一ノ瀬文香―いちのせあやかOfficial Blogより

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 4月19日に女性芸能人同士で初となる結婚式を挙げたタレントの一ノ瀬文香(34)と女優・杉森茜(28)が都内の区役所に婚姻届を提出するも、不受理になっていたことが5月8日にわかった。昨今、注目度が高まっている「同性婚」をめぐる議論を活発化させる行動として賛同の声が上がっているが、一方で「やり方がおかしい」「売名行為」などといった批判も巻き起こっている。

 結婚式のニュースは世間の大多数が祝福していたように思えたが、なぜ今回は賛否両論になってしまったのか。

不受理証明に「やはり思った通り」

 婚姻届の件は一ノ瀬が自身のブログで報告しており、結婚式の数日後に区役所に提出すると窓口担当者から「女性同士なので不受理になりますが、どうしますか?」と聞かれたため、2人は不受理証明を請求。同30日に「女性同士を当事者とする本件婚姻届は、不適法であるから、受理することはできない」などと記された書類を受け取ったという。

 これについて一ノ瀬は、青森市の女性同士のカップルが婚姻届を提出した際に憲法24条が理由で不受理となった事例を引き合いに「憲法24条は同性婚を禁じてはいないという専門家の意見があることから理由としておかしいのではと、ネット上でも話題になった」とブログ上で指摘。その影響で今回の不受理証明には不適法の根拠が明記されなかったのではないかと推測し、「やはり思った通りにぼやかした回答となっていた」などと綴っている。

 不受理のいきさつには不透明な部分がありながらも区役所の対応は非常に丁寧だったといい、一ノ瀬は「窓口の担当者はご丁寧に『各都道府県県庁所在地などに家庭裁判所がありまして、もし、不受理の結果に不服の場合は、この家裁で不服申立をすることもできます』と、教えてくれた」と明かした。

 検討した結果、一ノ瀬は「結婚式の少し前(婚姻届を出すことに決めた後)から誘われていた『同性婚に関する人権救済申立の申立人』になることにしました」と記し、LGBT支援法律家ネットワークを通じて「同性婚が認められないのは人権侵害である」とする人権救済申し立てを日本弁護士連合会(日弁連)に求めるとしている。

「パフォーマンス」に厳しい声が相次ぐ

 この一ノ瀬の報告についてネット上では賛否両論が巻き起こった。「同性婚」自体にも賛否両論あるが、今回はそれとは違った論点になっているようだ。批判的な意見としては以下のような書き込みが目立っている。

「不受理になるって分かってて行くのは業務妨害だし単なるパフォーマンスと取られかねないよね」
「現状で法的な結婚にこだわるのは他人にワガママを押し付けてるだけに感じる」
「同性での結婚には反対はしませんが、受理されないの分かってて婚姻届を提出しにいくのは区役所の窓口の人に難癖をつけているだけに見えてしまいます」
「憲法を変えていこうと地道に活動するのは応援したいけど、いきなり区役所に押し掛けるのは他の利用者にも迷惑」
「正直、役所の人間を困らせて悪者にしたいだけのようなパフォーマンスが気持ち悪い」
「一部が行き過ぎた行動をすると 他の性的マイノリティまでおかしな目で見られてしまう」

 一ノ瀬が「やはり思った通りに」と記していたことから不受理になることを見越していたと思われるが、そのうえで婚姻届を提出したことに疑問を抱いた人が多かったようである。また、2人とも芸能人であるため、婚姻届の提出が売名行為だったと疑う声も少なからず上がっている。

 特徴的なのは批判コメントであっても大多数のネットユーザーが「同性婚には反対しないけど」と前置きしていたこと。あくまで「婚姻届の提出」という行為が非難の的になっているようだ。

婚姻届騒動は意義ある問題提起か

 その一方、二人の行動に賛同する以下のような意見も上がっている。

「やり方はどうであれ、ニュースになって問題提起になってるのだから意義はある」
「世間の関心が向いてくれるのなら一ノ瀬さんのやり方は正解だと思う。賛否両論でも同性婚についてみんなが考えるようになってるなら、黙殺されてた以前よりずっといい」
「同性婚認めてあげるべきです。受理しないのはおかしいです。日本の法律も間違ってると思う」
「誰かが行動を起こさなきゃ変わらない。勇気ある行動!応援します」
「役所にしたら迷惑でも、不受理になったという事実がないと人権侵害を問えないんだから」

 パフォーマンスであるのは誰もが認めるところだが、その意義に対して評価が分かれているといえるようだ。「不受理→人権救済申し立て」という流れが決まっていたとも考えられるが、そのやり方がベストなのかどうかは判断が難しい。そもそも現行の日本国憲法では同性婚が想定されておらず、是非を論じるレベルに達してすらいないのが実情だ。

 同性婚を想定した憲法改正の議論を呼び起こすためには、世間のいらぬ反発を避けつつ「地道な活動」を続けるべきか、批判覚悟で人々の関心を引き寄せる「パフォーマンス」が必要なのか。今回の騒動の背景には、その手段をめぐる考え方の違いがあらわれていたといえる。

 大手広告代理店・電通によると、今年4月に行った7万人を対象にした調査で「LGBT」に該当する人は全体の7.6%。13人に1人が性的マイノリティという結果が明らかになった。もはや「レアケースだから憲法で想定しなくていい」と切り捨てられる問題でないことは間違いない。その議論をどう進めていくのかも含めて、国民それぞれが考えていかなくてはならない課題といえるだろう。

(文/佐藤勇馬)