解散総選挙のシナリオを描いたのは今や裏ボスの二階総務会長だった
大義がないという批判も多く聞かれる今回の選挙。しかし、それこそが戦略上の重要な狙いだ。本当の争点をボヤかし、有権者を迷わせ、低投票率のドサクサで勝利を画策する。このシナリオは、意外な裏ボス議員が描いたものだった。
解散というのは突発的にやればいいというものではない。いつでも解散を打てるようにするための“環境整備”が不可欠だ。
例えば、外交日程。外国との首脳会談を解散でドタキャンすれば外交儀礼上、最高レベルの失礼に当たる。日本の信頼は失墜し、支持率も急落するだろう。
外務省のキャリア官僚、E氏が重要な証言をしてくれた。
「正確な時期は申し上げられませんが、かなり前から、12月は外交日程を入れるなとの指示が官邸からありました。12月に解散総選挙という選択肢があるかな、との気配を感じましたね」
“かなり前”とはいつなのか? 自民党ベテラン議員、B氏が明かす。
「今振り返ってみると、9月3日に行なわれた内閣改造の前からだったね。まだ本当は総理の座をあきらめていない谷垣さんを幹事長に据えて、解散総選挙で議席を減らしても共同責任になる立場に引っ張り込んだ。
さらに幹事長留任を希望していた石破(茂)さんを窓際ともいえる地方創生担当相として“飼い殺し状態”にできたのも大きかった。石破さんはこの人事を蹴って無役(むやく)になり、次期総理の座をうかがうチャンスを待つ選択肢もあったはず。でもそうできなかった。その大きな原因は、二階(俊博総務会長)さんの党三役入りだね」どういう意味か?
「二階さんと石破さんは、以前に自民党を離党して小沢一郎さんらと共に新進党の結成に関わった同志です。その後、ふたりとも復党した“出戻り組”としても同志。党を裏切ったヤツというレッテルがあったのに出世した実力を持つことも共通です。このふたりが結託して、自分に歯向かってくることを安倍さんは警戒したと思います。
二階さんは総理の椅子に色気を持つ人ではありません。しかし石破さんは違う。地方の自民党員からも人気が高い石破さんの力を奪い去るためには、二階さんと引き離す必要性を感じたのだと思います。以前の安倍さんでは考えられない鋭い政局観だと思います。安倍さんは本当に強い政治家になりました。
でも政局を見極める眼力に関しては老獪(ろうかい)な二階さんのほうが一枚も二枚も上。今回のような入念に練られた解散シナリオを安倍さんひとりで描くのは難しいでしょう。菅さんも無理。二階さんに違いない」(B氏)
地味な人物という印象が強い二階氏だが、そんなにスゴイ政治家だったとは。でも、二階さんはなぜ石破氏を見捨てて安倍首相についたのか?
「彼は運輸族の大物議員。公共事業予算に関する権限の強化が交換条件でしょう。今、二階さんが会長を務める『国土強靱化総合調査会』という組織の権限は非常に強大です」(B氏)
この調査会は自民党内にある組織で、さまざまな部会の上に位置する。自民党の公式ホームページに二階氏がインタビュー形式で語っているコラムがあるのだが、この内容が強烈だ。抜粋して紹介しよう。
「コンクリートから人へなんて寝言を言っているわけにはいきません。(中略)コンクリートが人命を守ったのです。(中略)財政再建は重要ですが、自信を持ってその(国土強靱化事業の)重要性を訴えていきます」
ここまでストレートに言われると清々しさを感じるほど。消費増税を延長した上に公共事業の歳出が増え続けたら財政再建なんて夢のまた夢なのに……。