東京・霞が関にある法務省旧本館(撮影:徳永裕介)

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第164通常国会が18日、閉会した。小沢一郎氏が民主党代表に就任したこともあって野党は対決姿勢を強めたが、政府が提出した法案は90%にあたる82本が成立した。一方で、「重要法案」の中でも、継続審議となったものも多い。今回は、議論の多い共謀罪創設を盛り込んだ「組織犯罪処罰法改正案」(以下、共謀罪法案)について考えてみる。

 法律違反行為を相談し合うと摘発対象になるとする共謀罪法案では、「思想弾圧につながる」「監視社会になりかねない」といった批判が根強く、推進派と反対派が衆院法務委員会を舞台に激しい応酬を繰り広げた。

 共謀罪新設の根拠となっているのは国連の「国際組織犯罪防止条約」。国連加盟国191カ国中、122カ国が批准した。政府・与党は「条約を批准するためには、共謀罪か参加罪の国内法整備が必要条件」と訴え、共謀罪創設を推し進めた。各国の事情を見ると、以前からイギリスやアメリカなど英米法を持つ国は共謀罪、ドイツなど大陸法を持つ国には参加罪が存在する。日本の刑法はもともとは大陸法を参考に作られているが、政府は共謀罪を選択した。

 この点について、推進派である自民党の早川忠孝衆院議員(法務委員会所属)は「参加罪は特定の団体を指定し、そこに参加する行為を全部処罰しようということだから適用範囲が広くなる。犯罪行為そのものを処罰しようというのが条約の基本的な考え方だ」と説明する。参加罪は特定の団体の存在を認めないことになり、憲法で保障されている結社の自由が侵される可能性があるという。

 では、共謀罪を選択した理由はどうか。政府は、日本でも共謀罪(共同謀議の処罰条項)が内乱陰謀や爆発物使用などの罪において既に採用されていることから、「我が国の現行の法制度との親和性も認められる」(5月17日衆院内閣委員会での大林宏・法務省刑事局長の答弁)と説明している。しかし、「暴力団員による不当な行為の防止に関する法律」では、暴力団の組織加入の強制などを犯罪化するなど、すでに参加罪に近い法律が存在することも事実である。

 民主党の細川律夫衆院議員(法務委員会所属)は、「捜査当局にすれば、共謀罪ほど使いやすい法律はないから、法務省あたりが飛びついたのだろう。共謀罪を採用しているアメリカの意向をおもんぱかったのもあるのではないか」と語る。共謀罪法案をめぐっては民主党も対案を示していたが、「条約批准のためには共謀罪しか選択肢がないような政府の説明を、民主党が信じてしまったところがある」という。鳩山由紀夫幹事長も条約批准の必要性を認めながら、会見で「(党内で)参加罪の検討はしていないのではないか」(6月2日の定例会見)と話している。

 政府案では、共謀罪の対象となる犯罪は619。会社更生法違反や公職選挙法違反など、およそ国際組織犯罪とは関係ないようにみえる犯罪も入る。推進派は「組織犯罪集団を罰するもので、一般の人は関係ない」と強調するが、弁護士などからは「共謀罪は言論の自由に、参加罪は結社の自由に抵触する。どちらも劇薬だ」との声が出ている。そのため、新たな選択肢への模索も生まれてきた。必ずしも新たな立法は必要ないという。(つづく)

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