日本弁護士連合会は共謀罪創設に反対を表明している。(撮影:徳永裕介)

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通常国会で「共謀罪法案」成立は見送られて継続審議になったが、国連の国際組織犯罪防止条約の批准に向けて新たな意見も出てきた。政府・与党案のような一般的共謀罪規定を創設する必要はないとする指摘だ。これまで政府・与党は「条約を批准するためには、共謀罪か参加罪を創設しなければならない」と説明してきたが、必ずしも新たな立法は必要ないという見方もある。
 
 国連が2004年に作成した条約批准のための「立法ガイド」には、「各国の国内法の起草者は、単に条約テキストを翻訳したり、正確に言葉通りに条約の文言を新しい法律案または法改正案に含めるように試みるより、むしろ条約の意味と精神に集中しなければならない」と記述がある。これが上記の主張の一つの論拠になっている。

 刑法に詳しい海渡雄一弁護士によると、日本には既に共謀罪が13、陰謀罪が8、予備罪が31、準備罪が6あり、計57の重大犯罪については、現行でも未遂より前の段階で処罰することができることになっている。さらに、アメリカでは合法的に銃を所持することができるが、日本では徹底的に規制されていることから、犯罪の準備行為を広範に処罰していることになるという。また、「暴力団員による不当な行為の防止に関する法律」など、前回述べたように参加罪に近い法律もある。

 海渡弁護士は「これだけ広範に未遂以前の段階で処罰する法律があるので、条約が求める犯罪化の範囲をほぼカバーしているとみることは可能ではないか。条約の要請する“効果的な組織犯罪対策”をすでに講じているとして、批准できる」と主張。外務省などの説明を総合すると、批准済みの諸外国も多くの犯罪を一律に網羅するような共謀罪や参加罪を制定してはいない。

 この案について、民主党の細川律夫衆院議員(法務委員会所属)は「具体的な検討はしていないが、これで行けるならベスト」と語り、目指す方向を前向きに捉える。小沢一郎代表が「共謀罪を成立させても、国民は喜ばない」と発言したと報じられているが、細川議員もこの案なら国民も受け入れやすいのではないかとの意見。ただ、党内では検討しておらず、この案でまとまることができるかどうかは全くの未知数だ。

 一方、自民党の早川忠孝衆院議員(法務委員会所属)は「犯罪集団が法の穴をすり抜けてもいいという立場に立てば、この案もいいだろう」と、こうした意見を皮肉を込めて批判する。国内法整備に当たっては「典型犯罪を全部網羅できないといけない」として、619の犯罪を対象にした政府案の優位性を訴えた。

 外務省によると、一般論として、条約の批准に際して国内法の整備状況などの審査はないものの、締結国会議で異議申し立てがある可能性があるという。

 日本の共謀罪をめぐる動きについて取材してきた英国人ジャーナリスト、トニー・マクニコルさんは、こう語る。「共謀罪法案を通すことで、(言論の自由が侵されるなど)日本の民主主義そのものに何らかのダメージを与えることになるとしたら、外交上などで問題が生じることになっても成立させるべきではない。国内のことをまず考えないといけないのではないか」(つづく)

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