「今まで声に出せなかった人たちの声」が法制化の後押しをした。6月7日、参院議員会館で。(資料写真:徳永裕介)

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第164通常国会では、数多くの「重要法案」が継続審議となったが、中には超党派の協力で成立した法律も存在する。「自殺対策基本法」もその一つだ。

 自殺対策基本法は、国と自治体、事業主らに対し自殺対策を講じる責任を明確にしたのが特徴。自殺を個人の問題としてのみとらえるのではなく、社会的問題と位置づけた。官房長官をトップとする自殺総合対策会議を内閣府に設置し、対応状況を国会に報告することも義務づけている。

 法制化を後押ししたのは、世論だった。この春、自殺対策に取り組む全国の市民団体が法制化を目指す署名活動を展開。3万人を目標にしていたが、1カ月半の間に10万人を超える署名が集まった。

 運動を主導したNPO「自殺対策支援センター ライフリンク」のメンバー、南部節子さんは全国から届く署名を数えながら「これは今まで声に出せなかった人たちの声なんだ」と感じたという。南部さん自身も、夫を自殺で亡くしている。「やはり、あの時こうしておけば、と思うと乗り越えられない。こういうつらい経験があるんです、と私たちが伝えていかないと防ぎようがないと思う」とその思いを運動にぶつけた。

 これを受ける国会議員も政争の具にはしなかった。5月には超党派の参院議員が「自殺防止対策を考える議員有志の会」を結成。昨年の参院厚生労働委で「自殺対策を求める決議」に動いた超党派議員が中心となり、法案を取りまとめた。その中で、尾辻秀久前厚労相が「毎年3万人の人が自殺で亡くなるとは、どこか我が国に病んだところがあるのではないか。極めて大事な問題として一緒にがんばりたい」と意欲的に取り組んだことも大きかったようだ。

 法案は、衆参ともに全会一致で成立した。

 日本では8年連続で自殺者数が年3万人を超えている。日本の自殺対策は「いのちの電話」など、主にボランティアが手弁当で担ってきたのが現実だ。2001年度から国の予算はついてはいたが、06年度でも約9億1000万円(厚生労働省分)という金額。とても十分といえる予算ではなく、「もうボランティアだけでは限界を超えている」との訴えもある。

 昨年1年間で6871人が犠牲になった交通事故対策には、06年度には1兆7161億円の国費が投入されている。今後、予算措置を含めどのような具体的な取り組みがされるのかが注目される。【了】

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