐藤の投球は今後の高校野球史に語り継がれる一世一代の投球。それを盛り立てた郡司は影のMVP。いや、この試合の立役者ともいっていいリード。今後、この2人がどの場面で再び力を発揮するのか。ますます目が離せない。

(文=河嶋 宗一)

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